2023年3月28日の乾杯
桜の花もあっという間に盛りを過ぎて、葉桜の緑が美しい今日この頃。二人で観た3月大歌舞伎や、おじさんが観たお芝居達とそれにかかわる様々、江口寿史先生のイラストレーション展の話など、今日もあれやこれやと語り合います。
👨演劇のおじさんと
👩おねえさんです。
👨こんにちは
👩こんにちは。
👨今回は歌舞伎のお話からしましょうか。先日一緒に歌舞伎を観にいきましてね。
👩うん。面白かったですね。
👨玉三郎様がね。
👩やっぱりね、やっぱりね。玉三郎様と呼ばれるだけのことはありましたよ。
👨歌舞伎座も混んでいましたものね、いつもより。
👩そうですね。どちらのお芝居もお相手は愛之助さんという。
👨うそうそう。
👩持ってるファンが多いというか。
👨うん。
👩良い役者さんどおしだから。
👨そう。まあ、2等席で観たのですけれどね。
👩うふふふ。でも、良かったよ。
👨えぇ。35分の休憩を挟んで二つの芝居があったのだけれど、雰囲気は全然ちがいましたよね。
👩そうですね。なんか落差というか。その差がすごくよかった。
👨前半のお芝居はね、題名からして『髑髏尼』だものね。
👩いやぁ、私は好きだった。
👨うん。あれはあれで、一見おどろおどろしい魅力もありましたけれどね。でも静謐な部分もあって。で、一転して後半の出し物は郭ばなしでね。
👩絢爛豪華なお着物でね。
👨そうそう。
👩場内のあちこちからため息が漏れていましたもの。ふぅって。
👨うふふ。あれって少なく見積もっても何百万円の世界でしょ。
👩うん。いやぁ、凄かった。ほんとうに。
👨まあ、着物のお値段のことを言うのはすごく無粋なのだけれどさぁ。
👩うふっ。でも、それだけ本物ということでしょ。もう、芸術品だね。
👨そうそう。あと、愛之助さんが要所で見せるコミカルな動きも凄く良くてね。
👩インタビューに載っていたけれど、「あの役はやはりかわいらしさがなければね」いたいなことも言われてたのね。苦労をしましたがっておっしゃっていて。ほんと、すごく可愛かった。
👨足のうごきがね、こうイタズラっぽくひょこひょこって動くんだよね。
👩うふふふ。
👨色々と芸の極みなのだろうけれど、観る側は難しいことを考えないでたっぷりと楽しめた気がするのね。
👩ああ、そうでうね。
👨最初の演目との落差があったからますます感じたのかも知れないけれど、前半にも見入ったけれど、後半を観て歌舞伎は楽しいなぁと思ったのね。
👩うん、それこそさ、私たちも沢山観ているわけではないし、もちろん観たことない方もいるかもしれないけれど、お正月とか春の演目はわかりやすいしさ。皆さんも観て欲しい。
👨今月私は第一部も観ているのですけれどね。
👩うんうん。どんなでした?
👨まあ、ダークストーリーではあるのだけれど、そのなかでも演出の華やかさみたいなものはあってね。
👩うん。この時期の演目って華やかだと思う。
👨その、なんだろ、こう端々には2.5次元てきな味わいというか雰囲気があってね。
👩うふ。
👨それはそれでよかったりもするのだけれどね。
👩えっと、一部は通しだったよね。演目はなんでしたっけ。
👨『花の御所始末』。シェークスピアの『リチャードⅢ世』に想を得て翻案してということみたいだけれどね。
👩えぇ、おもしろい。どうだったですか?
👨いや、おもしろかったし見応えも十分だったのだけれど、その、音の作り方とかがなんとなく2.5次元的だったんだよね。
👩へぇ。
👨その、ここ一番で盛り上がるときとかが、三味線使っての義太夫、浄瑠璃とかとはまた違うんで。そもそも、幕開けも終幕も定式幕ではなく緞帳の上げ下げだしね。
👩ああ、そうなんだ。
👨そういう意味では今のお芝居に寄せているのよ。
👩うんうん。
👨台詞回しとかは当然に歌舞伎なのだけれど。
👩なんかさ、それこそルフィをやったりナウシカをやったりさ、そういう2.5次元的なノウハウがもうあるだろうからね。いろいろやっているじゃないですか。
👨ノウハウがあるというか、自分のものにしているよね、もう・。
👩そうそう。
👨その中で新たに古典の良さを引き出すとか海外の作品を取り入れるみたいな試みをきっとやっているよね。間違いなく。
👩うんうん。
👨実際、歌舞伎というのは古典芸能ではあるけれど、進化もしているよね。で。進化しているからこそ、古典も映えるというか。今回の三部は後半に常磐津、浄瑠璃が入ったじゃないですか。そういうものも、いつものにならずに新たに生きるというか。
👩うんうん。今回もめちゃめちゃよかったものなぁ。古いものもよいし、その伝統は息づいているのだけれど、そうやって新しいものがはいったことで、もともとの古典のものにもまた新たな息吹きというか良さも感じられるし、それで古いものにも新たな良さが感じられたというか。
👨うん、そうだよね。なんか歌舞伎の世界っていくつかの時間軸があって、まだ愛之助さんって50代そこそこで割と若いじゃない、いうても。一方で玉三郎さんはもう大御所というかしっかり年季を積んでいるわけじゃない。
👩そうですね。
👨その二人が共演することでの、二人だから醸し出せるような今切りの味わいがあるような気もしたし。また、歌舞伎全体が新しい物も取り入れるという強さを感じたし新たな良さもあるし。そういう意味では、今月は私にとって二重に美味しかったような気がする。
👩うふふ。まあ、私も、一部も観たかったのだけれどね、観ることができなかったんだ。叶わなかったことが残念すぎます。
👨まあね、歌舞伎のほうは機会があれば是非に、是非に観に参りましょう。
👩はい、行きましょうね。ところで、ほかには最近何をご覧になりましたか?
👨座・高円寺で『視点』を観て。参加劇団が1時間のお芝居を披露するショーケース的な公演だったのだけれど、8団体それぞれに個性があってすごく良かった。
👩うん。
👨あの、2団体ずつを組にして2ステージずつの公演でね。最後のアガリスクエンターテイメントとMUのチームだけは3公演だったのかな。
👩ふんふん。
👨組み合わせがすごいのよ。最近注目して何作かを観ている「東京にこにこちゃん」と久しぶりの公演になる「elepHANTMoon」がカップリングされていたりね。
👩豪華ですね。
👨うん。またそれぞれの劇団がきっちり1時間ずつやってくれるしね。あの、ショーケース的な公演と言えば先日観たMrs.fictionsの『15 Minutes Made』も作品がもれなく秀逸でとても良かったのだけれど。今回は結構フルボディでの作品で、それぞれの団体の真剣勝負のよさをがっつり味わうことができて。
👩うん。
👨まあ、「Antikame?」の暗闇演劇なんてすごくインパクトがありましたけれどね。
👩うふふ、そういうのもあったんですか?
👨あのね、最初の20分くらいが闇なの。
👩座・高円寺を暗闇にしたんですか。すごいなぁ。
👨最初に主宰が前説をされて。ほら、暗闇が精神的に駄目な方っていらっしゃるじゃないですか。
👩いますね。
👨そういう方のために一番後ろの列だけ若干のあかりがあるようにしていますみたいな説明があっての開演でね。
👩ふーん。
👨舞台上は見事に漆黒の闇で。ただ、通路際に座っていたのだけれど、通路は流石に蓄光っぽいライトが灯っていてそれは落とせなかったみたいなのですよ。それだけが邪魔に感じるような20分で。
👩うふふふ。
👨真っ暗闇でも俳優達の方向とかはわかるんですよ。
👩うんうん。
👨こちら側から声が聞こえるとか、こういうトーンでしゃべっているとか。そういう方向性とか質感とかはわかるので。そこから世界が広がっていくところはすごいなぁと思って。
👩へぇぇ。真っ暗闇の演劇って私もやったことがあるんですよ。全編真っ暗という。
👨ええ、全編ですか。
👩だいぶ昔だけれど。
👨でも、あれってやる方も大変なのでは。
👩滅茶滅茶大変ですよ。しかもめっちゃ動く役だったから。
👨あぁ。
👩俳優だけライトを持っているんですよ。それが演出になっているんですよ。
👨あぁ、なるほど。
👩だから歩数で。暗闇の中で歩数とかでやってましたよ。
👨蓄光とかもなかったの?
👩ない。蓄光をいれたらわかっちゃうから。
👨こわっ。なにかにぶつかったらすごく痛そうじゃないですか。
👩うん。
👨で、観ている側はどんな反応だったのですか?
👩面白いって言ってもらったよ。
👨おおっ、面白と言ってもらえたんだ。
👩なんかね、体験だっていってた。最後に生まれていくという表現だったので。あの、生まれるときって受動じゃないですか。自分の意志で生まれることはできないわけで。
👨ああ、うん。
👩生み出されるわけじゃないですか、強制的に。そうじゃなくて、閉じ込められた、暗闇のなかで閉じ込められでいた心が、最後に扉を開けて出ていくんですよ。その扉をあけるあめの90分ぐらいです。80分くらいだったかな。
👨それなりの尺だよね。
👩まあ稽古が大変でした。
👨うん。そうか、そうするとおねえさんの美しさは誰にも知られないまま終わってしまうんだ。
👩うふふふ。でも、ライトを持っていて、それを体の中から当てたりほかの俳優にあてたりして、少し顔は見える。
👨ああ、なるほどね。
👩だから、その稽古もたいへんだっただろうな。
👨うん。でもね「Antikame?」の作品も20分くらいすると舞台にあかりがはいってあかるくなってくるので。ただ、真っ暗闇を観ただけの作品ではなかったのですけれどね。
👩うふふ。
👨観る側に余韻というか思索も残ったし。
👩うん。
👨あとね、アガリスクエンターテイメントの『令和5年の廃刀令』というのもすごく面白かった。
👩へぇ。どんな話だったの?
👨明治になって日本では廃刀令という物が出たのだけれど、それが出なかったという前提で、今になってあらためてそれを令和5年の今になって色々問題もあるから改めて廃刀令を検討しましょうということになったらしくて、市民の前でパネルディスカッションをするっていう話なのよ。
👩うんうん。
👨で、舞台上の会議にいろんな立場の人たちが参加して、例のアガリスクエンターテイメントの会議物の世界に持ち込んで、それぞれの主張や屁理屈を交わして相手を論破していくっていうお決まりの世界なのだけれど。まあ、そのお決まりでね、途中で意見をコロコロ変える人がいたりとか、頑固に意見を変えない人がいたりとかがいるのが、全部おもしろいの。
👩うふふ。
👨あとね、すごいなぁと思ったのは、アガリスクエンターテイメントの回には当日パンフレットに廃刀令の賛成か反対かを選ぶための投票用紙が入っているのよ。で、1部と2部の間に休憩があるんだけれど、その間に冨坂さんとかスタッフが投票箱を持って立っていて観客に実際に投票をしてもらうの。
👩ほうほう。
👨それで、後半MUの上演中に集計して、最後にロビーにその結果が掲示されるの。
👩うふふふ。
👨私は3回公演の1回目を観たのだけれど、61対60の超僅差で。
👩すごーい、そんなことがあるんだ。
👨あとでツイッター見たら、こんなこともあるんだって冨坂さんもびっくりしていたみたいだけれどね。
👩それはそうだ。
👨観客も偉い感動をしていたみたいで。掲示板の前にはどよめきが起きていたしね。
👩あはは。
👨まあ、どの劇団も個性がありましたよ。あの、「食む派」という団体があるのね。
👩うん。
👨そこも、ちょっとだけSFでね、日本で冷やし中華が禁止されてね。で、最後の冷やし中華を食べる食べないみたいな話をやるわけですよ。
👩うふ。なんだそれ。面白い。
👨でも、そこには卵、ほら冷やし中華には錦糸たまごがはいっているじゃないですか。
👩入っていますね。
👨それが入っていなくてね。二人で経営しているそこの奥さんが卵が嫌いで入れないということがわかって。でも、そこから更に話の展開があって。その冷やし中華を禁止した厚生大臣がその奥さんと調理師学校の同期で、調理実習で冷やし中華を一緒に作ったときに奥さんが卵を入れさせなかったことを根に持って禁止したこともわかってきて。更には、そこに、冷やし中華警察というか、冷やし中華がお店で出されていないかを見張る婦人会の人まで現れたりしてね。戦争の時の婦人会みたいに。「冷やし中華は敵だ」みたいな感じで。
👩面白いことを考えるなぁ。
👨相変わらず、みんな。
👩うん、相変わらず。
👨その発想のすごさね。
👩相変わらず。うふふ。
👨あと、肋骨蜜柑同好会さんも参加していて。
👩ああ、好きなんですよねぇ。
👨ただ、今回は主宰の方が割合と公演の直前に体調を崩されたみたいで、
👩あらあら、大変。
👨それで、やむおえないというか、急に遽演目が変更になってね。で、近松門左衛門の曽根崎心中を今の語り口でやるということをやってね。
👩なるほど。
👨まあ、おもしろかったのだけれど、もう少し研いでもよいかなぁという感じもしたのですけれどね。
👩ああ、そうなんだ。
👨『曽根崎心中』に関しては本物の歌舞伎では観たことはいないのだけれど、でも、木ノ下歌舞伎でFUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介さんが演出したものを観たことがあって、それがすごく良くてね。
👩ああ、なるほどね。
👨木ノ下歌舞伎の『曽根崎心中』って道行きに至るまでも、その道行きも、徹底的につくりこまれていたんですよ。七五調の台詞の美しさなんかもしっかりと磨かれていたし。それを観てしまって記憶が残っていると、今回もシーン毎のアイデアってそれなりにあるんだけれど、まあいうても藤田さんの作品だからね。
👩うんうん。
👨でも、トータルで木ノ下歌舞伎と比べると、やっぱり平板に感じてしまうの。
👩あぁ、まあそうなるかもね。もう元があるもので、しかもそれで木ノ下歌舞伎が研ぎに研いでいるものだからね。それがあるとやっぱりね、古典はそういう奥があるからねぇ。もっと欲しいっておもってしまうのがほんねじゃないですか。
👨そうそう。
👩その工夫だったりとか、その研がれ方だったりとか、なんでもいいからここでしか観ることの出来ない曽根崎心中ではないと物足りないと思うのは、それはそうだと思う。
👨そう、物語の進捗に合わせて鐘の音なども挿入されていくのだけれど、それはアイデアだとはおもうのだけれど、その語り口を抜いてしまうと生きないのですよ。元々は浄瑠璃の中に鐘が7つ疲れたときに死んじゃうみたいな話がでてくるのだけれど、そういう工夫も今ひとつ生きていなかったしみたいなことがあってね。
👩うーん。難しいところだね。
👨逆に言うと、近松の世界ってちょっとやそっと掘ったくらいではどうにもならないくらい懐が深いことを改めて思ったしね。なんというか簡単にもできてしまうのだけれどやりだすときりがないみたいな。
👩そうだね。
👨まあ、歌舞伎の芸というか演目というのは、そうやっていくらでも出来るような仕掛けになっているのかもしれないしね。
👩だからこそ、そ研がれ方というのがいろいろに変わってくるのかもくるのかもしれないしね。
👨それがまた面白いしね。
👩また、それが難しいところだよね。
👨まあそれが歌舞伎というか伝統芸能の奥深さだとは思うけれどね。
👩そうだね。そうだとは思う。
👨ちなみに、最近おねえさんはなにかご覧になりましたか?
👩えーとね、舞台はみられなかった…けど、映画は観ました。2回目の『竜とそばかすの歌姫』を観ました。
👨ほうほう。
👩映画館ではみていたけれど、物語が分かった状態だと、更に細かく楽しむことができましたね。細かいところが。
👨あと、演劇なんかでもそうだけれど、受け取る人の気分ってけっこうあるからね。
👩ですね。わかっていないと見逃してしまうところもあるじゃないですか。
👨はいはい。
👩それが分かってみていると、前の段階でのことや、その反応も細かく見えるから。あの時感じたのはこういうことだったのかとかね。
👨なるほどね。
👩そんなとこかな。
👨私はあとね、アマヤドリを観てきました。『天国への登り方』。
👩はい。
👨これ、再演なんですよ。今回はシアタートラムだったのだけれど、何年か前のあうるすぽっとが初演で。初演はえーとね。2019年の1月だから3年前・・・
👩えっ、今は2023年だよ。
👨ああ、4年前だ。失礼しました。要は安楽死の話なんですよ。
👩知ってる!その舞台。
👨その時に観たのと今回では、私の中でも理解がだいぶ違っていて。
👩あの、舞台自体がかわっていたのですか?
👨えーとね、若干変わっていたように思う。でも、少なくとも、戯曲はその時と同じ流れ方、細かい部分が多少修正されていたかも知れないけれど、その筋立ては変わっていなかったと思う。
👩本質は変わってないの?
👨本質は変わっていない。柱になる物も、いろんな道具立ても変わっていない。俳優は変わったりもしたけれどね。でも、言ったように理解度は明らかに違っていて。まあ、2度観たからあたりまえといえば当たり前なのだけれど、でも、一回ごとに舞台の見え方というか訪れ方、まあそれは映画とか美術でもそうなのだけれど,違うのだなぁとあらためて思った。
👩舞台とかは特にそうなのではないですか。
👨ああ、そうかもしれない。
👩映画などと違って全く違うものではないだろうから。そもそも回によっても違うし、同じ人を使っていない場合もあるのだから。
👨ましてやアマヤドリ主宰の広田さんは同じ公演の中でも演出を全く変えてくることがあるからね。
👩稽古中や本番中にもほかに台本がくるんでしょ。変わってくる。
👨それもあるかもしれないけれど、彼は演出だけで変えてしまうこともあるし。前にパスポートチケットみたいなやつで、初日を観て、中日を観て、楽前を見たら、悉く印象が違っていたこともあったしね。同じ戯曲であっても、どの部分に比重をかけフォーカスを当てるかということで全然ちがうんだよ。まあ、それも演劇だしね。
👩それについていく劇団員さんもすごいよね。
👨うん、アマヤドリの劇団員はよく鍛えられていると思う。
👩アスリートだよ。
👨あぁ、アスリートね、確かに。
👩そういうことができるというのはすごく鍛えられている。
👨うん。ところで鍛えられたとか鍛えられてないとかいうような話ではないのだけれど、「エンニュイ」という劇団があって、
👩はいはい。
👨SCOOLで『きく』という舞台を観たのですよ。
👩ほう。
👨それは、俳優達の中のある人が「自分の母親が癌だった」という話をしようとするところから始まるのですよ。それを会話の中で話そうとするのだけれど、それがいろんな話に紛れていってしまうのね。
👩なかなか全部話せないんだ。
👨でも時々戻ってきたりもするのよ。
👩うふふ。
👨で、仕組みがわかると、その感じがとても上手く作られていて、けっこうデフォルメされたり抽象的な表現もあるのだけれど、その伝わり方も伝わらなさも観る側に実感としてやってくるのね。あと伝わっているときには、中央に立てられた小さなランプが灯ってわかるの。
👩あはは。なんだ、それは。おもしろ。
👨でも、不思議なくらいわかりやすくて。最後の方になると何の芯なんだみたいな大きな上の筒を舞台に差し入れてきて、それを振り回して話したりとかね。でも、なんかほんとうにその感じがよくわかって。主宰の長谷川さんはとてもユニークな視点と表現のやりかたをお持ちだなぁと思って。
👩そうだよね。元々芸人さんなんだっけ。今も芸人さんなのかな??
👨ああ、どうだろ。「クレオパトラ」として活動されているのは拝見したことがないけれど、ウィキを見るとまだ団体も続いてはいらっしゃるみたいだしね。
👩いやぁ、モチーフが面白い。
👨そう。でね、彼とか彼の周りっていろんな人脈があるみたいで、私が観た回には和田夏美さんという方がアフタートークのゲストだったんですよ。そのかたはインタープリターという肩書きをお持ちで。
👩インタープリター?
👨ろう者の方に対しての手話通訳とか、もっと広いいろんな身体性を持った方に感覚を伝えるお仕事をされていらっしゃるみたいなのだけれど。
👩うんうん
👨で、その方に伝わる、伝わらないとか、あることがどういう風に伝わるかみたいなお話をしていただいて。
👩アフタートークのゲストが的確ですね。
👨うん、そうなんですよ。
👩伝える、伝えないの舞台で、私たちとは違う感覚で伝えることのプロじゃないですか。
👨そう。あと、観客が空間に持つ関心の比重なんかのお話をされていて。エンニュイはzzzpeakerという方が美術をされていて、いろんなものが場内の装飾にあって。絵とかはある観客の言い値で売ってくれたりもするのだけれど、和田さんが観客も合図と共に目をつぶって自分がこの場内で一番気になる物を指さすという実験をしたのだけれどそうすると指さす方向がみんなバラバラになるのね。同じ空間の中にいても、そのひとりずつが興味をもっているものというのはバラバラなんだよということをそれで説明してくださろうとしていて。
👩面白いですね。
👨たとえば身体の一部が制約されていらっしゃる方にとっては、それぞれにそういう見え方や感覚があるから。また、興味というのもそれぞれに違うから。その中でいろんなことをその方の感覚にどういう風に伝えていこうか考えているみたいなお話があって。
👩ふーん。
👨それは、演劇というだけに留まらない世界の広がり方があってとても面白かったですけれどね。なるほどなって思ったし。
👩着眼点が面白い。それは長谷川さんが感じていることなのだろうなっておもうし。
👨うんうん。
👩でも、そういう話を聞いてるといろんな舞台があるねぇ。あの、いわゆる、でもなぁ、多様になってきたとは思うんだ。
👨うん、そうだね。
👩もう少し前からだけれど、コロナ以降。
👨うんうん。
👩コロナの前だっていろんなものがあったけれど、コロナ以降、よりね。まあそれは私が年齢を重ねたからということもあるのかもしれないけれど、どんどん面白くなっている。
👨そういう意味では、直近で観たスペースノットブランクの『本人たち』で上演された2作品、『共有するビヘイビア』も今までにはなかった演じることとそれを受け取るこへの感覚だったり、『またお会いしましょう』の違う時間の歩みを見ながら交わされる言葉のやりとりの部分の立体感も舞台ならではだったりして。とてもシンプルに観ているだけなのだけれど、そこにはただ語られることとは違うベクトルの膨らみがあって面白かったしね。
👩なんか、そういう時期なのかもしれないね。そういう表現での作品が多いのは。
👨そうそう、そうかもしれない。
👩でも、また変わるだろうね。マスクもどちらでもいいよ、しても良いししなくても良いみたいになっているし。実際しない人も増えているしね。またみんなの感覚が変わって。
👨うんうん
👩表情が見えないみたいなところで伝わらないとかさ、実際あったわけじゃないですか。マスクをしている弊害みたいたものが。だからってまた変わっていくことなのかもしれない。そう思いました
👨なんか、気が付けば、価値観が新しくはなっているのだろうね。
👩そうですね。うん、そう思うわ。また新しい舞台もどんどん観て。というか私がね、早く観ることができるようになればという話だね。まあ、観に行く予定もありますし。こんどはね、その話もできればとは思いますけれど。
👨あと、最後に舞台の話ではないのだけれどひとつだけ。江口寿史さんっていう漫画家の方、ご存知ですか?
👩もちろん!
👨彼が今、日比谷で大規模な個展をやっているのって知ってる?
👩いや、知らない…かな?
👨『東京彼女』という。
👩それ知っている!!かなり前にやるみたいな記事を見た!!!
👨ここ何年か『彼女』展として何か所かを巡回していたみたいなのだけれど、今回はその集大成兼新しい歩みの始まりということで。けっこうたくさんの展示だったのだけれど、その一枚ずつに惹き込まれるのなんのって。
👩うふふふ。
👨で、気が付いたのだけれど、彼の絵というのは、描かれているひとりずつは美しいし見とれてしまうのだけれど、でも、その容姿というだけではなく、彼女たちの纏っている時間に惹き込まれているのね。絵を眺めているうちに自然に感じるそういう感覚に。
👩そうだね。
👨彼女が生きている時間の感覚というかね。そう感じ始めると、背景がしっかり描かれている作品はもちろん、女性だけが描かれている作品にも彼女が湛えるものがあって、やっぱり彼は天才なのだなぁと思う。
👩あの、広がりが凄いとな思う。絵を観た時、その後ろ側の情景がわぁっと広がっていく。
👨そうそう。
👩絵が接点になってさ、こっち側にもあるし、向こう側にもあって。どういえばいいのかなぁ、形だけ、形だけでいうとこう砂時計みたいな感じでさ。砂時計の一番真ん中のところが私が観ている絵の部分でそこから向こうに広がっている。向こう側の方が広いという感じがするよね。
👨そう、それはまさに私が感じたとおりです。あの、展覧会で来場者のデッサンを書くという日があるみたいで、これまでに描いたもののコピーが200枚くらい展示されているコーナーがあるのだけれど、その200人が全部違う個性でそこに描かれているのよ。
👩へぇ、凄い。
👨やっぱりそれだけのデッサン力があって描くから、ひとりひとりの時間が作れるのだろうなぁとか思ったりもした。
👩そうなのかもしれませんね。
👨あの、阪神タイガースファンの女の子の絵があるのね。それはほんとうに大阪の女の子なのよ。もう観た瞬間に。
👩その絵を見てないからわからないけど、そうなの?
👨それはやっぱり、彼の観察力の賜物でもあるし、一つずつのシチュエーションにイメージしたものをちゃんとそうやって、まあ元々漫画家でもあるので、そうやってイメージをして描く力が共にあるから初めて出来ることなのだろうなぁって思って
👩そうですね、いい展覧会だな、それは
👨ぐるっと外がわの回廊状の展示を見て中の二つの部屋を観るのだけれど、なんだかんだで2時間以上かかってしまって。
👩幸せじゃないですか。それはかかるよ。
👨幸せだったけれどね、でも、観終わった時には足ががくがくとしていた。
👩あははは。良いものを観ましたね。
👨はい。というわけで今日はこのくらいにしましょうかね。
👩はい。そうですね。
👨あと、今月のおすすめとしては、まず青年団の『ソウル市民』があります。こちらは青年団の代表作のひとつでね。何度か観ているのだけれど、その時代と重なって新しい見え方があるのもおもしろい。
👩はい。
👨あと、前にもおすすめしたのですが、もう亡くなってしまったのだけれど花組芝居の水下きよしさんが立ち上げた『ことば』という企画があって、彼が毎年ひとつの言葉についての上演をされていて。彼が亡くなった後も井上啓子さんや出演をされていた方々などがそれを引き継いでいて、今年もその公演があるのですよ。
👩へぇ。タイトルは?
👨だから『ことば』、今年のテーマは「嘘」だったかな。
👩なるほど。ほかには?
👨あとねぇ、うらじぬのさんってご存知ですか?子供鉅人にいらっしゃった方なのですけれど。
👩はい。わかります。
👨彼女の一人芝居をされます。
👩へぇ。それはおもしろそうな。
👨北千住のBUoYでやるのですけれど。タイトルは『押忍、わたしたち』。
👩皆様、是非に、お勧めのお芝居にも足をお運びくださいませ。
👨まあ、4月も詰まりにつまってはきていますけれど、その分だけ楽しみも増えたということで。
👩そうですね。
👨皆様素敵な春をお楽しみくださいませ。それでは演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。
👨また、次回。
(ご参考)
・三月大歌舞伎
2023年3月3日~26日@歌舞伎座
第一部:
『花の御所始末』
宇野信夫 作・演出・齋藤雅文 演出
出演:松本幸四郎、中村芝翫、片岡愛之助
坂東亀蔵、中村亀鶴、澤村宗之助
大谷廣太郎、市川染五郎、市村橘太郎
松本錦吾、澤村由次郎、市川高麗蔵
河原崎権十郎、中村雀右衛門
第三部
『髑髏尼』
吉井 勇 作・坂東玉三郎 演出・今井豊茂 補綴
出演:坂東玉三郎、片岡愛之助、中村福之助
河合雪之丞、中村歌女之丞、坂東新悟
中村亀鶴、市川男女蔵、中村鴈治郎
『夕霧 伊左衛門 廓文章(くるわぶんしょう)吉田屋』
出演:片岡愛之助、中村鴈治郎、中村歌之助
片岡松之助、片岡千壽、坂東玉三郎
・視点『SHARE‘S』
2023年3月15日~21日@座・高円寺1
参加団体
A:東京にこにこちゃん
B:elePHANTMoon
C:食む派
D:Antikame?
E:やみ・あがりシアター
F:劇団肋骨蜜柑同好会
G:アガリスクエンターテイメント
H:MU
・アマヤドリ『天国への登り方』
2023年3月23日~26日@シアタートラム
脚本・演出:広田淳一
出演:
出演 一川幸恵、沼田星麻、榊菜津美、
大塚由祈子、相葉るか、相葉りこ、
深海哲哉、徳倉マドカ、河原翔太、
宮川飛鳥、堤和悠樹、星野李奈、
宮崎雄真、宮本海、野崎詩乃、
都倉有加
・エンニュイ『きく』
2023年3月24日~26日@SCOOL
脚本・演出:長谷川優貴
出演:
市川フー 、zzzpeaker 、高畑陸、
二田絢乃 (以上エンニュイ)
浦田かもめ、オツハタ、小林駿
・スペースノットブランク『本人たち』
2023年3月23日~3月31日@STスポット
演出: 小野彩加、中澤陽
出演:
第一部 『共有するビヘイビア』
古賀友樹、鈴鹿通儀(メタ出演)
第二部 『また会いましょう』
渚まな美、西井由美 近藤千紘(メタ出演)
・江口寿史イラストレーショn展『東京彼女』
2023年3月14日~4月23日
@ミッドタウン東京日比谷 6F BASE Q HALL
(今後の公演)
・青年団『ソウル市民』
2023年4月7日~27日@こまばアゴラ劇場
作・演出: 平田オリザ
出演: 永井秀樹、天明留理子、木崎友紀子
太田 宏、田原礼子、立蔵葉子
森内美由紀、木引優子、石松太一
森岡 望、尾﨑宇内、新田佑梨
中藤 奨、藤瀬のりこ、吉田 庸
名古屋 愛、南風盛もえ、伊藤 拓
・Borobon企画『ことば』vol.12 ~嘘~
2023年4月7日~4月9日@パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』
演出: 中坪由紀子
出演: 井上啓子、小口ふみか、川西佑佳、
杉山薫、仲坪由紀子、蜂谷眞未、
伴美奈子、丸川敬之
・うらじぬの ひとり芝居『押忍、わたしたち』
2023年4月13日~16日@北千住BUoY
脚本・演出: 山西竜矢
企画・出演: うらじぬの
よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートは我々の会話をより多岐に豊かにするために使用いたします。よろしくお願いいたします。