まるで謎解き【戯書①】万葉仮名・和歌編
先回、ひらがなの成り立ちの回で「万葉仮名」の話がありました。
未読の方はぜひこちらから↓↓
今回は、おもしろ万葉仮名のお話!
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万葉仮名のおさらい
「万葉仮名」は、ずばり
「漢字の音を借りて、日本語を表現する方法」
ひらがな・カタカナができる前、奈良時代(7世紀後半頃)に作られました。早い話が「夜露死苦」のような漢字の当て字システムです。
例えば、現代文だけれど、万葉仮名の表記はこんな感じ↓↓
万葉仮名は、原則的には、漢字の音のみを借りて日本語を記述するものなので、漢字の意味とは関係がありません。
やま(山)= 也麻
はる(春)= 波流
と書いたとしても、「麻の雰囲気がある山」だから「麻」という字を使ってたとか、「春は波が流れるようなもの」というような意味合いはありません。
また、万葉仮名は一字に対して複数存在していたことも特徴です。山や春を次のように書いても良いし、また他の書き方も可能です。
やま(山)= 夜馬
はる(春)= 羽留
実は漢字の意味を気にしている万葉仮名もあった
原則的には、表意文字としての漢字利用ではなく、表音文字としての漢字利用が万葉仮名です。でもやっぱり漢字は多分に意味を感じさせてしまうもの。実は、漢字の意味を取り入れた万葉仮名遣いは存在していました。
まあでも、その感覚というのは容易に想像できるかなと思います。例えば、「足(あし)」というのを「悪死」とは書かないよなあ、というか不吉過ぎて書けないよなぁと思うわけです。となれば、悪い意味の漢字を避けるだけではなく、その言葉にあった漢字をあてたくなるのも分かります。
この事例が有名↓↓
そんなのアリ!?謎解きみたいな万葉仮名遣い「戯書」
次は、万葉仮名のおもしろ事例。これから紹介する万葉仮名の用法は、漢字の意味を気にしているわけではなく、「洒落」を重視した表現。万葉人(とは言わないか)ってお茶目。このようなものを戯れの書、「戯書(ぎしょ)」(あるいは、ざれがき)と言います。
二八十一(にくく)
この「二八十一」、漢数字の羅列を何と読むのでしょうか。にやそいち・・・にわとおー・・・
答えは「にくく(憎く)」。
「二八十一」
「二 八十一」
「二(九×九)」
「にくく」
オドロキ!!!そんなのアリ!?てか、奈良時代とかに今と同じ九九があったの?!(九九は中国から入ってきて、この頃は、1×1から始まるのではなく9×9始まりの降順だったのだとか。だから今でも「九九」と言う。)
改めて、和歌を読み直してみるとともに、現代語訳もどうぞ↓↓
(戯書も面白いけれど「若草のような妻」って表現良いなあ。)
十六(しし)
これは、先ほどの考え方と同じです。
「十六」
「四×四」
「しし」
「しし」は動物の猪や鹿などの獣を表します。
ちなみに、「八十一」を「くく」、「十六」を「しし」の分解パターンとは逆で「二二」と書いて「し」(二×二)と答え側で読むパターンなど色々とあるのだとか。謎解き・・・。
山上復有山(いでば)
さてはてこれは・・・?太字部分が万葉仮名の戯書表現。当然九九ではありません。
山上復有山は、山の上にまた山がある、ということ。
「山」と「山」の字を縦積みすると
「出」
「山上復有山ば」→「出ば(いでば)」
そうきたか(笑)万葉仮名はただでさえ音の数だけ文字があって大変なのに、「いでば」の三文字を表すのにわざわざ五文字使うとは・・・。もちろん山の上にまた山があるという意味は和歌にはないし・・・。
馬声蜂音石花蜘蟵荒鹿(いぶせくもあるか)
さて次の戯書。何やら動物の漢字がたくさん出てきます。
「馬声」→当時の馬の鳴き声の表現は「い」
「蜂音」→当時の蜂の飛ぶ音の表現は「ぶ」
「石花」→当時「せ」と呼ばれていた貝の名前
「蜘蟵」→現在の漢字は「蜘蛛」、すなわち「くも」
「荒鹿」→「荒れる」の古語「荒(ある)」と「鹿」の音読み「か」
つなげて読むと「いぶせくもあるか」、意味は「心が晴れないことだ」となります。
今度は早期鷹・・・←偶然変換でこうなったけど、こんなようなことですね。そうきたか・・・。もはや和歌の意味を度外視しすぎて、これらの戯書のウィット感勝負の色合いが強くなってしまうのでは、と勝手に心配になります。もちろん和歌の意味と、使っている漢字の意味とは関係がありません。
向南山(きたやま)
最後の戯書事例です。
これは、山が南に向いているのは「北にある」ということ。つまり「北山(きたやま)」と読みます。
えー、ならば北山と書いた方が良いのでは!!と思ってしまいますが。あと、山が南を向いているというのは山に正面があって、正面が南に向いているということなのでしょうか。んー、分かりづらい。。
あとがき
万葉仮名はあくまで、漢字の意味を抜きにして音だけを借りて日本語を表す方法。しかしこんな風に色々な万葉仮名遣いをしていました。
戯書はお茶目で面白いのですが、万葉仮名は和歌を一言一句きちんと表したい!とできていった経緯を鑑みると、万葉仮名の戯書は和歌の内容よりも万葉仮名の謎解きとしていかに優れているかのユーモア勝負!になってくるような気もしてきます。
もしかすると、万葉仮名名人みたいな人がいて、和歌の作り手とは別に表現としてユーモラスに書き残していたのかも?!
また、考えてみると、万葉仮名ができてきた奈良時代は日本語を何とかして漢字という文字で表したい!と試行錯誤を始めた時期。まずは漢字という文字と慣れ親しむフェーズだったのだと思います。万葉仮名を手なずけ、漢字という文字に対しての余裕が出るくらいまで漢字と仲良く遊んでいる、まさに「戯」れていたのでしょう。
それにしても、万葉仮名だけで書かれた和歌を後世の人が読み解いたのはすごいことです。普通の万葉仮名だけでもたくさんあって大変なのに、こんな色んなパターンの謎解きが含まれているなんて。
いつの時代も、言葉や文字って面白いね!
次回は、「まるで謎解き【戯書②】エモい苗字編」!
「一」「小鳥遊」「四月一日」など、万葉仮名の戯書のようなエモい苗字をご紹介!来週をお待ちください^^