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水深800メートルのシューベルト|第1195話

 思わず彼の顔を見たが、ふざけている様子はなかった。無言で白い鍵盤の一つを指してやった。すると、彼はそれをそっと押した。Cの静寂を包み込むような低い音が、重々しく空間に漂い、やがて薄くなった。


 どこかから「クスッ」と笑う息の音が漏れた。いかついロバートと、おもちゃのピアノが不似合いだったのだろう。息の音は、相手がロバートである事を意識したのか、すぐに止まった。


 早くピアノを返してくれないかと念じていたが、今度は、ピアノの鍵盤を順に押している。


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