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水深800メートルのシューベルト|第904話
「ええ、夜は102度くらい(注:単位は華氏。39℃相当)だったけど、一晩で引いたのよ。わざわざ知らせるのもどうかなって思ったんだけど」
彼女は、叔母さんのいるリビングに首を向けた。そして、ひと呼吸おいてから言った。
「あなたに嫌がらせをする人じゃなければいいわ。誰から来たかは訊かない。あなたは自由だし」
「メリンダだよ。いつか話した。別に隠すことでもない。出所したらしいんだ」
会わない方がいい、話すうちに決意が固まっていた。
「それだけ? 近くにいるんでしょう? 手紙は直接届けられたんでしょう?」
「会いたいって」
できるだけ感情を押し殺すように言った。
「会ってきなさい。言ったはずよ、あなたは自由だって」
トリーシャは、命令するように言った。