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水深800メートルのシューベルト|第1193話
僕は、かつてお婆ちゃんと暮らしていたアパートメントを想い出していた。大きなソファで眠るお婆ちゃん……、点けっぱなしのテレビ……、そして冷蔵庫に入っていた炭酸水……、それらを振り解いて鍵盤に戻ると、指が勝手に動いていた。上手くなったことに驚きながら弾き続けていると、ロバートは人差し指を立てて小さく振った。
「さっきよりは良くなったぜ。でも、何かが違うんだよな。もっと眠くなるように弾けよ。いや、そのおもちゃの性能かなあ?」
彼はこんな事に一生懸命考えるように首を傾げ、眼球を天井に向けていた。そして、続けて言った。
「やっぱり、才能なんじゃねえか? 可哀相に、お前は何をやらせても『できない子』だねえ。ほら、貸してみろ。手本を見せてやるから」