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初参加!福⑧堂/玖珠町 吉武琢磨さん

福⑧堂/玖珠町 吉武琢磨さん日本ミツバチを飼うのは難しくて、大抵の人が逃げられてうまくいかないと聞きます。それはなぜ?
「日本ミツバチは野生の生き物です。付き合い方をミツバチ目線にするとちゃんと蜂蜜を分けてくれます。
人間の意識を変えると意思の疎通が出来てきますよ。」

吉武さんは珍しい、希少な日本ミツバチの蜂蜜を「福八堂」の看板を掲げて販売しています。
手彫りの蜂蜜スプーン、商品のパッケージデザインも積極的に行って、
販売は通販ではなく、手売り。ちゃんと説明してわかってもらって手渡ししたいとこのスタイルを今のところ
続けています。東京でも年に一度販売会をされていて、それを知ったお客さまがわざわざ関東から玖珠町
まで来てくれることもあるそうです。

吉武さんの玖珠町の工房で日本ミツバチのお話と、玖珠町のこと、環境のことをお聞きして自分の思い込みや世界が変わっていってるなあ、という希望のある明るい気持ちになりました。
これから畑で日本ミツバチの巣箱をおきたいなあ、と思っている人や毎年あんまりうまくいかない方にも吉武さんの気が付いたこと、ミツバチから学んだことを少しお伝え出来たらと思います。

「僕の関わる日本ミツバチには採蜜の時だけを例外にして365日のうち、ストレスをかけないで過ごしてもらうようにしています。」
巣箱の管理やメンテナンスなども出来るだけ作業内容や時間に余裕を持って臨むようにしています。
「僕のことを認識してもらうように、数メートル離れたところで静かにしていてそっと話しかけます。
 機嫌が悪そうだったら15分くらいかけてこの人間大丈夫、とミツバチが思うまで待っています。」
話しかける・・・。お天気の話題とかでしょうか・・・。
「はい。人間と同じです。寒くなったね、とか。花の蜜は何を採ったの?とか。まあ、返事してくれないですけど。ははは」
それからおもむろに、巣箱が少し傾いているから少しもとにもどすね、とか石を噛ませて安定させるよ、とか。
作業工程の予告も全部伝えるそうです。
そうすると刺される割合がぐっと少なくなって、ずっと巣箱にとどまってくれているそうです。
「日本ミツバチに限らず、昆虫とは意思の疎通が出来ると僕は実感しています。」

面白いのが群れによってかなり性格が違うそうです。気性が荒い群と穏やかで温厚な群。
原因は環境なのかもしかしたら遺伝的要素があるのではないかと予想しています。

「日本ミツバチは分蜂しますが、女王蜂の娘が残って母親が出ていくパターンです。そこで巣箱でも新しい群れでも数が増えて大抵1か月で体制が出来ていくけど同じ遺伝子で気性の粗さが似ている気がします。」
その分蜂後の時期が大事で新人さんが次々誕生するのでなるべくこまめに様子を見にいくようにしています。
吉武さんのことを知っている古参の蜂から新人に伝わって認識されないとまた一から関係を気付いていくのが大変だからだそう。

吉武さんは玖珠町出身。高校卒業後は東京で何とバイクのスタントマンをされていました。
バイクが好きというより乗るのが好きだったそうで、お弁当の配達やらいくつか仕事を掛け持ちしながら続けていたそうです。でも2011年の震災を機に奥さんの勧めもあって地元の大分に帰って子育てすることを選択されました。でも帰ってきたはいいもの仕事がない。
でも日田の大山町で日本ミツバチの美味しい蜂蜜を採取して販売している方に出会いました。名人と呼ばれる人だったので頼まれて発送などするうちに、リピーターも多いし、ニーズがあるのがわかり、大山町で採れるなら玖珠町でもできるのでは、自分も挑戦してみよう、と思ったそうです。

「基本、楽観的な人間なのでとりあえずやってみる、軽く考えて始める、そして一生懸命やる。いつもそんな感じで始めるハードルは低かったです。」

大山町の「師匠」のやり方通りにして最初の年の蜂蜜は衝撃だったそうです。全然自分の理想とは違う。採蜜できて美味しいけど、師匠のはちみつとは別物でした。2年目は何が違うのか徹底的にのめりこんであらゆる情報を集めてネットで得た知識も応用して頑張ったそうです。でもやっぱり師匠のはちみつにはかなわない。
でも3年目で師匠を見ながら自然を観察しながら「もしかしたらこうかも」という感覚をつかんだそうです。
4年目にそれを試したら「やっぱり」という確認が出来て5年目は「そのとおり」という確信がつかめたそうです。来年は6年目。「日本ミツバチでちゃんと食べていく、自分の家族をちゃんと食べさせていくことが出来る、
本業として成り立つという手ごたえがあります。」すごく明るい眼で吉武さんが言われていました。

そのうまくいく「何か」というのをあっさり教えてくれました。
「企業秘密でも何でもないんで。誰にでもお伝えしています。」
「日本ミツバチとの付き合い方」が重要だそうです。
ミツバチの目線になって全ての準備や巣箱や接し方を人間のほうが変えるだけで意思の疎通が出来るようになる。

自分がやりたい方法でなく、ミツバチにストレスをかけない、ミツバチに嫌われない方法を選ぶ。
だからそっと話しかける・・・。
その方法で吉武さんの設置巣箱の入居率は手ごたえがが感じられるほど徐々に上がってきています。

日本ミツバチはすごく神秘的な生き物です。
「アナスタシア」というすごく面白い本に出てくるのですがミツバチは人間の悪意や邪悪な心を感知する力があるとか。
人間の感情や機嫌も感じるそうです。身体の悪い部分を指して治療してくれるという言い伝えもあるそうです。
吉武さんも腕についているのに気が付かず、肩と腕を刺されたことがあったそうですが、実は凝りに凝って動かなかった腕と肩がその夜から動くようになったそうです。

日本ミツバチとの付き合い方。
最近、巣箱作りのワークショップをすれば大盛況だし、畑の傍らに置きたいという生産者の方も庭に巣箱を置きたい。という方がとても増えています。ただ定着率がすごく低くて、ミツバチはいなくなったと言われます。
逃げられるのはなぜか、吉武さんに改めてお聞きしました。

「一番のポイントは自然入居かどうかです。」
日本ミツバチの養蜂をする時によくする工夫として私がきいた限り、
分蜂球から蜂を取って来て入れた、誘引剤でいれた、(人口の薬剤でもキンリョウヘンなどの蘭でも)巣箱を移動させた、女王蜂が逃げないように入口を狭くした、床板そうじをよくする、蜂が見えるようにアクリル板をはめて巣箱窓を付けた。などがあります。
もし私が日本ミツバチならどう思うか。

まず大前提として日本ミツバチは野生の生き物です。
人間が「飼う」という感覚ではなくミツバチが居心地よい環境である巣に入居してもらう、その巣箱を選んでもらうということが大事です。
つまり私がミツバチなら住む場所を自分で選べる権利があるわけです。

分蜂球になって新しい巣作りをする場所を探索蜂が飛んで探します。
巣の場所は寒すぎず暑すぎず、日当たりや湿度も彼らの何万年というDNAに受け継がれた能力で最適の場所を選ぶことが出来ます。
「選んでもらう」ように巣箱の場所の設置をミツバチにストレスがかからない場所を選ぶことが大事です。
誘引剤で無理に入ってもらっても、嫌な環境だったら出て行きたくなるわけです。巣箱を入居してから移動しても話が違う・・・ことになります。
ましてや女王蜂が逃げないように出入口を狭くするのは牢獄に無理やり閉じ込めるようなもの。
床板掃除は余計なお世話。自然に自分たちで出来るものです。例えるなら大家さんのおばちゃんが断りもなく毎日来て玄関掃除をしていくようなもの。アクリル板で中が見えるのはプライバシーの侵害です。

人間だったどうか、人間と同じ感覚で見ると本当にわかりやすいな、と思います。自然入居については「ミツバチはそんなこと感じない、虫だから」という感覚の方は納得されないそうです。
「ミツバチは野生の生き物。支配されるような生き物ではない、という前提に立つとまさしく同等に付き合ってはちみつを分けてもらう、という間柄になれます。ほんのちょっと目線をミツバチに合わせるだけなのに。」

ミツバチに限らず、人間が自然を自分たちだけのためにコントロールできるという過信で今まで誰もがやってきたと思います。
日本ミツバチを飼う。そんな憧れを持つ人はきっと自然のサイクルや生き物に興味がある人だと思います。
吉武さんの6年かけた「大いなる発見」きっとピンと来る方もいるのではないかと思います。
師匠は言葉に出来ないけどその感覚を持って蜂蜜を分けてもらっていた。
若い吉武さんはその感覚を言葉にしてわかりやすく伝えてくれることの出来る人。日本ミツバチを通して吉武さんが自然の言葉を伝える役割を担っていくんだなあと思いました。

蜂蜜の採取は巣箱の置く場所のセンスを問われることになります。
何年か置いてこの場所は必ず入居してくれる、というところの入居率も見込みがある程度たつし、さらに新規に置いたところも手ごたえを感じられて楽しくなってきました。
「自分もミツバチの気に入りそうな場所が分かってきました。その的中率は上がっていくと思います。」
日本ミツバチは趣味の領域できちんとした仕事にならない。とよく言われます。
でも吉武さんは仕事や地域で食べていくことができるようにしたいと考えています。
「自分が玖珠町の小学生だった時は自営業の親も多くて一学年100人はいた。今息子は一学年40人いるかどうか。自分の同級生も仕事がないからこの町にはいない。だからこの仕事でちゃんと経済的に成功したい。
息子が同じ職業につくかどうかは別をしても自分の父親がやりがいのある仕事をしてちゃんと家族を養って思ったことをさせてあげられているような暮らしが出来ている。ということを見せられるようにしたい。
後継者が育って、事業として継続できるところまでやりたい。それが玖珠町というふるさとのまちおこしに少しつながったらと思う。」

今年は不思議な現象で特にPRしなくても、どんどん注文が入ってほぼ完売の状態。「自分が楽しい、と思えることが増えました。そういう気持ちが伝わっている気がします。」

日本ミツバチのことが伝わるように、考えに考えたパッケージデザインも完成しました。「高級品になると思いますが買った人がすごく喜んでくれました。巣箱の様子、三種類の蜂蜜の違い、日本ミツバチとはどのような生き物なのかも伝わったらいいな、と思って。」
デザイナーさんには何度も気持ちを伝えて和紙のシールの質感やスタンプの色も全色試して、桐箱のデザインも直前でいいものが思いついて滑り込みで変更したり。

どこにどう販路を持つかも「売れるから」でない選択をされています。
吉武さんは食品添加物や品質が環境負荷をかけないかものすごく詳しいです。
それは奥さんの亜友美さんの影響だそうです。
「東京で付き合っている時から高くても身体にも環境にもダメージを与えないシャンプーとかを使っていました。強制はしないけどあなたにもできれば使ってほしい、と。シンガポールでの生活が長かったので環境意識が高く、僕も最初は変わった女の子だと思っていたけど勉強してみると納得いって、考え方が変わりました。
原発事故のあと大分に帰ろう、と言ってくれたのは奥さんだったし。」

生産者みずから、こうしたい、こういう気持ちを伝えたいという主体的な気持ちから出来たもの。生産者は自ら考えて自分の仕事に誇りを持って発信することが必要だと思います。
吉武さんの情熱を込めたこの商品と試行錯誤のお話を伺っているだけで胸が熱くなりました。
「はちみつ農家」としてどういうスタンスとポリシーでミツバチと関わっているのかが表現されていました。採蜜をするという仕事だけではなく、蜂蜜を受け取った人が環境のことを知る、意識を少しずつ変えていくことも吉武さんの仕事なのだと分かっている人のパッケージでした。

商品を出来るだけ磨いていいものを届けたい。
もちろん非加熱です。採蜜から瓶詰めの間に通常の養蜂家さんがしない工程が数種類あるそうです。
感覚の鋭いお客様は福八堂さんの蜂蜜だったら喉を通る、と言われるのはそういう工夫が伝わっているのかもしれません。

日本ミツバチでは仕事にならない。
まるで自然農や自然栽培の生産者の方が趣味的自給的農業、と言われるのと同じような感じです。
もしかしたら吉武さんも途中でいろいろな課題が出てくるかもしれません。
でも、日々あらゆる分野が進化しています。進化というより人間が気が付いていなくて発見されているのかもしれません。
自然農や自然栽培でも収量が上がっている実績もあるし、農産物自体のエネルギーも高く、別の効能もあるかもしれない。
量産できる産業の在り方も大切だし、様々なスタイルを共存させていくのが必要だと思います。時代が変わっている、という感覚をより強く覚えました。

どうして西洋みつばちの養蜂を選ばなかったのかもお聞きしました。
「まず、初期投資がかかること。西洋ミツバチは野生では本来生きていけない生き物で人間が飼育する必要があります。その飼育の技術を身に着けるのも大変だし、冬の間は糖蜜の餌を与えて病気になったら薬で治療もしないといけない。自然環境に適応して生きることのできた西洋みつばちも宮崎や鹿児島で発見されたこともあるけど大分でこの玖珠の気温では越冬は難しいと思います。日本ミツバチはその環境に、野生にいるもの。そこから蜂蜜を分けてもらうほうが自分のしたいやりかただっただけです。西洋ミツバチの養蜂の技術やその産業を維持することで蜂蜜を口にすることが出来る。受粉の役割も果たしている。それは尊敬に値することだと思っています。どちらがいい、悪いじゃなくて別のものです。」

吉武さんは自分は蜂を養っていないから「養蜂家」ではなく、愛蜂家も蜂に愛されている、みたいな印象を与えるからなんか違う。
うまい言い方なかなか見つからないけど今のところ「はちみつ農家」と名乗っています。自然のものを分けてもらうひと。

九重町で美味しいパンを作っている山本朋江さんが、私が心身ともに弱っているときに「吉武さんと山に行って日本ミツバチのことを聞いたら元気なるよ、おいでよ。」とよく誘ってくれていました。
起き上がる気力もなかったので結局、採蜜がたのしい時期には全くいけなかったのですが今回、吉武さんのミツバチの話を聞くだけで、胸に火が灯るような希望や力が湧いてきました。
誘ってくれた意味がすごくわかりました。

きっと私が山に行ったら全身刺される気がします。
日本ミツバチという生き物は何にも支配されない、誇り高い強い生き物。

昆虫を「虫けら」として扱わない。同等な命として巣箱に大真面目に「ごめんくださーい」と話しかける
吉武さん。他の命を尊重して生きることこそが自然を守る、もとに戻す、居心地の良い地球にする、これからの大事なレッスンかもしれません。

吉武さん、私を元気にしてくれてありがとう!


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