裁判長が「まぁ普通に生活してくれたら大丈夫なんで。」明るさが逆に哀愁を誘う裁判(死体遺棄) 傍聴小景#56
裁判では、証拠によって有罪無罪を判断するため、必要なものは可能な限り写真などにされます。傍聴しているとイメージをより鮮明にしたいため出来るだけ詳細な情報が欲しいので、わざわざ立ち上がったりはしませんが、なんとか関係者の手元資料を見れないものかなとチラチラ見たりするのです。
しかし、時には見たくない、というか絶対見てなるものかと思うものがあります。リアルな傷口だったり、遺体の写真ですね。法曹関係者はどうやってこれを克服しているのかとても気になります。
はじめに 〜被告には小さなお婆ちゃん〜
死体遺棄という物々しい罪名に反して、入廷したのは70代のお婆ちゃん。
失礼ながら、年齢以上に年を重ねているように見え、背はかなり曲がり、とても小さく見えます。
そんな姿には似つかわしくない、両手には銀色の手錠。両脇には屈強な警察官を携えています。警察官もとても丁寧に対応はしていますが、やはり見ていて辛いものがあります。
事件の概要(起訴状の要約)
この手の事件、最近多いんです。
介護に疲れて精神的に病んでしまった、全てが面倒になってただ時間が過ぎて欲しいと放置していた、生きていることにしたら入ってくるお金があるのであえて隠していたなど理由は様々ですが、一緒に生活するってどんな神経なのか、ちょっと僕には想像できないのです。
検察官が提示した証拠等 〜虫除けの薬を撒いた〜
きついって。
文字情報だけでも辛いのに、とても証拠写真をチラ見する勇気など僕にはありません。実際、検視されたかたにとっても、「どないせっちゅうねん」という思いだったのでは。
ちなみに、このように死亡時期も明確でないほどの遺体損傷だったためか、死因も特定されておらず、その点の事件性などについては裁判では特に問われておりません。
「虐待が疑われるかも」と思った点は、かなりどうかなと思うのですが、最初に通報できなかったから、ズルズルと遺棄期間が伸びてしまったというのはギリ分かるというか、もうどうしたらいいのかという気持ちでずっと過ごしていたのだろうと思います。
しかし、初手で虫除けの粉を振り撒いたというのは、その後を見越した冷静な行為とも思えるし、なんか単純に同情したくなるってのとも違うんだよなぁ。
被告人質問 〜「お母様のこと忘れないでね」〜
年配の方が被告人だと、耳が遠かったり、質問に対してマイワールドな答えを連発することも多いんですが、この人は質問と答えが噛み合っていた気がします。だからこそ、今回の判断がより恐くもなるのですが...。
この辺は突然過ぎて、死を予見できず混乱状態になったという主張なのかね。その思いはわからなくもないけど、突然過ぎて判断できないから誰かに相談するってことなんじゃないのかなって思うのは冷たいのかな。
まぁ、その人のそれまでの人間関係にもよるか...。
急なことで動けなかったというのはダメだけど、まだ同情する。で、そこから動いたのが隠す方に行っちゃうのは「どうして?」という思いは拭いきれないというか、その思いしかない。
結局、「とにかく恐くて」という動機以上のことはなく、モヤモヤしたまま弁護人からの質問は終了。
続いて検察官からの質問は、なにか新たな事実をというより、今わかっていることを改めて被告人の口から言わせるというものが多かったと思う。
「役所の通報によって発覚したけど、もっと長引く恐れもあった点」、「母親をちゃんと弔ってあげられるのは被告人のみだった点」、「救急車も呼ばないで死亡認定してるなど早合点が過ぎる点」などを明確にしました。
最後の点なんかはホントそうで、ちょっと買い物から行って帰ってきて様子がおかしかったら、まず救急車だよな。このあたり気になるけど、今さら追求しても証明はできないし、70代のお婆ちゃんにこれ以上問い詰めるのもなんかなとは思う。
途中で少し触れましたけど、最近この手の事件が本当に多い。
事情は事案によって異なるけど、老々介護なんて言葉もあるし、想像以上に実態は厳しいんだと思う。今回の被告人も判決後は弁護人と一緒に役所に行って、グループホームなどの入所などの手続きなどに向けて動いていました。被告人も70歳で独り身で、周囲に相談できない状況だったからの、弁護人のサポートっぽい。
ますます現実味を帯びてくる高齢化社会において、現状、高年齢の方をケアをしてくださっている方にはホント感謝してもしきれないし、今後もより重要な仕事になってくるんだと思う。
でも悲しいかな、労働の環境が過酷であったり、賃金の問題で人が集まらないのは周知の事実。海外の労働者をあてたり、「知識はないけど、とりあえず介護職へ」みたいな層を受け入れたりはするけど、やっぱ事故は起こるし、利用者は力などで抵抗しにくい方々だし。
この点、何年も問題視されている気はするんだけど、何も一向に動いていない気がするのは僕だけでしょうか。むしろ、「そんなことないよ!こういうことが行われているよ!」と私の考えと反するコメントをいただけたら嬉しいのですが。
判決は、
懲役1年 未決40日を算入 執行猶予3年でした。
類似のケースとして懲役1年を割るケースも多数見ているけど、やはり長期間の遺棄など量刑上は認定されざるを得ないといった感じ。
とは、この人に再犯というのは想像がつかない。執行猶予の説明として「3年以内に再度犯罪をうんたらかんたら」って定型文を読み上げるんだけど、その締めとして「まぁ、普通に生活してもらえたら大丈夫だと思うんで」と明るく言ってたのが、裁判官の一番率直な気持ちだったのかなと思う。
そして最後に、
という一言。執行猶予云々でなく、これを守り続けることが、今回の行為の罪滅ぼしなのではないかと思う。
この件、YouTubeで動画化しております。もしよろしければ、こちらも御覧ください。
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