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水深800メートルのシューベルト|第518話
僕は、雪山の店先でグラスを片手に大騒ぎするおじさんたちの前を、足早に通り過ぎようとした。その近くにはメリンダとは違う女の人が、暗闇に光る血のような色の口紅をつけて、酔っ払いを見ていた。
「おい、坊主。子どもがこんな時間にうろちょろするんじゃねえ!」
ドスのきいた声に、僕は飛び上がりそうになった。横を見ると、酔っ払いの中でも、ひときわ大きく、首まで真っ赤にお酒で染まった男が、立っていた。僕は、恐くなったが、メリンダの家に向かう道は、目の前の道しかない。彼をやり過ごそうと笑顔を作り「今から帰るよ」と言った。しかし、男は
「へへ、お前、ここを通る時には、通行税を払わなきゃいけないんだぜ」
と言って、僕の前に立ちはだかった。