裁判の判決ばっか集めちゃいました(24年6月版) 傍聴小景 #123
刑事裁判の進行には大きく分けて以下の3種類あります。
つまりは、裁判の途中の様子は全然わからないけど、「判決」の部分だけ傍聴することができるのです。多くの裁判が判決だけなら5分~10分程度で終了します。
そこだけ見ても…とお思いかもしれませんが、どうしてその判決を下すにいたったかの理由を説明するに際し、事件の内容はおおまかに説明するので(裁判官によっては割愛しますが)、短期間で事件内容に多く触れるという意味では結構勉強になるのです。
という訳で、「なんで?」という疑問は残るものもありますが、判決のみ裁判特集です。
さて今回ですが、判決の裁判内で起きた事件、トラブルなどを集めてみました。
裁判のそもそも事件性と併せて、どうぞお楽しみください。
No.47 帰る場所がない男
裁判員裁判というのは短期でぎゅっと裁判をまとめることで、裁判の進行の迅速化、裁判員の負担軽減などがなされています。
とはいえ、殺人などというのは長くなりがちで、24年6月から大阪地裁で始まる殺人事件の裁判員裁判は3ヶ月という長期の裁判です。
では、紹介するこの裁判はどうだったかというと、3日で終了しました。争点が少ない事件だと3日で終わるのが最短なのです。
この事件は、自身に厚意で30万円を貸してくれた人に対して、その借金をチャラにすべく家に乗り込んで殺害を企てたという事件。被害者に執拗な取り立て行為があったとか、なにか落ち度があることはなく、ただただ自己中心的な考えからの犯行とのことでした。
ただ、被告人は見た目からも極悪人という感じではなく、犯行が未遂に終わるとその場で涙で被害者に謝罪をし、自分を警察に突き出して欲しいなどと懇願したとのこと。被害者のケガの度合いも幸いにして短く、検察官も強盗殺人の下限に近い刑との言及があったそうです。
しかし、被害者にとっても自宅で襲われたという恐怖感は拭えるはずもなく、落ち度もないことから、上記以外に酌量すべき点はなしとの判断がなされました。
正確な年齢はわかりませんが、60代は軽く超えていると見られる被告人。そこから7年どのように刑務所内で過ごし、出所後は何が待ち構えているのだろうと思っていたところ、傍聴席からいきなり、
と大声が。
恐らく事件現場付近にお住いの方なのでしょう。もう裁判が終わっていたのと、特定はできなかったので全体に対する軽い注意で済みましたが、事件のそもそものやるせなさと相まって、なんとも言えない後味の悪いものとなりました。
No.48 働かなきゃいけない男
被告人は路上にて13歳の被害者に対して、いきなり着衣の上から胸を揉むといったわいせつ行為を行った疑い。痴漢などの行為により罰金刑に3度処せられたこともあり、根深い性癖が判決においても指摘されておりました。
裁判始まる前、手錠をつけられて法廷に入ってきた被告人。そして裁判が終わった被告人の手にまた手錠が。
すると、裁判長から
そう、執行猶予判決は、その場で身柄拘束の必要がなくなるので手錠の必要がないんです。これは不当な身柄拘束だ!と傍聴人の僕が立ち上がろうとしたところ(別にしてませんが)、職員が一言
被告人は、罰金前科があると書きましたが、その一つは直近に行われてもののようです。
罰金前科は、それを完納できない場合に、1日あたり5000円に換算して労役場という場で留置されるという扱いを受けます。
この裁判が終わっても、その労役場留置は継続しているので手錠の手続きは問題ないとのことでした。
今回はトラブルでなくてよかったですが、手錠というのはやはり犯罪者としての周囲の目を強くすることもあり、扱いは相当慎重である必要があります。僕も一番最初に手錠をつけられた被告人を見たときは、言葉にできないショックを感じました。
法律に関わる方々も決して安易に扱っている訳でないことが伝わればよいかなと。
No.49 何をしたのかわからない男
最近の大阪地裁の判決裁判中の事件といったら、断トツでこれです。
それまでの審理を見ていなかったので、どんな裁判か前情報がなかったのですが、法廷に入るなり驚いたのが、裁判所の職員がインカムを持っていろいろやっているのと、被告人席を取り囲むよう設置された警備のイス。
職員さんは「なんで入って来るの?」って目をしていましたが、その対応を見たら自ら相当ヤバいのだと言っているようなものです。
法廷の扉が開いて被告人が入って来るかと思ったのですが、なかなか入ってきません。
しかし、小さく「痛い痛い!」「ヤメロ!」という声が聞こえてきます。そしてその声が徐々に大きくなってきました。法廷に入ると声が大きいどころか、とてもうるさいと感じるレベル。最初に聞こえた小さい声は、どれほど遠い距離からの声だったのか。
両脇に抱えられるように法廷に入っているので、大きな動きはできていませんが、身をよじらせながら大声を出し続ける被告人。「拷問止めろ!」「謝れ!」とも言っていますが、どう見ても必要措置なので、こちらは傍観するしかできません。弁護人も黙って座っています。
裁判長が入廷しても大声は止むことなく、判決の最中も
などと騒ぎ散らかしていました。普通に無差別殺人やるとか言っている人を執行猶予つけられても嫌なのですが…。
そして、この人が何をしたのかですが、裁判ではさっぱりわかりませんでした。
判決の宣告では、検察官の起訴状の通りに認定していたという点と必要事項だけ言って、裁判官もとっとこ出て行ってしまいました。
ちなみに僕も宣告後、すぐ法廷を出たのですが、どうやらその後も暴れ続けたようで、職員さんに椅子を投げつけて、改めて身柄を抑えられてしまったようです。
No.50 決して謝らない男
何をどうやっても慣れることのない、そして慣れる必要もない交通死亡事故の裁判。
法廷に入ると傍聴席には明らかに遺族と思われる方が集団で前方を占拠。ものものしい雰囲気を漂わせています。
被告人はスーツを綺麗に着こなしている50代の男性。別に自由といえばそれまでなのですが、片耳にピアスを開けていて、なんだか独特の雰囲気を醸しています。悪さ系という雰囲気でもないのですが。
被告人は深夜、四車線ある道路の第三車線を準中型貨物自動車にて運転。
しかし工事により第三~第四は矢印板などで規制されていたものの、それに気が付くのが遅れて、そこに立っていた工事関係者男性に衝突して死亡した疑い。
交通事故関連裁判も多数見ていますが、こういった工事の方、または誘導の方が被害にあうケースというのは初めて傍聴しました。非常に危険が伴う仕事であることはご家族としても感じる部分とは思いますが、いざ本当に事故に遭われるとなると、言葉にできない思いに駆られるのは想像に難くありません。
聞けた判決の内容では、居眠りであったり、スマホを触っていた事情は認められませんでしたが、執行猶予5年というのはつけられる最大のもの。被害者家族の思いがとても強いか、もしくは被告人の事故、もしくはその後の態様に問題があったことなどが推測されます。
判決が終わり、裁判所の職員によって、まずは遺族の方から退廷を促されます。これは裁判所付近での被告人との接触を避けるための措置です。
しかし遺族の一人が、傍聴席側に立ちながら被告人と距離を詰めて
と詰めていました。特に手は出していませんが、非常に強い口調に思いが伝わります。
検察官は女性だったのですが、その間にすかさず入って止めていたのがとてもかっこよかったです。
というか、謝ってねぇのかよ…。
被告人は謝るでも、逆に挑発するような態度を取るでもなく、やや下を向いたままぼーっとしていました。
そんな訳で、今月の判決特集でした。やっぱ判決だけでも想像というのはいろいろと膨らむものです。
今回の記事の内容は動画にもしていますので、こちらも併せてご覧ください。
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