#111『あなたのリンパはなぜ流れないのか?』加藤征治
非常に勉強になった。私はヒーラーとして体の不調を解決する仕事をしているが、生理学とか解剖学とか、「学」のつくことはほとんど何も知らない。しかしここに来て興味が出てきた。
リンパとは一体何者か?
著者曰く、専門家以外は結構誤解しているとのこと。例えばそもそも「リンパマッサージ」という言葉も間違っているという。マッサージは筋肉に対してするもので、リンパに対してするものはドレナージと言う。
それとリンパマッサージの成果として言われるものも、明らかに「付随的に」血行が良くなった結果だったりして、まあ、結果が出ればそれで充分結構なのだけれど、なかなか理解されていないらしいのがこのリンパなるもの。ちなみに現在では「リンパ腺」という言葉は専門的には用いないらしい。
本書については感想分というよりは、自分のための備忘録として書く。
撫でるような微弱な刺激でリンパの流れを良くするリンパ・ドレナージは1936年にフランス、ついでドイツで考案、開発されたそうだ。まだまだ新しい療法と言える。
リンパ系、というネットワークが体にはある。リンパ液・管・節、などからなる。リンパ系は外から入ってくる病原菌に対する抵抗組織。
で、もう一つの役割がちょっと込み入っているのだが、心臓から出発して全身を巡って血液が戻ってくるとき、お帰りになるのは90%ほど。10%は漏水しているらしい。で、この漏水を回収するのがリンパ系。
なんか、上手く出来過ぎているなあ~と毎度感心するこういう話。
ちなみにこの漏水(組織液という)が戻ってこないと、むくみになる。だ・か・ら、リンパドレナージをすると、むくみが取れるという訳なんですね!
もっともただ漏れた水を吸い取るだけではない。その「水」は静脈の血である。動脈は新鮮な血を運ぶが、静脈は老廃物を積んで帰ってくるトラクター。だから荷台から残骸が零れ落ちたら道路が汚れる、町が汚れるという訳。
従ってリンパ系は水を吸い取るただの乾いた雑巾ではなく、老廃物で体が汚れないようにしてくれてもいるのである。リンパ系、偉すぎるぞ。
ちなみに著者はリンパ管を下水道として図示している。確かに。地上に水が溢れないように水を集め、しかも浄化して海に流すとなれば、確かにそういうことになる。
なおこの比喩で言うと、リンパ液(下水)はリンパ管(下水道)を通り、リンパ節(下水処理場)で浄化する。そして静脈(海)に還元する。
よくよくこの世界は内も外も同じ原理が働いている…
リンパ管は血管に併走している。しかし体液が流れる量と速度は全然違う。血液は1日に6000ー10000リットルも流れるという。ドラム缶50本分…。一方、リンパ液は1日1リットルというから雲泥の差である。そしてその分、非常にゆっくり流れている。
ちなみにリンパ管には弁があって一方通行なので、リンパドレナージも、撫で撫でする方向が一定だということだ。やっと意味が分かりました。
再び漏水についての話なのだが、血液の流れが速い方が(つまり血行が良い方が)漏水が少ない。つい素人考えだと「その方が勢いがあって漏れる量も増えるのかな?」と思うけれど、そうではない。逆に流れが遅い方が、漏れるための「時間」が増える。だから血行が悪くなる・心臓の機能が衰えるなどすると、漏水量が増え、リンパ液も手一杯になってしまう。それでむくむのだそうだ。
この話から更に進んで…
最近読んだ何冊かの本で、「血液は重力の影響で下半身に65%集まっていて、心臓に戻ってくるのが大変。それを助けるのがふくらはぎの筋肉である」というのを学んだ。歩き過ぎるとふくらはぎの血液・リンパ液が戻れずにむくんでしまう。それで昔の旅人は脚絆をしていたというのだ。よく考えたものである。そしてそんなことも知らないくらい、歩いていないんだなあ、私たち現代人はと改めて思う。
最近父が手術をした。その後むくんだ。この理由は、手術の時、転移などを防ぐために付近のリンパ節を切る⇒リンパ節は新しいのを再生する⇒しかし新しいリンパ節は排水能力が低いから、らしい。
リンパ液は非常にゆっくりとだが、しかし流れ続けていないといけない。筋肉はリンパ液を流す推進力になるので、筋トレはやはり何歳になっても、というか高齢になってこそすべきであるようだ。
次にリンパ系対病原菌の戦いなのだが、これが非常に面白い。
病原菌が体内に入ってくると、リンパ系は戦場(リンパ節)に誘い込む。だからリンパ液の流れが速ければ速いほど、短期決戦で済む、という訳だ。
更に細かく言うと、リンパ液の中に「マクロファージ」という病原菌専門の連行部隊がいる。で、敵を捕まえて身元を調べ、リンパ球に報告する。リンパ球は飛脚みたいなもので、砦(リンパ節)に飛んでいってこの情報を伝達する。するとリンパ節は抗体を作り始める…
その後、マクロファージが病原菌をリンパ節に引っ張ってくる。そこで病原菌と抗体のバトルが始まる。
この戦いが激しいと、戦場が荒れに荒れる。それでリンパ節が腫れるのだそうだ。そして一度の戦いで覚えた情報や戦術は、一生涯細胞に記憶される。
リンパ球についてはまだよく分からない。
上の説明だと、病原菌と戦うのは「抗体」ということになっているが、次の章では病原菌と戦うのは「リンパ球」ということになっている。
いずれにせよ、リンパ球は非常に過酷な養成学校で育てられるらしい。リンパ球は骨髄で生まれて胸腺に移動し、そこで成長するのだが、合格率は10%。そしてそれは同時に生存率でもある。なぜなら優秀なリンパ球として育つことができなかった者たちは、抹殺されてしまうからである。こんな大変な修業を乗り越えて、私たちの体を守ってくれているんだね。
最後に話はちょっと変わるが、癌細胞の話。
癌細胞は広がっていこうとする。その時、自分が移動するためのリンパ管を勝手に増設していくらしい。そしてその道路を使ってリンパ節に入り込み、そこで自分の砦を立ててしまう、ということだ。
同様に、毛細血管も増設して、それをエネルギー補給路として使う。
怖いけど、面白いね。
どうしてこんなことになっているのか、謎が深まります。
以上、リンパ系についてのまとめでした。
リンパドレナージを少し試してみた。ちょっと分かるような気がするが…向いていないかもしれない。