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懐かしい思いでのポークチャップ。 私の味への探求心のはじまり。

物心がついた頃、私の誕生日や兄弟の誕生日にはいつも決まって父が『テキ』を買って来てくれた。
私たち兄弟は皆、口の周りをケチャップだらけにしながら美味しく時には取り合いしながら食べた事を思い出す。
『テキ』とはポークチャップステーキを略した言い方で父が幼い子供たちにも解り易くした略称だった。
年に数回しか食べる事が出来なかったせいか普段の食事とは一線を画す特別な美味しい料理と言う感じがした。
父が記念日に買いに行ったお店は隣町にある都屋と言う小さな食堂だった。
店主は若いころ帝国ホテルで修行し晩年に地元に戻ってお店を構えたらしい。
この店のポークチャップステーキは日常の食事とは別世界の味とも言えるほど美味しく食事時にはいつも行列が出来ていた。
私が小学校高学年だった頃、その店は閉店した。 店主の高齢化で店を続けられなくなった事が原因だった。
閉店最終日、注文してあった『テキ』を父と受け取りに行った。
いつもは、また食べられる事が嬉しくてワクワクした気持ちになるのだが、その日は子供ながら寂しく悲しい気持ちになった。
数ヵ月後、無性に『テキ』が食べたくなり、取り敢えず自分で作ってみる事にした。
見た目も悪く味も最初の一作目は塩辛く不味くて食べられたものでは無かった。どうやら砂糖と塩を間違えたらしい。
まだインスタントラーメンもまともに作る事が出来ない小学生にはかなり難し過ぎる課題だった。
その後も様々な美味しい物への味の探求と試作は続き高校を卒後間際には初めて口にする料理は味見をするとどんな材料や調味料を使っているのか考える様になっていた。
その頃には『テキ』はほゞ完コピ出来る様になった。
父は晩年認知症になってからも良く『テキ』が食べたいと言っていた。
夕飯の食卓に出すと『都屋』から勝って来てくれたのかと美味しそうに笑みを浮かべながら食べてくれた。
実は妻が作っていたものなのだが・・・今はその父ももういない。
今思うと私の料理(味)への探求心は小学生時代の塩辛くて不味い肉料理から始まったのだろう。
続く。


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