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アークティック・モンキーズはなぜすごいのか!?シリーズ⑤<太陽いっぱいに浴びた4thアルバム『サック・イット・アンド・シー』>

リリース年は2011年。本作がリリースされる前、アークティック・モンキーズは先行曲として"ブリック・バイ・ブリック"を、その次に"ドント・シット・ダウン・コーズ・アイヴ・ムーヴド・ユア・チェアー"を公開した。


この2曲はファンを大きく動揺させた。「前作の延長線かつ更にわけがわからなくなっている!?」といった印象を与えたのだ。筆者自身"ブリック・バイ・ブリック"を聴いたときは「ジェットみたいだな。。。アクモン次はこれか。。。?」と動揺した1人だ。しかもボーカルをとっているのはドラマーのマット・ヘルダース。アークティック・モンキーズの中で何が起きてるのか全く掴めなかった。むしろ同時期に新曲"アンダー・カバー・オブ・ダークネス"をリリースしたザ・ストロークスの方に皆が期待を寄せていた雰囲気があった(余談だがこの曲はザ・ストロークスの1stの頃を思わせるようなプロダクションで、往年のファンは「あのストロークスが帰ってきた!」と歓喜したのだった」)。


だが結果としてリリースされたアルバムの内容は、先行曲とは真逆の太陽光がまぶされたようなキラキラとしたヴァイヴスを放っており、オーセンティックなソング・ライティングが集結した”歌のアルバム”だった。むしろ先行曲が浮いてしまっているようなアルバム。確信犯的に先行曲を選んだのが手に取ってわかるほどに違う。これまでのリフ中心に組み立てられた曲はほとんどなく、コード進行によるメロディ重視の曲が大半を占める作品だ。アレックス・ターナーは今まで以上に”歌って”いる。前作でいう"コーナーストーン"や"シークレット・ドア"の完成形がどしどし収録されているような感じで、これまでアークティック・モンキーズの熱心なファンでなかった人をも魅了させることに成功した。当時活躍していたアメリカのバンド、ガールズとも共振するような内容で美しいメロディの目白押し。アークティック・モンキーズにしては珍しく、オプティミスティックな印象さえある。


最もこうした手法はシリーズ①で記載した通り、普遍的な手法であるし、普通のバンドなら初期から通過しているものだが、アークティック・モンキーズにとっては初の試み。これまでのリフ中心に組み立てられた楽曲制作から距離を置くことで、古典的ではあるものの新しいサウンドを手にしている。その最たる例として挙げられるのはやはりギターだ。ここにはこれまでなかったキラキラしたアルペジオがふんだんに使われており、よりロマンティックな演出に成功している。曲の大半がラブ・ソングでアレックス・ターナーの歌詞も最高。ちなみにアルバムのタイトル『サック・イット・アンド・シー』は「試してごらん」という意味。先行曲で驚いた人に向けて「まぁ聴いてみなよ」ということ。どこまでも粋なバンドだ。

では今回も重要曲について解説していこうと思う。しかし今回はやや淡白な紹介になってしまうだろう。なぜなら行き着くところは先述した通り、”歌を中心とした素敵な曲”になってしまうからだ。

1.She’s Thunderstorm

冒頭からギターのアルペジオでスタート。新章の幕開けだ。これまでとは見違えるような変化がここにはある。1stから3rdまでで鍛え上げられたリズム隊は平凡な8は刻まない。コーラス部分でスネアの連打なんて初めて聴いたよ(くるりの"魔法のじゅうたん"のアレンジはここからきているのではないかと思っている)。後半のギター・ソロの音色は『ハムバグ』で培ったもののように思う。リフは一切出てこないまま、輝かしいギターと非常に美しいメロディを堪能できる名曲に仕上がっている。これまた完璧なオープナーだ。完璧すぎて早くもA面ハイライト。

2.Black Treacle

巨人がゆっくり行進するように刻まれるコードで始まる。その下を這いずり回るようなベース・ラインも聴きどころだ。どこかブリット・ポップ期のバンドを彷彿させなくもない。中心はやはり歌にある。コーラス部分の清涼感はこれまでなかった感覚だ。どこまでも透き通った青空のような曲。

3.The Hellcat Spangled Shalalala

前半はベースとドラムの上をアレックス・ターナーが伸びやかに歌っている。それにしてもギタリストが変わったのかと思うほどの変化だ。後半のアルペジオの輝きは往年のザ・ストーン・ローゼズを彷彿とさせる。これまで多用してこなかった空間エフェクトもここでは大活躍だ。コーラスと思わしき箇所は最後に一度出てくるだけ。クール!


4.Library Picture

この曲はちょっと異色の類だがかっこいい曲なので紹介したい。激しいドラミングから、これまた激しいリフに入ったかと思いきや、一気にクール・ダウンしてスロウなバラード調に変化する。そこからまた激しいの応酬だ。2ndの頃の遊び心と今作の挑戦が入り混じった、そんな曲である。2分22秒という尺もいい。あっという間に終わる奇天烈な曲。

5.Reckless Serenade

この曲はコードすらほぼ鳴っていない。基本的にベースとギターのアルペジオの上を滑るように歌が降りてくる。ヴァース2の的確な位置で唯一コードが鳴らされており、気づきにくいがいい演出を果たしている。そしてやはり最後のアルペジオと歌が印象に残る。歌詞もまた秀逸なのだ。一節紹介したい。「歯が衝突する激しいキス/彼女の笑い声は空が刺激的な子守唄を歌っているよう/こういった眩しくも手強い女性の目はグルグルと回りながら輝いているもの/その催眠にかかったとしても通りかかった彼女が気づくことはないんだ」。名曲。

6.Love is a Laserquest

全編アルペジオで展開されるこの曲もコードはほとんど出てこない。失恋した自分を慰めるようにきらめくアルペジオはミニマルであるものの、上物のボーカル・メロディの変化が彩りを添える。歌詞は次のような感じだ。「パイプとスリッパでロッキンチェアに座って/ある出来事を馬鹿げた歌にするんだ/ついに見つけたよ/君への愛は軽いものだったと偽る良い方法を」。要はドラッグをキメて曲を作ることで失恋から立ち直ろうとしている内容。


7.Suck It and See

この時点でアークティック・モンキーズ初のタイトル曲。ポップ・ソングのお手本のような曲だ。構成も奇抜なことはしておらず、ヴァース→コーラス→ヴァース→コーラス→ブリッジ→コーラスとなっている。この曲はコードの音色を追ってるだけでもロマンティックな気分になる。リップ・ノイズをあえて残した録音もいい味を出している。コーラス部分にまぶされたアルペジオは全てを祝福するような多幸感に満ちており、歌詞も全て書き出したくなるほど最高だ。「心の痛みをポップソングに注ぎ込もうとしたけど/作詞のコツが掴めなかった」という箇所がお気に入り。B面ハイライト。


今作はこれまで以上にギターを抜き差しすることで、そのときどきに織り込まれたギターが映えるようになっている。そしてどのギターもしつこくないのだ。嫌味がない。ベースとドラムを基軸にどうギターを入れるか、そんな風なソングライティング。これまでのリフとドラムのコンビネーションはないが、その分美しいメロディがここにはある。このときのバンドのモードは「いい歌」を作ることだったことに違いない。その分音楽的な興奮が過去作に比べて少ないのは事実。しかし「同じことは繰り返さない」と言ったもののここまで有言実行できて、かつ4枚目で古典に戻るあたりは面白い。さて、次は現時点で最高傑作の呼び声高い『AM』について解説していこうと思う。


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