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誘拐犯に、なぜ被害者母は「ありがとう」と言ったのか(未成年誘拐) 傍聴小景 #1
裁判ライターの「普通」と申します。
日々傍聴している裁判の中で、特に印象的だったものを毎週月曜日、水曜日にレポートしていきます。裁判に興味を持っていただいたり、皆様にとってなにかお役立てできたら嬉しく思います。
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それでは、早速裁判の紹介をしていきます。
はじめに
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罪名:未成年誘拐
被告人:40代半ばの男性
傍聴席:平均4人
今回のテーマは「誘拐」。
刑事、探偵ものの作品ではしょっちゅうテーマとしてあがりますが、実際の裁判でほぼお目にかかることはありません。私も開廷表(当日の裁判の予定)で何度か予定を組まれているのは見ただけで、傍聴したのは今回が初めてでした。
「誘拐」と聞くと、やはり作品のイメージでは身代金をはじめ営利目的というのが浮かぶと思います。というか、それしか頭にありませんでした。
ただ、そもそも「誘拐」の言葉の定義ってなんなのだろう?と今回の事件の内容を聞くと思います。そうやって自主的に調べる知識ってなかなかタメになりますよね。
事件の概要(起訴状の要約)
被告人は、相手が未成年で、かつ中学生女児であることを知りながら、LINEにて
・マジで会いたいわ
・絶頂を何度させられるかな
・会う日から何回、〇出し出来るかな
・子作り合宿の延長やな
などと言い、大阪府に住む被害者を、その親に連絡しないまま三重県にある被告人の家に3泊宿泊させた疑いがかけられています。
事件の特殊性もさることながら、こういう事案は誘拐にあたるんだなぁと妙に納得してしまいました。確かに過去にもこういうニュースを見た気がします。
被告人には前科が3犯あり、うち2件は今回と同じく「未成年誘拐」によるものでした。これは根深そうですね。
被告人の名前でググったら、普通に以前の罪で逮捕されたときの記事が出てきました。罪を犯したとはいえ、半永久的に名前が残るというのは、やはり色々考えてしまいますね。
ちなみに私の本名は、ググると同姓同名の「お花屋さん」が出てきます。
さて、もう少し詳細に事件を見てみます。
検察官による証拠や供述提示
被告人と被害者はオンラインゲームで出会いました。
初めてリアルで大阪にて会った日にホテルにて宿泊し、性交。そのとき親には友人の家に泊まると言っていた。
そして、前述の通り、起訴された事件の日については、親に無断で被告人宅に宿泊をさせ、避妊具をつけず性行為を繰り返した。被害者のスマホは被害者の意思のもと電源が切られていた。
母親が被害者と連絡が取れないことから、事件が発覚。
被害者は取り調べに対し、
「被告人に対し好意を抱いており、家に行きたいと思った。被告人と性行為をしたいと思った。」と述べています。
また、母と父が仲違いして、家を出た母と一緒に住んでいるが、仕事で家を空けたり、相手にされないなどで寂しい思いを抱いていた。
その被告人宅に3泊したのち、普通に被害者は家に帰りました。
18歳未満の女児に対して性交を行っているので、それに関する罪はつかないか不思議だったのですが、恐らく被害者が自ら好意を抱いていると供述ことから児童買春や青少年健全育成法にはあたらないということなんでしょうね。
本気かどうかは知りませんけどね、40代半ばのオッサンが中学生をその気にさせている時点で、健全育成には法律でなく一般倫理としては十分反していると思いますがね。
弁護人による証拠や供述提示
弁護人は、被告人の反省文を弁護の証拠として提出しました。
当初は、歳の離れたゲームの仲間としか見ていなかったが、家庭環境を同情しました。
お互いを想い合うようになってから、一人の女性として見ていました。寂しくないように接したが、その結果、離れて寂しくさせては本末転倒です。
お母さん、私は娘さんを本気で愛しております。決して遊びなどではありません。
被告人さん、私はあなたを本気でヤバいと思っております。決してふざけてなどおりません。
いやぁこの人、相当にヤバいな。
本気だからいいでしょというのが伝えたいんでしょうけど、あなたはね前科もあるし不用意に未成年の子に近づいちゃいけないの。その考えが決壊している時点で、この文章はもはや罪に対しての反省文の体をなしてないと思うんだけどなぁ…。
「離れて寂しくさせては本末転倒です」じゃないんだよ。語るな語るな。
被告人質問でもう少し細かいところを明らかにします。
被告人質問
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弁「大阪で会ったあと、次はどうするという話になりましたか?」
被「次は、被害者が私の家に来るという話になりました」
弁「その際、親に許可をとっていましたか?」
被「とっていないようでした」
弁「でもあなたLINEで、「ご両親の許可を得なかったら、未成年誘拐罪になっちゃうよー」と送ってるので、罪になることはわかってましたよね」
被「はい」
なに、その法律関係者か前科者しか送れない、「ご両親の許可を得なかったら、未成年誘拐罪になっちゃうよー」という具体的、かつ的確な一文は。
私が仮にその女児とやりとりする立場だったら、「だだだだだ、だめだよ」としか返せないだろうな。
被害者も「未成年誘拐罪」って聞いて、何それ?ってならなかったのかな。それとも、被告人から前科関係は聞いていたのでしょうか。
弁「あなたの家では具体的に何をしていましたか」
被「ゲームをしたり、動画を見ていました」
弁「被害者は、あなたといて喜んでいたと思いますか」
被「そう思います」
弁「被害者を家に帰す際に、何かしてあげましたね?」
被「帰りの交通費と、母が柿の葉寿司が好きとのことなので、手土産に持たせました」
4日も帰ってこない、連絡がつかない娘が帰ってきた。どこにいたのかを聞いたり、どれだけ心配したのかなど一通り話した。
そこで、娘の手に柿の葉寿司が握られているのを見て、
娘「未成年誘拐罪での前科二犯が、「これ、お母さんに」ってくれた」
母「まぁ!娘と本気で交際したい気持ちが伝わったわ」
となるとでも思ったのか!
傍聴している最中はそんな気にならなかったけどけど、改めて見るとこの柿の葉寿司エピソードも相当やべぇな。
家に帰ったら、問題になっていると思っていなかったのだろうか。
ずっと、弁護側は真剣だから仕方ないという方向に持っていこうとするので、検察官にしっかり詰めてもらわないと。
検「どうして、親からの監護権を引き離すのがダメだと思いますか」
被「未成年という立場で社会が守るべきである弱者なので」
検「弱者とはどういう意味ですか?」
被「大人にそそのかされたり、その際に正常な判断ができなかったり」
普通(そうそう、考えは間違ってないけど、そのそそのかしている大人が今のあなたな)
検「それを踏まえ、被害者が無断外泊してしまったことはどうするべきだったと思いますか」
被「親とあまり仲が良くなかったので、つい秘匿したくなったのだと思います」
だ・か・ら、それを正してあげるのが大人なの!中学生は隠すの、逃げたくなるの。それを一緒になって付き合ってどうすんだよ。
この人、肝心なところで、さっきは「正常な判断ができない」と言っているその未成年のせいにしちゃうんだよなぁ。
検「宿泊したとき性行為をしていますか」
被「しています」
検「避妊具をつけなかったのは何故ですか」
被「彼女は私と結婚する気だったので、それをリスクと考えていませんでした」
検「仮に妊娠したら、その状態で中学校に通わせようと?」
被「もうそのときは、不登校になってしまっていたので、事実上通っていなかったので」
不登校であれば良かったとでも?
もう突っ込むの、皆さんに任せよ…
ちなみに、これらの答弁において、被告人はどんな態度だとみなさん想像します?罪を反省していたり、裁判に委縮してモゴモゴしている人ってのが大半ですけど、
この人は終始堂々としていました。その姿勢自体は悪いとは言いませんが、どうもそれが「私は中学生と結婚したいと思うことに何も恥じていませんから!」という開き直りみたいに見えて、なんともな気持ちでした。
最後に裁判官からの質問です。
裁「性的対象者は未成年なのですか?」
被「いえ、未成年だけということでなく、年上でも」
裁「でも、前科もありますし、そう思われても仕方ないですよね」
被「私が好きになるのでなく、私が未成年に好かれやすいのです」
うん、君は本当にわかってないようだから教えてあげるね。君が未成年に近付かなければ、未成年に好かれることもないから安心していいよ。
でもちょっとだけ理解できるのが、この被告人って私と同じくゴリラフェイスなのですが、そのゴリラフェイスが優しかったり、話しやすかったりすると「お父さん感」が出てなんか安心されるというのは俺もわかる。
でも、それとは話が違うから。
裁「宿泊させる必要はありませんでしたよね。あなた自身がそんなに心配だというのなら、あなたが大阪まで出向いて、その母親の不在時だけ一緒にいてあげるだけではいけないんですか」
被「今、言われて、そういう方法もあるのかと思いました」
裁「LINEの性的なやりとりなども、あなたが正さなかったら、あなた自身が乗り気だと思われて当然ですよね」
被「思慮が足りてなかったと思います」
裁判官かっけぇな。私が長々うだうだまとめられなかったことを、たった2つの質問でスリム化したな。
まぁ二文でまとめてしまっては、読み応え的によくないと思い長文になりました!…と私も被告人みたいな言い訳をしてみます。
最後に被害者の母親からの、今回の件について思いを検察官が代読しました。
被害者母による意見陳述(代読)
今まで、これほど無断で外泊することなどはなかった。
なぜ、娘に嘘をつかせたのか。なぜ、大人であれば正すことができなかったのか。
愛する娘が見知らぬ人間のもとにいる不安な気持ちがあなたにわかるか。これが子を持つ親の気持ちです。無事に帰ってくるのか、不安でどれほど震えたことか。
ただ、最後にこれだけは言う。
無事に帰してくれてありがとう。
この最後の「ありがとう」が、なんとも深い気がして、今回のタイトルにしてみました。
もちろん、言葉の通り無事に帰って来たことによる安堵なんだけど、それを裁判の場でわざわざ言うってことは、母として娘に構ってあげていられなかったという思いがあったのかなと思ったり。
そんなこと口に出したら、被告人に「そうだそうだ!」と言われそうなので、私の心の中に留めておくことにします。
最後に検察官による論告と弁護人による弁論。
論告・弁論
論告
・被害者の同意は得られていたと思うが、未熟な上の判断によるもの
・前科の刑執行終了から1年しか経っていない
・求刑 懲役三年
弁論
・犯罪事実としては争わない
・恋人関係にあり、被害者も被告人から彼女と認められ喜んでいた
後日、宣告された判決の日にも立ち会いました。
判決
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判決
・懲役二年四月 未決勾留日数中40日を算入
・発育途中の被害者を言葉巧みに誘い込んだ悪質な犯行
・常習性が顕著に認められる
被告人は、刑務所から出たら、今度は法に則りまっとうな交際を目指すと言っていたんですが、どうなるのでしょうか。
被告人本人への矯正教育はもちろんしてもらうとして、被害者はこれからの二年を経てどのように成長するのでしょうか。
と、考えると、当然周りの大人というのは大事。
でも、もし自分が職業としてでなくその「周りの大人」である場合、正しい指導がしてあげられるのか、正直あまり自信はありません。
こういう思いを抱くと、やはり生きていく以上、様々な社会的経験や知識って入れていき続けないといけないなと強く思います。
ここから先は
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