ゲストハウスに忍び寄る黒い影。性被害者が10名に至るまで発覚しなかった驚くべき理由 傍聴小景 #106(準強制性交等など)
20代で国内47都道府県は踏破しているので、それなりに旅好きと言っても問題ないだろうと思っている僕。そんな僕の前に驚きのニュースが流れてきました。
直接の記事引用などは避けますが「岡山 ゲストハウス 事件」などで検索してみてください。
岡山県でゲストハウスを運営していた男性が、女性宿泊客に対して薬物を飲ませて性的暴行をしたとされる事件です。
ホテルの様なセキュリティ面の安心はなくても、旅費を抑えつつも旅行、宿泊したい人を温かく迎えてくれるゲストハウスでのこのような事件はやはり目を引いてしまいます。
善意であったり、人の信頼に乗じた犯行というのは、犯情としてはやはりワンランク上の悪質さを感じます。
事件報道に最初に触れたのは2022年でした。そこからだいぶ待ちました。
2024年2月1日、岡山地方裁判所で初公判が行われるという情報を得て、寒空の中行ってきたのであります。
岡山地裁へ ~新幹線か普通列車か~
岡山地裁へは岡山駅から徒歩15分程度。
主要都市の裁判所は、最寄りがその主要駅でなかったり、駅から離れていることが多いので、この距離くらいというのは非常に助かるところ。
岡山駅は、岡山県の中心駅であり、ここから四国方面への鈍行電車も出ており、交通の要所としてかなり重要な駅。新幹線では「のぞみ」も停まるので非常に行きやすいんだけど、実は関西人にとってはなんとも微妙な距離感の場所。
のぞみに乗ると、新大阪からは50分弱程度。寝るにしては、寝過ごしが恐いし、この乗車時間での特急料金はちともったいない。
じゃあ普通列車でとも考えるけど、所要時間は約2時間半。旅行としてなら、その乗車時間も一つの醍醐味だけれども、傍聴のためと考えるとなんとも微妙な時間なのです。今回は行きは新幹線、帰りは鈍行で帰ってきました。
小雨がぱらつく中、岡山地裁に到着。
事前に傍聴券配布の裁判でないかの確認はしたものの、大きく報道されていた事件でもあるので、1時間ほど早めについて館内をぶらつくことに。
入口では、普段行っている大阪地裁と同様に手荷物検査がありました。
大阪、その他の場所では空港検査場のようなところに荷物を通すのと、自身もゲートをくぐり、金属製品のチェックを行いますが、岡山地裁では検査の人の前で手荷物を広げる方法でした。身体のチェックは他と同じくゲートを通りました。
カバンにチャックが多かったり、中にビニール袋があると、それぞれを開いて全部中まで見られて、なかなかに面倒でした。
ふと気になって「荷物検査 機械 値段」で調べてみました。購入だけでなく、レンタルというのもあるらしく、貸出期間は不明ながらも50万円~200万円くらいだそうです。岡山地裁さん、いかがでしょうか?
法廷は1階の100号法廷。
もし同じフロアに複数法廷があれば、101、102…などと名付けられるだろうから、1階にはこの法廷だけなのかなと思っていたのですが、他にも151号法廷、152号法廷がありました。やはり、慣れない場所は調子が狂います。
開廷を待つ人が徐々に増えてきました。やはりカメラもスタンバイしています。
カメラには「RSK」と書いていました。地元局なのは間違いないとしても、何の略かイメージが湧きません。
どうやら昔からの愛称「ラジオ山陽」の「Radio Sanyo K.K.」から取っているようです。ちなみに「K.K.」って株式会社のことってみんな知ってました?僕、この件で調べて初めて知ったのですが…。
そんなこんなで開廷の15分前くらいですかね、ついに法廷の扉が開いたのでした。
第1回公判概要 ~弁護士1名に対し相手の数は~
傍聴席は90席強ありました。しかし、記載の通り傍聴席の埋まりは25席程度。
記者さんらしき方は複数いましたが、記者席の確保もなかったので、そう混雑することはないと裁判所側も認識していたようです。さすがに事件から結構経っていますしね。裁判が進行し、報道などが再度されることがあれば、また増えることもあるのでしょう。
検察官は2名、その後ろには被害者参加弁護士が4名いました。
さらにもう一つ被告人席と傍聴席の間に遮蔽措置がされていました。後で分かるのですが、今回の事件の被害者の方が1名参加されていたようです。
それに対して被告人サイドは40代くらいの弁護士が1名。数が全てではないですが、圧倒されてしまわないのか心境が気になるところです。
刑務官に挟まれ、被告人が入廷してきました。
身長は高くなく、ふくよかというか、ガタイが少し良さげ。短い髪の毛はツンツンしてるでなく、ぺたーんと頭についています。目は幾分とろーんとしているというか、泳いでいると感じなくもない。
起訴されている人物と同一か確認する人定質問では、職業を「旅館業をやっていました」と答えました。
事件の概要(起訴状の要約)
起訴状は9通あり、事件としては11件が読み上げられました。一番古いもので一昨年10月で、最後に起訴されたのが昨年6月。
事件が多くて裁判がなかなか始まらなかったのはわかります。
後述しますが、本日段階では、その後の裁判の進行予定が定まっていなかったので、これだけ待たせるなら、どうせならもう少し進行が定まってからでもよかったのでは?と思ったり、この後の裁判の流れを見ててまぁ時間かかるわなと納得する部分もあったり。
起訴状に関しては、数が多いので、ざっくりまとめてお伝えします。
僕は記事の見せ方上、4つにまとめさせてもらいましたけど、当然裁判ではそんなことはしません。1つ1つの事件として、それぞれ読み上げられます。
長かった…。
何件で終了するかなんて知らされないので、聞いていて次々と読み上げられる事件の酷さに驚くのはもちろんのこと、どこまで続くんだという恐ろしさに驚きというか圧倒されました。
このとんでもない数になった要因の一つが「準強制〇〇」という罪名の特徴の一つでしょう。
「準」とつくと、「準ずる」などを想像して、強制わいせつほどではないのかなと思う方もいらっしゃるのですが、ここでの意味は違います。
起訴状の内容で概ねご理解いただけると思いますが、睡眠状態であったり(今回のような薬物投与関係なく普通の睡眠も含む)、泥酔、手足を縛られているなど物理的なものなど、抵抗することが著しく困難な状況で行われる行為を罰するものです。
今回、盗撮被害の方以外、強い睡眠状態にあったため、自身の性被害に気付かなかったのです。なので、これほどの件数となるまで捜査されることもなく被告人は事件を重ねていったのです。
発覚の経緯は追々。
罪状認否 ~指示に従わないと殺されると思った~
罪状認否といって裁判官より、読まれた事実についての意見を被告人、弁護人の順で聞かれる手続きです。
被告人がなんかまごついているなと思ったら、弁護人が「あまりにも事件が多いので、事前に意見をまとめているので、それを読ませる形にしたい」と申請し、被告人に紙が渡されました。
たまに、このように事前に用意された紙を読み上げるという対応があるんですが、僕はあまり好きではないんですよね。
もちろん色んな事情があるでしょうが、どうしても弁護士のストーリーに被告人を沿わせているだけで、被告人に他人事感を覚えることがあるんですよね。
そして、その紙が読まれます。
そして、弁護人からも同種の意見が述べられ、以下が付け加えられました。
否認しているとは聞いていましたが、このような理由だったのですね。
恐らくですが、多くの方が信じがたいとお思いになられるのではないでしょうか。僕もその思いを否定するものではないのですが、その後の双方の主張を聞いてみないことには僕としてはなんとも言い難いのです。
というのも、僕が追っている別の裁判でも、罪を立証する検察側の主張としても心神耗弱状態であったことまでは認める上での審議というのが存在するのです。
なので、ニュースに触れた方が、「心神喪失なんてけしからん!嘘っぱちだ!」と無条件ではならぬよう、私としても記事で正す必要があるのです。
検察官による冒頭陳述
検察官が今後証拠等により立証しようとしていることを述べていきます。
なお、この項目で述べることは、あくまで立証計画であり、弁護士も同意した内容でないものも含まれる点、つまりは必ずしも事実とは限らないという点を踏まえてお読みください。
記事内では伏せましたが、裁判の中では実際に用いられた薬の名前も出ていました。
調べてみると、2つとも強い睡眠効果があり、サイトによっては「犯罪に使われてしまうこともある」という記載があったほどです。そして両方ともアルコールとの併用は止めるよう強く喚起されていました。
実際、嘔吐が続いたという被害者の方もいらっしゃったようなので、性被害はもちろんなのですが、他にも身体的なダメージという点で、相当悪質な事案です。
警察に提出した物質から、身に覚えのない睡眠薬成分が出てとても不安に感じたことでしょう。想像するだけで恐いです。
検察官からは被告人の精神障害について触れられました。
事件に使った薬を入手した経緯を証明には欠かせない事項ではあると思います。なので、今後の裁判では事件当時の被告人の精神状態などの争いになるのかと思います。
現時点での勝手な私見を述べるならば、一定の精神の影響はあったのでしょう。黒い影云々の信憑性は今後いろんな形で審議されるのかと思うので、まだなんとも言えません。
でも、脱衣場の盗撮が食事の順番云々ってのは少し納得いきません。
このような記事もあって、法的にアウトということではないのでしょうが、施設管理・防犯のためというなら館内の他にもついていたか、脱衣場カメラは具体的にどう運用していたのか、などで納得いく説明がないと厳しい気がします。
とは言え、これを一つ認めてしまうと、宿泊客に対して性的な目で見ているという印象がつけられてしまうので、他の犯行だけ、黒い影氏の指示によるものですというのも、通じないのかなと思うので、盗撮の方も無罪主張なのかなと思ったり。
あくまで私見です。
採用された証拠類 ~今すぐにでも地獄に落ちろ~
検察官からの証拠の取調べ請求に対し、弁護人が取調べを同意したものに対し、その証拠の内容の要旨が読まれます。具体的に弁護人が何に同意し、何に不同意したかは書面のやり取りだったので分かりませんでした。
それぞれの思いが伝わる内容です。
特に僕の中で印象的だったのは、BさんとDさんの内容でした。被害者の方たちは何も悪いことなどしていないのに、「何か自分が悪いところがあったのではないか」と責めてしまう心境の部分です。
僕は想像することしかできませんが、本当に信じられないことが起きてしまった、周囲も自分の心情を完全に慮ってくれる人などいなくて疑心暗鬼になってしまう。もしかしたら、悪気無くても「ちゃんとしたホテルに泊まっておけば」などという言葉もあったかもしれません。
自分の感情をどう吐露したらいいかわからない、周りも最適な言葉を見つけられないという中で、被害者は苦悩し続けているのではと想像すると、なかなか安易に言葉などかけられません。ただ、思いを聴くばかりです。
これら供述がどのタイミングでされたかはわからないのですが、警察に逮捕されて早々の取調によるものなのであれば、記憶がないという主張は当初から裁判まで一貫していることになります。
最初の罪状認否の言い分も、黒い影…じゃなかった、弁護士に言わされたのかという思いもあったのですが、意外と自分の口から出ている言葉なのか…?
ただ仮にその記憶なしを採用するとしても、そういう状態になるとわかってて薬とアルコールを摂取しているのは被告人自身です。
また、被告人の言い分でも黒い影氏は女性に薬を飲ませるのと、性交を指示したとのことですが、撮影までは指示していないっぽいので、その行為をどう説明するのか。被告人の主張が1から100まで嘘っぱちとも言いませんが、どうやっても苦しいのかなという印象です。
この日の裁判はここで終了となりました。
弁護側が無罪主張なのと、精神疾患の影響についての双方の主張と進行計画のすり合わせ(「打ち合わせ」という)のため、次回の裁判日程は確定されませんでした。
裁判は公開が原則なのに、打ち合わせって何?とお思いの方もいるかもしれません。
数ヶ月に一度しか行わない裁判で、双方が「えいやー」で主張しても対応に苦慮していては裁判はなかなか進みません。なので、最終的な進行は当然公開の場で行われるのですが、事前準備みたいなのは非公開で行われることがよくあるのです。
まぁ個人的には、例え打ち合わせであろうと、非公開にするというのは、いまいち意味がわからないのですが。
なので、今後どのように進んでいくのかは現状ではわかりませんでした。恐らく責任能力を争点として、進んで行くのでしょう。
被告人がこのような状態(もしくは「主張の方針」ともいえるかも)ですから、被告人質問をやっても、あまり新しい情報は出てこないかもしれませんね。
ですからそれ以外での双方の立証がカギになりそうです。
今後、この裁判にどう接していくかは未定ですが、裁判情報についてはしっかり追っていき、要所要所ではポイントをお伝えできればなと思っております。(裁判以外の情報は傍聴時の余計な先入観になるので基本的に入れないようにしていきます)
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