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〇気まぐれな夜食カフェ/古内一絵

キャベツと厚揚げとエリンギの炒め物、
蕪とさやえんどうの味噌汁、山芋のソテー、
鶏肉の唐揚げのような揚げ物も見える。
それから、画面の端のお茶碗に盛られているのが
ツイートにある桜の花のご飯だろう。
薄茶色のふっくらとしたご飯の中に、
ピンク色の花が見え隠れしている。

気まぐれな夜食カフェ

熱したフライパンに、バターを落とす。
じゅうっと甘い湯気が立ち上り、
溶けたバターがフライパンの表面で
ふつふつと小さな泡を作る。
そこにみじん切りにした玉葱を投入し、
バターに絡めたら火を弱め、
焦げつかないように木べらで混ぜながら炒める。

気まぐれな夜食カフェ

「これ、真昆布を使ってますね。
しかもすごくいい昆布です。
間違いなく、天然ものでしょう。」
養殖と天然では、昆布の旨味には格段に差が出る。
続けて二口三口と飲み下した。
「後、鰹節も、本枯れ節だ。
真昆布と本枯れ節で取った一番出汁が
しっかり利いてます。」
鰹節には、荒節と本枯れ節があり、
煮た鰹をいぶして乾燥させた荒節を二回以上かび付けし、
熟成されたものを本枯れ節と呼ぶ。
昆布の王様、真昆布と本枯れ節の一番出汁は、
最上級ともいわれる。
「それに干し椎茸を加えていますね。
そのバランスも絶妙です。
ジュンサイは味に癖がないから、
出汁の邪魔にならないし食感も面白い。」
夢中で口走りながら、
今度は麺をつけて食べてみる。
口いっぱいに鰹節と干し椎茸の香りが広がり、
後から昆布の旨味がじわじわと利いてくる。
全粒粉の冷や麦とジュンサイの爽やかな喉越しも抜群だ。

気まぐれな夜食カフェ

燿子は生姜を煮詰めて作ったトフィーをつまみながら、
ソファで雑誌を読んでいた。
トフィーは、果実やナッツのシロップを
ハードキャンディー状に固めたものだ。
アーユルヴェーダのトフィーは、
イングリッシュ・トフィーと違い、
小麦粉やバターを使わない。
ブラウンシュガーと生姜だけで作ったトフィーは
口の中でさくさくとほどけ、
白湯との相性もよかった。

気まぐれな夜食カフェ

まずは澄んだルビー色のスープを含んだ。
ビーツの甘みがじんわりと口の中に広がり、
それからすぐにクミンやクローブやコリアンダー等の
スパイスが口の中を刺激する。
野菜の甘みと、スパイスの刺激。
どちらもしっかりと存在感があるのに、
決してぶつかったり互いの邪魔をしたりしない。
今度は、スプーンにすくったサフランライスを浸して食べてみる。
小麦粉やココナッツミルクを使っていない、
野菜の出汁をそのまま生かしたスープカレーが
香りのよいインディカ米に沁みて、自ずと口角が上がった。

気まぐれな夜食カフェ

「カレーはカレーでも、一味違うカレーだと思うわ。」
シャールが鍋の蓋をあけると、全員から歓声が上がった。
ニンジン、大根、ズッキーニ、カリフラワー、ブロッコリー・・・
ナッツの香りがする蒸しスープに、色とりどりの野菜が
宝石のように顔をのぞかせている。
「これはね、コルマっていう北インドの料理なの。
たくさんのお野菜を蒸し煮にして作るのよ。
ベースのスープにペーストしたカシューナッツソースを
たっぷり使うのが特徴なの。」
蒸したてのクミンライス、付け合わせの玉葱サラダ、
素揚げした根菜とライムグリーンソース・・・

気まぐれな夜食カフェ


このマカンマランシリーズは
読むとアーユルヴェーダなんかの
あちらの地方の料理に詳しくなる。
自分が食べたことのない料理を
こんなにおいしそうに書かれると
興味が湧いてしまう。



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