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【速報】歩み寄りを見せる裁判所 大阪高裁、自治体へ通訳・パソコンテイク担当者の派遣申請

「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」

日本国憲法第82条

裁判が一般に開かれていることを示すこのシンプルな一文。しかし、シンプルが故の疑問も発生する。何がなされていれば「公開」というべきなのだろうか。

実際問題として、傍聴には様々な制約がある。
一部の海外の国では、裁判の様子がテレビ、ネットにて放送され広く裁判が公開されている。しかし日本では、ニュースで用いられるための数分の撮影(実質的には静止画)が認められているだけで、審理の様子が撮影されることはない。これはあくまで一例で、傍聴を続けていると様々な制約を感じる。

時に、日本の司法は遅れているなどと指摘される
その指摘に納得する一方で、私はその遅れに対して、関心を持つ、声を挙げる市民が少ないことにも課題があると大いに感じている。そしてこれは、私の発信力の弱さにもよるところなのだが…。

そのような前段の中で、2024年9月9日、大阪高等裁判所で控訴審を控える公判において、一つの姿勢を大阪高等裁判所が示したことは、是非皆さんも知っていただきたい。

同年9月に予定されている上記控訴審において、障害を抱える傍聴希望者、弁護人の要望を受け大阪高裁は自治体に対して、傍聴席に通訳・パソコンテイク担当者の派遣申請を行う姿勢を見せたことが明らかになった。

この一文では、どこがトピックなのかわからない読者の方も多いかもしれない。
裁判というのは、法廷に立つ当事者が何かしらの障害を抱えている、もしくは日本語が通じない外国人が被告人の場合など、各種通訳を手配していた。
しかし、傍聴人が同じく障害等の事情を抱えている場合、同様の配慮がなされることはなかった

この点について過去にSNSで発信した際には「訴訟当事者でなければ当然だろう」という声が多数寄せられた。正直、私もその気持ちに近いというか、「致し方なし」とも言えるし、その問題に直視していないとも言える感情であった。

しかし、公開の原則に照らすと、果たしてそれは公開と呼べるのかという疑問に直面する。

また、当事者の利益という観点もある。
私もこのような仕事をしていると様々な声が寄せられるが、大変ありがたいことに当事者の方から「裁判で争って不安な中、傍聴を続けてもらっていることが励みになりました」との言葉をいただくことがある。
この点で考えると、傍聴者が充分な配慮がなされていない状況に対し、当事者に不利益を生じさせることも想定されうる。

そういった事情から、傍聴希望者の要望に対して、裁判所が応じる姿勢を見せたことは大きな歩み寄りと表現した。
ただ、この点については何が答えで、どこがゴールなのか私の中でも考えを整理できていない。是非、いろんな意見を頂戴できたら嬉しく思う。

以降の文章にて、私が把握するこれまでにどいういう経緯を経て今回に至ったのかという点と、今回の大阪高裁の姿勢について私が関わることができた点についてご説明するので、興味がある方は以降も読み進めていただきたい。

時系列をニュースと共に

「時系列を」なんて偉そうに書いているが、昨日の速報に対しての記事作成なので詳細の調べなどは十分でなく、その点は今後記事が出るようであればそちらにお任せしたい(とプレッシャーをかけてみる)
あくまで大枠として把握していただく意図として捉えていただきたい。

まず最初に紹介したいニュースがこちら。

2023年12月ニュースで取り上げられ、トピックとしては6月に起きたようだ。
聴覚障害を持つ傍聴希望者が福岡市に手話通訳者の派遣を求めたところ、市からは当事者ではないとして断られた事例。
これを事例①とする。


時系列的には、2024年2月以降とあるトピックがあったのだが、これは次の段にて解説を行う。あくまで、その間に一つ影響しうる動きがあったとだけ覚えていただきたい。

その後裁判所は、同年3月27日議決、同4月15日より実施として「裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」の改正を公表した(当要領にリンク)。
この中の別紙「7 合理的配慮の具体例 ⑶ 合理的配慮に当たり得る柔軟な対応の具体例 ケ」において以下の記載がある。

裁判上の手続において、公開及び非公開の別にかかわらず、障害者の理解を援助する者が同席できるよう取り計らうこと。ただし、非公開の手続においては、情報管理に係る担保が得られることを前提にする必要がある。

同要領内より

また報道によると、最高裁は同年6月「同じような事情がある裁判では公費負担で手話通訳者を置くことも選択肢の一つとして考えられる」と通知したともされている。

それも踏まえて次の事例②のニュースはこちら。

最高裁が、同年7月の判決において、公費で手話通訳者の配置、12人分の車いす用スペースの確保、法廷前に角度が緩やかなスロープが設置されたというものだ。
これは先の最高裁の通知に関連する事象として、その後の他の裁判所への動きの可能性を感じさせるものであった。


そして直近起きた事例③のニュースがこちら

同年8月札幌地裁は、弁護団による公費の手話通訳の実施の要請に対し、「裁判所の費用で法廷に手話通訳者を置くことはできない」と回答した事例だ。

これらニュースについて詳細はわかりかねる部分があるが、以下の3点に注目していただき、次の段へ進んでいただきたい。

①通訳を手配するのは誰なのか
②通訳はどこに手配するものなのか
③費用負担の有無について


私の関わりとして

さて、私のnoteをお読みいただいている方なら、お気付きの方もいらっしゃるかもしれない。
長らく連載をした、法廷録音の是非が前面に出つつあったストーカー規制法違反の裁判で傍聴席の手話通訳者の話題が出ていたことを。

実はこの裁判における手話通訳者の話題は、前段でいうところの福岡市の事例(23年12月報道)裁判所の要領改正(24年4月実施)の間に行われたものであった。その裁判と、要領改正がリンクしているかは不明である。

その内容を説明すると、聴覚障害を持つ傍聴人に対して、弁護人から裁判所による費用負担で通訳人の手配を依頼したもののそれは採用されなかった。ただ、弁護人が手配するのであればそれを妨げるものではないし、傍聴席も通訳人も含めて席の確保と前面で聞き取りやすくすることを約束した。(弁護人が費用負担して、裁判所に領収書を出すと提言して、「そんなの通る訳ない」と即却下されたことも付け加えておく)

しかし、その通訳人がパソコンテイクとして電子機器を用いる手法は、代替手段の有無の検討、傍聴席の安全性(パソコン用に別途机の用意することに関連すると予想)により却下された。
ただ、配慮としては弁護人の弁論はもとより、検察官の論告においても口頭読み上げだけでなく、スクリーンを用いた実施の相談の声かけをし、検察官も応じた。また、裁判長も判決宣告時はスクリーンに判決文を映しながら読み上げる手法がとられた。
個人的にはかなり感動した。

そして、この度大阪高裁が市へパソコンテイクの要請を判断した裁判というのは、上記裁判の控訴審なのです。
引き続き弁護を担当をされている中道弁護士、そしてなにより傍聴を希望を高裁に要請した、障害特性を持つご本人(以下、要請者)の執念のたまものとも言える結果だ。


そして実は、大阪高裁がその判断を弁護人、要請者に伝える際、私が記録係としてその場に同席した。その要請者が、その場の流れをリアルタイムで把握できるよう、私がパソコンで打ちこんでそれを見せるという手法を中道弁護士が高裁に要望し、それを了承いただいた形だ。

その高裁の判断にも驚いたが、もっと驚いたのが、あらかじめ高裁がその要請者に説明できるようモニターや文字情報を用意していたこと。
私はこのような場に立ち会うことは初めてだったが、中道弁護士もその対応に感動していたので、非常に柔軟な対応を見せたということが伺われる。

そして、改めて今回の高裁が見せた、裁判に向けての配慮の姿勢と事例との違いを見ていく。

今回、要請者は「裁判所がパソコンテイク担当者を手配する」ことを希望した。
それに対し、裁判所は「要請者が住む自治体に対して、裁判所から派遣を要請する」と回答。またそれに対して、該当自治体からは「無料で派遣することが可能」と回答を受けたとしている。

中道弁護士によると、もともと自治体の多くは、障害者の社会活動への参加促進などのため通訳等の無料派遣を行っていると説明した。
確かにインターネットで「(自治体名)」「通訳」「派遣」と検索すると、自治体の該当サービスのページにリンクすることができる。

ここで事例①の福岡市の事例、注目点①の「通訳を手配するのは誰なのか」、②「通訳はどこに手配するものなのか」を振り返っていただきたい。
この事例では、傍聴希望者が、市に対して通訳手配をして断られたというものであった。

中道弁護士によると、多くの自治体による通訳派遣はあるものの、それが適用される事例か、その意義の説明というのは非常に手間を要する。その点を今回、裁判所が行ったことは大変ありがたいことであったと説明した。


注目点③「費用負担の有無について」については、ここまで記載の通り自治体による派遣であれば公費は発生しないこととなるが、傍聴希望者の人数などによりかかる事情は異なると考える。
そのため、事例②、③については、その辺りの背景がありうることを考えながら読む必要もある。


また、裁判所が要請したことに着目しているが、しれっとパソコンテイクが認められたことにも触れる必要がある。
なお、地裁では認められなかったとしたが、パソコンテイクそのものを否定したのでなく、その期日の特性(論告弁論、判決宣告)からパソコンテイクでなくスクリーンに映し出しで代替可と判断された可能性を補足しておく。
このパソコンテイクの要請に対して、裁判所は「承知しました」「(机等)裁判所で用意します」と回答している。


今回の事例は、あくまで開かれた裁判に向けた一歩であり、今後も関心を持って追っていきたいと考える。
また、今回の要請が実現したのは裁判所の歩み寄りはもちろんだが、要請者による裁判所の実情も把握した上での要請の姿勢が届いたものと思われる。

その行動力に賛辞を送るとともに、できるだけ多くの方に裁判傍聴を広げたいと思っている身として、新たな仲間ができたことを大変嬉しく思う。

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