食のまちストーリーズ vol.07「理想の桃源郷はもうすぐそこに 〜いちき串木野市の健康食のはなし〜」
理想の桃源郷はもうすぐそこに
〜いちき串木野市の健康食のはなし〜
「みなさん、身体に良いものは好きですか?」
定期的にブームになる身体に良いと言われる健康食。「一日一杯の〇〇が身体に良い!」なんてテレビで話題になったら、翌日すぐに買いに走ったり。スーパーフードや健康食品と言われるものが話題に出ない日はないくらいに、人は健康を追い求めます。
身体に良いものへの興味は今も昔も同じようで、その昔、中国の秦の始皇帝が究極の身体に良いものを望み、仕えていた方士の〈徐福〉という人に「不老不死の薬を見つけるよう」と命じ、大軍を率いて海を渡り、日本にたどり着いたという伝説が日本各地に残っています。ここいちき串木野市にも徐福伝説と言われる、不老不死の薬を探す旅路の物語が語り継がれています。
そんな伝説が残るいちき串木野市で「冠岳薬草プロジェクト」というものが令和3年に発足しました。
講師を招いて、地域に自生する薬草について勉強したり、フィールドワークとして実際に地域を歩き、薬草を見つけたり、薬草商品開発のために調理や試作品を作ったりなど、心躍る活動内容です。きっと当時の徐福さんたちも、この地のバラエティ溢れる野草や自然に、期待とテンションが上がったのではないでしょうか?僕も冠岳の山にシナモン(けせん)の木を見つけた時は、その葉を折って新鮮で爽やかな匂いを楽しみました。
生涯現役で、この地に理想の桃源郷を
この冠岳薬草プロジェクトのメンバーでもある「オリジナルミチコ農園」の桑木さんは、冠岳に来て16年ほど。自然のものを身体に取り入れたいと30代からマクロビオティックな食生活を始めましたが、当時は今のように自然食品のお店も少なく、野菜を手に入れるのが大変だったので「いつかは自分でつくろう!」と決心し準備を進めてきました。冠岳に来てからは自分で食物を育てるチャレンジをし、今では根菜類を中心に自然農法で野菜を育て、畑の一角にはピザ釜もつくり、自分で育てた野菜などを散りばめた焼きたてのピザも食べられる。最近では加工場の整備も始めるなど、目標に向かって精力的に活動している姿が印象的です。なんて贅沢で豊かな暮らしなのでしょう。
薬草プロジェクトの成果のひとつとして「ヨモギ」に行き着き、昨年から畑で育て始めたそうです。家の近くの道端でも見かけるほど生命力が強く、広範囲に自生しているヨモギですが、「商品化に必要な量を集めるには計画的に育てるほうが効率的」と常に何歩も先を見据えた行動をしているところは尊敬です。
実験的に釜で煎ったヨモギはとても香りが高く、保存容器の蓋を開けると部屋一面にヨモギの香りが立ち昇ります。急須で蒸らし、お茶としていただくと爽やかな香りの中にヨモギ特有の苦味もあり、「キクぅ!」と全身で薬能を感じました。パティシエの方がこのヨモギを使用してお菓子をつくったりと、もう既に人気商品になる一端が垣間見れました。
「生涯現役だからね!休んでる暇はないわ」と力強く語る桑木さんの瞳からは、確固たる信念に基づいた、頭の中の設計図をつくり進める人生が見えました。「共感する人がじわじわ集まるのを待っている」と語っていましたが、この暮らしぶりを知ったら、冠岳に集まってくる人は多くなりそうです。桃源郷はもうすぐそこかもしれません。
「元気の源は何麹?」
〈発酵食Lab〉
2021年、いちき串木野市の商店街にできた発酵食に特化したお店。テイクアウトでお味噌や発酵調味料、ドリンクなどが買えます。丁寧につくられた甘酒や酵素ドリンクは旬の果物を使用したりといろんな味が楽しめます。店舗だけではなく、発酵食の料理教室も開催していて、毎コースすぐに埋まってしまうので人気の高さがわかります。店主の塩田さんは関西出身でとても明るい性格、話をしているとこっちにもそのパワーが伝染してきて、お店を出る頃には元気がみなぎっています。発酵食では体内から整え、コミュニケーションで物理的にパワーを与える、まるでここはいちき串木野市の回復の泉。
「見た目にも美味しい彩りを」
〈冠岳薬膳弁当〉
この冠岳という場所には紅葉樹が多く、11月の終わり頃になるといちき串木野市外からも多くの人が紅葉を見に訪れます。その時期に合わせて2019年からいちき串木野市オリジナルの薬膳弁当の販売(要予約)も始めました。これは、冠岳に自生したと言われている薬膳の効能がある植物や野菜、いちき串木野市の食材をふんだんに盛り込んだレシピを中医薬膳指導員監修の元つくったお弁当で、おいしい味もさることながら、見た目もカラフルで、「良薬口に苦し」という薬膳のイメージを覆します。紅葉時期の「くるくるMOMIJIバス」という巡回バスに合わせて販売されますが、正直この美味しさはいつでも食べたいお弁当です。
text:Fumikazu Kobayashi
photo:Fumikazu Kobayashi , Kayo Ootake