『慧』の字が書けない時点で、果たしてそれは好きといえたのか【ドラマ感想文】
今年一番好きだったドラマが、11/28に最終回を迎えた。
『准教授・高槻彰良の推察』
(注意:以下ネタバレを含みます。極力ぼかしておりますが、これから見る予定の方はこちらの記事は読まないことをおすすめ致します。)
大学の准教授である高槻彰良が、持ち前の推理力と、相棒とも言える学生の深町くんと協力し、事件を解決していくというドラマ。
この高槻先生が、とにかくかっこいい。
そりゃ演じてる人がかっこいいから、というのはそうなんですけど。
容姿端麗を差し置いて、物腰が柔らかく、大好きな怪異の前ではテンションが上がって我を忘れてはしゃいで、深町くんや、幼馴染の健ちゃんたちにたしなめられたり。
完全記憶能力で、すべてを記憶して、そこから持ち前の推理力で事件を解決するものの、その解決の終着点が、相手の気持ちに寄り添って言葉をかけていくところや、何よりも、深町くんに対しての母性すら感じるような愛情・・
とにかく、先生はかっこよかった。
season1では、常に事件の解決に立ち向かう頼もしい先生と、時に脆さを見せる深町くんでしたが、season2では、一年が経過して関係性が揺るぎないものとなり、頼もしく成長する深町くん。
人の顔を見て、話をして、楽しそうに笑っている。
そんな姿を見るだけで、こちらも泣きそうになる。。。
その一方で、先生は新たな敵、寺内の出現により、自身の過去と向き合わされて、だんだんと自分の足元が揺らいでいるような、うつろなぼんやりとした表情のシーンが増えていく。
そこで、成長した深町くんが先生を支えていく。という。
なんという、相棒感。
成長した深町くんは、どう見たって爆イケだ。
なぜ、調査で温泉シーンが二回も発生するのかはわからない。
令和の由美かおるなのか?
何はともあれ、WOWOWに課金してよかった・・!!と真剣に思ったことは秘密だ。
冒頭の話に戻るが、ついに最終回を迎えてしまったので、
ここで、season1の初回を見直してみた。
先生の登場シーンは、とてもドラマチック。
講義室の上段から、ゆっくりと自己紹介をしながら降りてくる。
さながら、宝塚だ。
麗しい。
設定では35だが、どう見たって、若く見える。
それでも、立ち居振る舞いの落ち着きから、見た目と年齢の違和感を消し去っていく。
見事だった。
高槻という人間のミステリアスさ。
そして、絵が壊滅的に下手だというかわいらしさ。
その時点で、学生も、視聴者も高槻先生に対して好意的にならざるを得ない。
深町くんもきっとそんなひとりであろう。
一人で居心地悪そうに、講義室の中を猫背で移動している姿を、先生は見たのだろうか。
先生が爆裂へたくそな口裂け女の絵を描いたときに、こっそり笑う深町くんを見て、笑った高槻先生には、あの青年はどう映ったのだろう。
大学というものは、
大学ごとに特色があり、学生もそれぞれに違う。
ドラマの中の青和大学では、学生たちはわりとおだやかで、入学式からしばらく経っているのか、グループでいる学生が多い。
そんな中、濃紺のパーカーにジーンズ、黒のリュック。
真っ黒な髪の毛に眼鏡。
まさに『地味眼鏡』
深町くんは居心地悪そうに、周りにだれもいない席でポツンと座っている。
その、あえて孤独でいることを願うような、それでも人から話しかけられると、強く拒絶することもなく対応する姿がとてもいじらしい。
これは、season2になれば大きく変貌をする。
だからこそ、改めて一話を見ると、その変化に驚く。
君が今、話しかけられたモブみたいな人たちは、この先に君を友達と呼んでくれるんだ。
君は孤独なんかじゃないんだ。
一年後を知る私は、深町くんに言いたい。
深町くんという青年は、道端でうずくまっている子供に声をかけて話を聞いて、一緒に家に見送り、なおかつ、迎えに出てきた母親に対して、学生証をすぐに見せて、素性を明らかにするような、よくできたいい子だ。
流れが完璧すぎる。
だからこそ、孤独を望んでいるわけではないのだとわかる。
嘘を聞くと声がゆがむ。
深町くんの孤独の根源はそこにある。
嘘を聞く、声がゆがむ。その苦痛からどうしても顔をしかめてしまう。
きっと、深町くんが嘘がわかると知っている人からすれば、聞かずともその態度で、すべてが知れてしまう。
友達も家族も、彼を避けていく。
まさに、孤独になっている。
人のぬくもりを知っているからこそ、失うことの悲しみはいかばかりだったろう。
彼が嘘を聞くたびに、声がゆがみ、その不快感は視聴者側にも植え付けられる。
嘘が嫌なものであると。
たとえ、それが、誰かを思っての嘘であっても。
嘘は嘘でしかない。
だからこそ、彼はイヤホンで音楽を、聴き、周囲の何気ない嘘から自分を守っていく。
イヤホンをしていれば、周囲の声を聴かずに済む。
そのガードを、見事にかわして話しかけていくのが、同じ学年の難波くんだ。
モブと少し前に書いてしまったが。
彼は、ふつうだ。ふつうに、いいやつ。
普通に、深町くんと話し、深町くんの優しさに気づく。
彼が決して、孤独を望んで、人を拒絶しているわけではないことを知っていて、話しかけているのだろうか。
そこまで考えていないのかもしれない。
難波くんが、深町くんと出会ってくれて、本当によかった。
普段から深町くんはイヤホンをしているが、講義中はもちろん外している。
そして、高槻先生と話しているときも外しているが、何度か高槻先生とやり取りした結果、1話で見事に深町くんが抱える問題に気付かれてしまう。
意を決してすべてを打ち明けると、高槻先生は怖がることもなく、挙句「素晴らしい!」と深町くんを抱きしめる。
先生の研究室を出てしばらくして、ベンチでおもむろにイヤホンを取り出す。
その時、やわらかい日差しのなかで、ほっとしたような、居場所というか逃げ場所を見つけたような、そんな深町くんの表情が印象的だ。
新しい場所では、まず逃げ場所を見つける。
それが私のもっとも大事にしていることだ。
ここにくれば安全だ。という場所。
それが、深町くんにも出来たのだと思うと、泣けてくる。
耳障りな嘘の歪みは、視聴者側にも十分に伝わる。
それが、深町くんにどれだけの苦痛なのか、負担なのか。どれだけ孤独なのか。
だからこそ、深町くんに共感し、嘘をつかないとあっさりと約束する高槻先生という存在が救いのように見える。
season1では一人の青年が人とのつながりの中で、自己肯定感を強めて、成長していく。
成長の物語のように感じられた。
その一方で、season2は
高槻という一人の男性が、season2で突然登場する寺内と対峙し、自分の内面に抱える大きなものと向き合っていく。
だんだんと、高槻先生が揺らいでいくのを、強く手をつなぎとめるのが、深町くんだ。
高槻先生と深町くんは互いが互いを支えあう。
二人はまさに、出会うべくして出会ったのだろう。
それでも何よりも忘れられないのは、season2のラストの寺内の表情。
まったく違うその表情の柔らかさに、この人の本質が悪ではないことを知る。
誰かにとっての悪は、また誰かにとっての正義でもあるのだ。
寺内にとって、天狗様だった高槻先生が正義であり、准教授である高槻先生はその逆になったのかもしれない。
と、まあ。
このドラマを通して、原作も読み、私は見事に、『高槻彰良』という人間が大好きになった。
そしてそれを演じた、伊野尾くんも気になってバラエティー番組、音楽番組、雑誌などあらゆる情報を摂取した結果。
見事にファンクラブに加入していた。
紳士でありつつ、無邪気。時に脆い。
魅力的に見せたのが、その表情の機微であり、声の強さと弱さだ。
姿勢よく歩く姿が、まるで現実に存在するかのように確かに感じる。
きっといまも、どこかで授業をし、どこかで調査をしているのだと思える。
そんな素晴らしい演技だった。
いい作品に出会えたことへの感謝を形にしたい。
そう思い、手紙を書くことにした。
そこで気づいたのだ。
『けい』ってどんな漢字だったろうか。と。
何カ月も見ていた漢字すら、書けない。
私はそれで、好きといえるのだろうか。
自分の好きを疑いながら、私はWOWOWのオンデマンドでドラマを何度も再生した。
私がスマホで検索せずとも漢字が書けるようになったとき、
またこの世界の続きを見せてもらえる日が来るのだろうか。
そんな期待をしながら、さあ手紙を書こう。
ところで、WOWOWのオンデマンドは2021年いっぱいまで。
season2最終回は、12/5 11:30~再放送があるとのこと。
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