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水深800メートルのシューベルト|第519話
「もう、やめなよ。子ども相手にさ」
近くにいた女の人が、その酔っ払いの腕に自分の腕を絡まながら僕に目配せをした。僕は小さく頷いて先を急ぐことにした。
「冗談だよ、冗談。おいそっちには、ボロ家しかねえぞ。聞こえねえのか」
後ろから怒りと嘲りの混じった様な野次が跳んできたが、追いかけてくる気配がしなかったので、僕は先に進んだ。
水はけが悪いのか雨が降ったのか、草を踏むと柔らかい地面にぐにゃっと足先が沈むような感触があった。ぬちゃぬちゃと音が鳴る足元を嫌な思いで見ていると、灌木の影が突然現れてぶつかりそうになった。僕は、すんでのところでそれを避けて、奥にある建物の影を目指した。