食のまちストーリーズ vol.05「民謡がTUNAぐ、港町の歴史」
民謡がTUNAぐ、港町の歴史
ハァー百万の 敵に卑怯はとらねども 串木野港の 別れには
思わず知らず 胸せまり ホロリ涙の ひとしずく サノサ
ハァー落ちぶれて 袖に涙のかかるとき 人の心の 奥ぞ知る
朝日を拝む人あれど 夕日を拝む人はない サノサ
ハァー波静か 月さえわたる南の沖で いとし我が家の夢を見る
無事か達者か今頃は どうして暮らしているのやら サノサ
ハァー雨は降り 波はデッキを打ち洗い 寒さに手足は凍えたと
言ってよこしたこの手紙 肌で温めているわいな サノサ
ハァー今度また 大漁してくれ大漁する 誓って港を出て三月
明日は満漁の帰り船 妻子の笑顔が目に浮かぶ サノサ
これはいちき串木野市民なら曲がかかると踊り出す、「串木野さのさ」の歌詞の一部を抜粋したものです。さのさ節は、夜通し船の上で作業する時の眠気と寂しさを紛らわすために、船の先頭と船尾の漁師がお互いに歌い合う掛け歌として親しまれていたもので、いつしかオリジナルの曲調と歌詞にアレンジされていき、なんと歌詞の種類は120以上もあるそうです。いちき串木野から長い時間をかけて漁へ行く漁師たちの中で歌われてきた串木野さのさは、海に生きる漢(おとこ)の哀愁と、無事に帰ってくることを祈る残った家族の心情が感じられる民謡です。
「朝日を拝む人あれど 夕日を拝む人はない」という歌詞を読んで僕は「いちき串木野から見えるあんなに綺麗な夕日を拝む人はいないだなんて、なぜだろう?」と不思議に思い、きっと夕日が落ちた先にやってくる漆黒の闇への不安や恐怖、そして朝日が登ってきた時に感じる安心、そんな心情がこもっているのかもしれない?と勝手に考察してしまいました(※1)。
そんな歴史あるいちき串木野の漁業ですが、今では太平洋、インド洋、大西洋とほぼ地球全体にまで展開しています。主に狙うは、そう「まぐろ」です。いちき串木野市は遠洋まぐろはえ縄漁船の全国有数の船籍数を誇る、まさしく「まぐろのまち」なのです。
実は僕の出身地の山梨県甲府市は、全国で2番目にまぐろの消費が多いまちです(※2)。ちなみに、海がない内陸県なので、海への憧れなのか?お寿司屋さんが日本一多いのも山梨県です(※3)。まぐろ大好き甲府っ子がいちき串木野市に来たら、もうテンションは上がるわけですよ。以前は4月の終わりに「串木野まぐろフェスティバル」という一大イベントが開催されていました。でっかいまぐろのモニュメントがフォトスポットとして鎮座していたり、ビジュアルだけでご飯が食べられそうなまぐろの兜焼きだったり、大漁旗が大量に風になびいていたりと、大賑わいでした。個人的に楽しみにしていた「まぐろの解体ショー」、料理の鉄人のような職人さんが、日本刀並みに長い包丁で豪快に5枚おろしにしていく姿を想像していたのですが、目に飛び込んできたのは、冷凍まぐろを電動ノコギリでギュィィィ〜ンと切断していく様で、ある意味豪快で驚きました。
そそり立つ兜焼きも縁起が良さそうで、まぐろの赤身とビントロの組み合わせは紅白で、こちらもとても縁起が良さそう。「串木野さのさ」では胸をギュッと締め付けられるワードが多いと感じたのですが、まぐろを美味しそうに食べる笑顔のいちき串木野市民を見ていると、まぐろ遠洋漁業の歴史はこの地の大切な文化だなと改めて実感しました。
以下では、数あるいちき串木野のまぐろ料理が食べられるお店から、食べたら美味しすぎてまぐろ状態になってしまうお店を紹介したいと思います。
「陸にあがったまぐろ漁船」
〈松榮丸食堂〉
3号線から八房(やふさ)川沿いに走り、車のルーフがぶつかりそうな架道橋をくぐると、目の前には宇宙戦艦ヤマトを彷彿とさせる迫力の建物が見えてきます。入り口には大きなイカリとスクリューも。遠洋漁業のまぐろ漁船をモチーフにした「新洋水産有限会社 薩摩串木野まぐろの館」1階には今夜のおかずに最適な海鮮やお惣菜をはじめ、お土産物も販売しています。2階部分の食堂では「これでもか!」と言うほどにまぐろメニューが並びます。刺身、握り、丼、ラーメン、カツ、、、メニュー表をめくる度、まるで泳ぎ続けるまぐろに次々に突進されているかのようです。3階操舵室にはいちき串木野市のまぐろ漁100年の歴史がわかる資料室と展望デッキがあるので、どっぷりとまぐろに浸かることができます。
「串木野市漁港に届いた新鮮な地魚をいち早く提供」
〈海鮮まぐろ家〉
南九州自動車道串木野ICを降りてまっすぐ走ると見えてくる「食彩の里 いちきくしきの」ここにはいちき串木野情報が満載の総合観光案内所、お土産を買うのにもぴったりな「いちき串木野物産 さのさ館」、そして串木野市漁港直営の「海鮮まぐろ家」が並んでいます。お出かけの行き帰りに立ち寄るにはうってつけの場所ですね。もちろん漁港直送の美味しい魚介を食べに訪れるも良しです。遠洋漁業の船が獲ってきた天然のまぐろの他、地元の海域で獲れたタイ、イトヨリ、アジ、伊勢海老、キビナゴなど、東シナ海でも屈指の漁場から水揚げされた新鮮な魚介を堪能することができます。地元漁師と料理人のコラボレーションが楽しめます。
text & photo:Fumikazu Kobayashi
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