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水深800メートルのシューベルト|第1199話
僕は、素直な気持ちで、音を立てずに拍手をした。会話以外の音は禁止されているのではないのだから、そうする意味はなかったが、恥ずかしい気がしたし、みんなを刺激してはいけないと思ったのだ。すると、周囲からパチ……パチ……と、まばらな拍手が聞こえてきた。
ロバートは子どものように鼻を指で擦って微笑んだ。
「音楽ってのがどういうものか、わかったかよ。ほら、弾いてみろ」
彼は、ピアノを僕に突き出してきたので、それを手にした。今度こそはあいつより上手に弾いてやろうと一つ一つの鍵盤を優しく押し、心の中で調子を取りながらゆっくりと離すようにした。演奏の間、心の中でいきり立ったものや覚悟といった乱れた感情が湧いてこなかった。代わりにお婆ちゃんの緩んだ皺だらけの頬や、小さくて優しげな目が浮かんできた。懐かしさと寂しさの入り混じったような気持ちで、あの頃弾いていたのと同じように弾けた気がする。