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水深800メートルのシューベルト|第1194話

 プアチャイルドの言葉に、チクッと刺されたような嫌な気分になったが、ピアノを貸せという申し出に、痛みは搔き消された。そして、益々困惑した。まさか、取り上げて壊すつもりじゃないだろうな? どこへ行くのにも――リクルートキャンプには持ち込めなかったが――手放さなかった心の相棒を。もし粗雑に扱ったりしたら、殺してやる!


 躊躇いながらも、それを渡すことにしたのは、彼の乱暴な言葉遣いと、そのクリスマスにプレゼントを期待しているような爛爛とした目が矛盾していたからだ。ロバートは何を考えているのか? 僕は、規則に忠実なまま、無言でピアノを差し出した。


「ヘッヘ。こういうのは、芸術的な才能なんだよ。おい、の場所はどこだ?」


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