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【開催レポート】有賀薫の世界スープ探訪:文化を煮込んだ「スープの秘密」をめぐる冒険へ【中欧編】

スープ作家・有賀薫さんとともに、スープを通して国ごとの地理的背景や文化を学び、それらが織りなす食文化について探求する連続講座。
第一回目は【中欧編】として、ポーランドとチェコの2カ国の食文化を探求しました。1日目と2日目はそれぞれの大使館を巡り、3日目は取材を通して得た学びをもとに、参加者と中欧の文化を総括する全3回の講義です。

有賀薫の世界スープ探訪
その昔、人類にとってスープの誕生は食文化の発展を促す画期的な出来事でした。ひとつひとつのスープの誕生には、その土地ならではの気候や風土、歴史、人の営みなど、さまざまな条件が関係しています。もっと言えば、その土地が持つ文化を煮込んだ料理が「スープ」と言えるのかもしれません。
今では日常生活で当たり前に食べられている「スープ」を入り口に、それぞれの地域が持つ食文化や歴史的・地理的背景についてスープ作家の有賀薫さんと深めていきます。



1日目:ポーランド大使館

ポーランドは、北はバルト海に面し、ドイツなど周囲7カ国と国境を接するヨーロッパの国です。

ポーランド広報文化センターの平岩理恵さん。
ポーランドの暮らしぶりをたくさん教えていただきました。

ポーランドの地理と食文化の特徴

ポーランドの地理的な特徴と、食に関する注目ポイントはこちら↓。日本と似ているところも多く、親近感が湧きます。

  • 旬の食材:四季があり特徴がはっきりした気候。食材から季節の移ろいを感じられる。

  • 発酵食・保存食文化:北海道より少し緯度の高い場所に位置しており、長い冬を過ごすための発酵・保存の食文化が根付いている。

  • ベリーやきのこ類の採取:心身ともに森が身近な存在であり、食材を採取するのが週末のレジャーになっている。

  • 様々な国の食文化が混ざり合っている:平坦な国で国境に川があり、往来のしやすい場所。文化的交流が盛んであると同時に、攻略されやすいとも言える。

ポーランドの食生活

ポーランド人の食嗜好の特徴は、"酸味"と"香辛料"。どんなスープにもサワークリームを使い、塩胡椒をベースにハーブやスパイスで味付けをします。よく使われるのは、ディルやマジョラム。日本では乾燥ハーブが身近ですが、ポーランドは基本フレッシュを使います。

そして、ポーランドのメインミールはお昼ごはん。お昼ごはんといっても、15時から16時ごろ。工場では、6時から15時まで通しで働くスタイルが伝統的だったそうで、帰宅後、家族揃って食べるのだそうです。

[引用]平岩さんの講義資料より

お腹がすいたお昼ごはんに必ず食べるのが、スープ。ポーランドでは、スープは飲むものというより食べるもの。具沢山で、ひと皿でお腹も栄養を満たせるスープがバラエティに富んでいます

スープのベースは、出汁。スーパーには、根セロリ・にんじん・根パセリ・ポロネギの4種類の基本の出汁セットが揃っていて、時間さえあればそれをお鍋に入れコトコト煮込んで気軽に出汁を取れるのだそうです。

ポーランドのスープ"ジュレック"

ベースとなる出汁に、トマトやきのこ、乳製品などの発酵食品の旨みを掛け合わせてスープを作ります。
今回は、ポーランドの伝統的なスープ「ジュレック」に欠かせない、「ジュール」というライ麦の発酵液の作り方を平岩さんに教えていただき、有賀さんに実践していただきました。

ジュールの材料。
ライ麦パン・ライ麦粉・にんにく・ローリエ・黒胡椒
材料を瓶に入れ、水を加えて混ぜるだけ。
途中かき混ぜながら1週間ほどで乳酸発酵する。

ポーランドの旨みを体験

その後、野菜出汁とライ麦パンを試食してみました。平岩さんからは「この出汁を飲むとポーランドに戻ったような気持ちになりました」とおっしゃっていただきました。

出汁を取るために使う野菜やきのこの香りを嗅いでみます

また、有賀さんからは「発酵は世界のどこにも存在していて、地域ごとに魚や乳製品、穀物など多様です。ジュールの発酵のもとになるライ麦パンには、酸味があって噛んでいると旨みもわかります。これがスープの旨みになるのだと思います」とコメントをいただきました。

ポーランド大使館の平岩さん(右)とスープ作家有賀さん(左)

2日目:チェコ大使館

チェコは、周囲を4カ国に囲まれたヨーロッパの内陸に位置する国です。首都はプラハで、音楽や芸術、ピルスナービールで有名です。

チェコの食文化の特徴

  • スパイスやハーブをよく使う:スープをはじめ様々な料理にフレッシュのマジョラムやディルをたっぷり使う。

  • 肉の消費量が多い:豚肉、鶏肉、牛肉などかなりの量を食べる。代表的なメニューに、ヴェブショヴェー・コレノ(豚ひき肉のロースト)、タタラーク(牛肉)などがある。

  • 周辺国の影響を多く受けている:グラーシュ(牛肉とパプリカの煮込み)やジーセック(カツレツ)のように、ハンガリーやウィーンなど周辺諸国とよく似た料理がある。

  • 季節のグルメがある:行事とその時に食べられる季節の食事がある。例えば、マソプスト(謝肉祭)ではコブリハ(穴の空いていないドーナツ)を、イースターにはナーディフカやマザネツを食べる。

チェコの食生活

チェコでは三食食べるのが基本。朝食はパンにハムやチーズ、昼食はスープにメイン、デザート、夕食は軽めのメインというのが一般的です。

[引用]講義資料より

昼食によく食べる伝統的なスープのバリエーションが豊富。チェスネチュカ(にんにくスープ)、ゼルニャチュカ(キャベツスープ)、ブランボラチュカ(じゃがいもスープ)、牛ストックベースのクリアスープ、えんどう豆スープ、トリッパスープなど。具材がたっぷり入った、食べ応えのあるスープであることが特徴です。

チェコのスープ"クライダ"

「Kulajda」はきのことディルのクリームスープのこと。じゃがいも、きのこ、ハーブを煮込んで作り、サワークリームの酸味とディルの香味が特徴的なチェコの家庭料理です。地域や各家庭によってレシピが違うのだそうです。

チェコ大使館のシェフが公開しているレシピはこちらの動画からご覧いただけるのでぜひどうぞ!

チェコの"クライダ"を体験

クライダの作り方を教えていただき、有賀さんに調理していただきました。まずホワイトソースを作り、そこにじゃがいも、きのこを加え煮込むレシピで作りました。

味つけは塩胡椒、そしてビネガーの酸味を加えました。最後にたっぷりディルを盛り付ければ酸味とディルの風味が特徴的なクライダの完成です!

教えていただきながら調理する様子。
ここでも野菜のスープストック(出汁)が登場しました。
チェコ大使館の村田さん(左)とヴェロニカさん(中)とスープ作家有賀さん(右)

3日目:スープを作り、中欧の食文化のまとめ

中欧編最終回は、中欧2カ国のスープの特徴を比較し振り返りながら、有賀さんに実際にスープを作っていただきました。

ポーランドのスープ”ジュレック”の実演

野菜出汁、ソーセージを煮込んだベースに、
ジュール(ライ麦の発酵液)を加える
サワークリーム、マジョラムを加え、
塩で味を整える
ジュレックをつくる有賀さん。
ジュレックに欠かせない発酵調味料”ジュール”は
1週間前から有賀さんがご自宅で仕込んでくださったものでした!
ベーコン、じゃがいもを盛ったお皿にスープを注ぐ。
茹で卵をトッピングすれば完成です!

中欧2カ国の共通点

中欧編と位置付けて、ポーランドとチェコの2カ国を学んだ3回の講義。どちらの国もメインミールである昼食に、スープは欠かせないもの。バリエーションが豊富で、具沢山で、酸味とハーブの香味が味の特徴という共通点がみられました。

また、実際に現地の味を体験して、地理的には遠く離れたヨーロッパと日本とを比較することもできました。酸味と発酵の旨みという点ではとても馴染みやすい食文化だと感じました。一方で、野菜出汁のセロリやポロネギなどの香り、調味に使うマジョラムなどハーブの香りは、日本とは異なる現地の味と言えると思いました。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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