「ここにいる彼女が、困っているように見えたものですから」
「私の許可なく、だな」
教官は苦々しい顔をした。
「これは懲罰ものだぞ。最悪除隊もあるな。家に帰るんだ、覚悟はいいか」
血の気が引いてきて、立っているのが辛くなってきた。
「そ……そんな」
奨学金、それどころかこの後どうやって生きていくのか、帰る家なんて……、そんな考えが渦を巻いて、息が詰まりそうになる中、金網の向こうから彼女の声が聞こえた。トリーシャと呼ばれた子だった。
「私が渡したんです。私の責任です」
「君に発言許可は与えていない!」
教官はピシャリと言った。
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