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人生初の(オフラインの)表彰式に参加してきました|表彰された作品も載せました
はじめに
こんにちは。吉村うにうにです。普段は長編小説、エッセイ、ショートショート、詩などを書いております。例えばこんなのを
今回は文芸も文芸以外も含めて、人生初のオフラインでの表彰式に参加してきましたので報告します。
表彰式? 何のこと? まさか……
きっかけは一本の電話でした。こんな感じの留守電が入っていました。
「吉村うにうにさん。こちらは『うつのみや童話の会』事務局の〇〇です。表彰式には出席されるかどうかのお返事をまだいただいていないのですが……」
留守電を聞いても何のことかピンときませんでした。うつのみや童話の会様へ童話を送ったことは覚えていますが、いつも全力投球で出しては、結果を気にしないで過ごしているので、未熟な私が簡単に賞を頂けるなどとは思っていません。それに受賞したとも言われていないし、メールも来ておりません。
「表彰式? 作品を提出した人は出る義務が生じるのか?」などと考えていました。
しかし、問い合わせてみると、衝撃の事実が分かりました。
①第2回うつのみや童話の会賞に佳作で選ばれたこと
②応募時に私が記載したメールアドレスにスペルミスがあってメールが届かなかったこと
お電話で二つ返事で参加させていただくと伝え、電話を切りました。
いざ、宇都宮へ
数日前に金沢へ行ったばかりなのに、もう宇都宮への旅です。前回の旅の記事はこちら。
今回も表彰式という目的特化型旅行ですが、一人旅ではなく、家族も一緒でした。宇都宮駅に着きました。住んでいる大宮から25分くらいです。
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折角なので、ランチバイキングに宇都宮東武ホテルグランデでランチをブッフェで頂きました。品数は少なかったけれども、一品一品のクオリティが高かったです。また行きたいと思うレベルです。デザートはこんな感じ。
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会場は宇都宮中央図書館でした。
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会場の雰囲気が厳かで、めちゃめちゃ緊張しました。しかも受付で、
「表彰の時にコメントを頂きますので、内容を考えておいてください」
ええ? こ、こ、コメントですか? 先におっしゃって頂ければ準備したのに、と思いましたがどうしようもありません。会場についてから式が始まるまで数分の間、普段はプロットを書くためのノートにスピーチの内容を必死で作りました。皮肉なことに、作っている間だけは緊張しているのを忘れました。
表彰状は、児童文学者の高橋秀雄先生から頂きました。ちょっと、手が震えました。
その後、表紙画像のように即興で書き上げたメモをもとにコメントを話しました。画像では分かりませんが、手は微かに震えています。メモを元に再現したのが以下のスピーチです。記憶とメモを頼りにしているので、不正確な再現ではありますが、伝えたいことは言い切りました。カッコ内は言って笑いを取りに行こうと考えましたが、会場の雰囲気を見て口にしていません。
初めまして、吉村うにうにです。この度は賞を頂き感謝しております。
私自身、受賞に驚いております。(今日いきなりコメントを求められたことにも驚いています。)
というのは、受賞を目指して一生懸命書いてきましたが、今回の募集テーマである
「これが元気だ、明るさだ」
という雰囲気はならず、私が書いたものは、暗く、切ない物語になったからです。
この作品は仕事でとある病気の人と関わることがあり、その人には何とか立ち直って欲しいという思いを持って日々過ごしていたので、その思いに影響を受けて浮かんだ物語です。
作品が完成してみると、不思議なことに
「募集テーマとずれているが、これでいい。いい空気感が出ている」
と思いました。確かに本作品は暗いですが、その暗さの中にも仄かに希望や慰みがあって、それは、暗闇の中で蝋燭が光輝いて見えるように、明るく見えるのではないかと考えました。もしかしたら、審査員の方にもその点が伝わったのではないかと、解釈しています。
本当にうれしい限りです。ありがとうございました。
全て吐き出せてスッキリしました。言いたいことは、作品を作りながら自分の中に沈殿するように積もっていたので、五分でメモ書きができたのだと思います。逆に、自分に言いたい核のようなものない時はいい作品にならないのだと、これまでの作品作りを反省した次第です。今回はテーマから外れた点は失敗作かもしれませんが、自分が伝えたい雰囲気や内容を表現できたという意味では、上手く書けたように思います(自己評価が高すぎて、自分に甘いのが私の欠点です。分かっています。でも、あまりに自分に厳しいとモチベが下がっちゃうんです)。
次の質問にびっくり、受験に予想問題が的中したような奇跡が!
席に戻ろうとすると、司会をされていた先生から引き留められて、もう一つ質問があると尋ねられました。
「吉村うにうにさんの『うにうに』はどこからきているのですか?」
ええ? 気になるのそこですか? 普段はどんな作品を書いているとか、 仕事何しているとかじゃないの? と思いました。普段の私なら想定外の質問に慌てる所ですが、奇跡が起きていました。以前、同様の質問をnoteでされた時に、エッセイに書いていたのです。エッセイはこちらです。
以前訊かれたものと同じ質問が来るとは思いもよりませんでした。世の中って、そんなに『うにうに』の名前の由来が気になるのでしょうか? でも、興味を持って頂けるというのは嬉しいです。エッセイの内容に描いた話をかいつまんでお話ししました。
前回エッセイに書いていたおかげで、緊張しながらも答えることができました。これは、自分が自分に興味を持つ部分と、他人が自分に興味を持つ部分のズレを認識できた貴重な体験でした。
では、受賞作を掲載します。読んで頂けると嬉しいです
パパの手とお出かけ
吉村うにうに
お誕生日だと言って、隣に住むテル君のママからクレヨンをもらった。おばあちゃんは今日も出かけている。多分、パパのところに行ったのだろう。
「このクレヨンで描いたものを触ると、色が変わってくるのよ」
テル君のママは、金色の髪をした美人で、優しくていつもぼくに声をかけてくれるけれども、時々変なことを言う。
早速、パパの手を描いてみた。本当は顔を描きたかったけれども、描けなかった。いつも怒って悲しそうだったから。
手の甲は、テル君が描いてくれた。
「ぼく、おじさんの手を知っているよ」
こげ茶色で描いていたが、その通りだと思う。ぼくは、手のひらを薄い茶色で同じ大きさに描いた。パパの手は、ぼくやおばあちゃんのとは違って、土みたいな色をしている。
手の甲と手のひらができた。その二枚の手を切り取って、のりで貼り合わせた。中に座布団からちぎった綿を入れて閉じると、ふっくらとしたパパの手ができた。その手を握ってみた。ほんのりと温かいような気がした。
寝る時、布団に手を持ち込んだ。初めてパパに手を握ってもらったようだった。優しいパパの手の感触。鼻をつけてみると、乾いた汗と土の匂いがする。
テル君のママが、レストランに連れて行ってくれた。お金はおばあちゃんがくれたから、心配しなくていいと言う。テル君はハンバーグを、ぼくはオムライスを頬張った。楽しくなってきたので、パパの手をテル君のママに見せた。ママは、少し困ったような顔で笑っていた。テル君は、少し茶色が薄くなったと言った。よく見ると、パパの手のひらの色が少し赤くなっている。僕は、パパの手にビールを持たせてあげたくなった。テル君のママは、ノンアルコールならいいわよと言って注文してくれた。お酒が大好きなパパの手は、グラスにぴとっと吸い付くようだった。ぼくは、その上から手を握った。本当のパパは、今も好きなお酒を飲めているのかな?
おばあちゃんが病院から帰って来た。いつも辛そうな顔をして黙っているが、少しずつ黙っている時間が短くなっていると思う。
一度だけ行ったパパの病院。鉄格子の向こうに閉じ込められていて、おばあちゃんしか会えなかった。あの時、待合室に戻って来たおばあちゃんの目はウサギみたいに赤かった。パパは、お酒を飲む量をよく間違えるのよ。そう言って、椅子に座って大人なのに泣いていた。あの時、このパパの温かい手があったら、よしよしとなぐさめてあげられたのに。
この日はテル君たちと遊園地に行った。テル君、テル君のママ、ぼくの順で並んで手をつなぐ。もう一方の空いた手がさびしいので、そちらでパパの手をにぎった。かすかににぎり返してくれたような気がしてうれしくなった。まるで家族四人で出かけているみたいだ。本当のパパの手はいつもビールの缶を持っていて、つないだことがなかったから。
テル君やパパの手とジェットコースターに乗った。子どもだけだと叫びたくなるが、パパの手をバーにつかまらせ、その上からぼくの手を重ねると、不思議と怖くなかった。テル君はギュッと目をつぶってキャーと叫んでいたが、ぼくは平気だった。だって、パパの手があるから。
汗でびっしょりと濡れたパパの手の甲を見ると、色がぼくの手のようなうすいピンク色になっていた。手のひらはもっと白いピンクに赤みがあって、本当に血が通っているようだった。それをテル君やママに見ていないときに、そっと首に当ててみる。ぬくもりが首や頭に伝わってきて、幸せな気持ちになった。
次の乗り物で失敗してしまった。滝の上から急流を下るボートに乗った僕とテル君はたっぷりと水をかぶってしまったのだ。紙でできたパパの手はふにゃふにゃになり色は滲んでしまった。くずれた形を直そうとしたら破けてしまった。
帰り道、なんだか悲しくなって、目からぽろぽろと涙が出た。テル君はまた一緒に作ろうと言ってくれたが、やっといい色に変わってきたパパの手だったから、捨てたくはなかったのだ。
ぼくはおばあちゃんに頼んでストーブを出してもらい、パパの手を乾かしてみた。色は茶色に戻り、綿がはみ出ていた。
その夜、しわだらけのぼろぼろのパパの手が治りますようにと祈りながらそれを抱えて寝た。本当のパパとは一緒に寝たことがなかったから、もう手を離したくなかった。
朝日がまぶしくなった頃、何かが僕の顔を撫でていた。ザラザラして汗の匂いがする。うっすらと目を覚ますと、ピンク色のごつい指がぼくの首や頭を触っていた。あれ? 手が直ったのかな。そう思ったが、ボロボロのパパの手は頭の下にあった。それとは違う温かい指の持ち主は、泣きそうな声でぼくの名前を何度も呼びかけていた。
(了)
賞状や副賞も頂いちゃいました。こんな感じです
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緊張し通しの表彰式でしたが楽しかった
人生初の表彰式は良い体験でした。また出られればいいなとは思いましたが、人生そうそう甘いものではありません。ただ、最近書くこと自体が自己目的化している中で、こんな揺らぎもたまにはいいのでは、と思いました。これからもスタンスは変わらず「書くことを楽しむ中にも、賞もちょっぴり欲張ってみる」ということに落ち着いたと思います。
家に帰ると、猫さんが「今日も遅かったわね、さ、尻尾を吸うから傍にいてよ」と甘えてきました。猫さんが、喉を鳴らしながら尻尾を吸っている時間は至福の時でした。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございました。