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水深800メートルのシューベルト|第523話

 すると、ぱっと電気が点いた。僕は眩しくて思わず顔を背けた。すると目の前に、赤黒い粘っこそうな液体が広がっていた。血だった。


 僕は眩しい光に抵抗して、視線を大きな塊の方に移した。大きな女の人のようだった。髪の束をモップのように広げてうつ伏せになっていた。ピクリとも動かず、その人を中心に血の地図が広がっていた。


 気がつくと、奥の部屋からこちらに通じるドアの所で、目が窪んだ女の子が立っていた。パジャマ姿で、上半身の至る所に赤い大小さまざまな大きさの模様がついていた。


「ア、アシェル……」
 泣いているような声だったが、目からは涙は出ていなかった。しかし、涙の跡が頬に残っていた。それを見ると、彼女を抱きしめたくなった。しかし、彼女の腕はおろか手やクビについた赤い染みがそれをためらわせた。

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