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水深800メートルのシューベルト|第1197話

彼は照れたのか、しかめ面をしたが、怒っているようではなかった。僕は静かに頷いて体を起こし、向かいのセペタのベッドに置きっぱなしになっていたホワイトボードを取り寄せ、そこにEだのFだのと音階を一通り書いてやった。音符の載っている古いノートは確かロッカーにあったはずだが、この曲だけは今でもそれを見ないでも、曲を頭に流しながら、すらすらと思い出すことができた。


「すまねえな。ええとEEGの次はDEFな……」
 彼は、ひどくゆっくりとしたテンポで、一音一音確かめるように弾き出した。


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