【日記】秋の朝、カマキリとの遭遇
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⚠ とても軽くですが、昆虫の描写ありです。とことん苦手な方はブラウザバック推奨です。
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「カマキリ……!?」
その時私は、思わずつぶやいていました。
朝の通学途中、信号手前で止まる寸前のことでした。いつも通り渋滞している道路ではそこまでスピードも上がっておらず、のろのろと緩やかにブレーキをかけていました。ふっ、と視線がワイパー付近に吸い込まれます。あるはずのない緑色が見えたのです。
そこには、カマキリがいました。
二本の足をワイパー付近のでっぱりにひっかけ、カマを振りかざしていました。風圧によろけることもなく堂々立つ姿、よく肥えて丸々と張ったおなか、朝日にきらめく眩しいほどあざやかな緑。その光景に少し感動を覚えました。
せめて完全に停止するまで飛び降りないでほしい。そう願っていました。走っている途中に降りられたら、轢いてしまうかもしれないから。
しかし、祈り虚しく、その信号はすぐに青に変わりました。そっとアクセルを踏み込めば、かけていた足が外れたのかよろけたのが見えました。よたっと倒れ込んだカマキリはめげずに同じように足を引っかけたようでした。しかし、段々スピードは上がっていきカマキリは先程のように立ち上がれないようでした。自分もカマキリのことを気にかけていては危ないと思い、視界の端でとらえるだけにしていました。おそらく、ワイパーが収まっている隙間に横たわっていました。
「次の信号まで耐えてくれ!」と一人で熱くなってしまうほどに、カマキリの頑張りが胸を打ちました。
これまた、願い届かず渋滞が解消してきて、ぐんぐんスピードは上がります。スピードが完全に上がり切るころに、ポロっと緑が視界から外れました。轢いたかどうかなんて気にする間もなく、カマキリは消えていきました。
「無事に生きてくれよ。」
車だらけの道路に落ちたであろうカマキリを無事を祈りながら、十字路を右折したのでした。
それからおよそ1時間後。もうすぐ学校につこうというとき、また視界に違和感を覚えました。真っ白なはずのボンネットに再び視線が吸い込まれます。
それは、鮮やかな緑色でした。
「カマキリ!?」
なんと二度目の遭遇。普通に声を上げてしまいました。飛んだ気がしていたのに、ずっとついていたの言うのでしょうか。いったいどうやって? と疑問に感じてもカマキリが教えてくれるはずもありません。同じように足を引っかけて、触覚を風になびかせていました。しかも、今度は減速したタイミングで羽を広げて飛んでいきます。同じカマキリでも、違う子でも、今度はちゃんと生き延びてくれそうな気がしました。
カマキリの羽は透けた胡桃色をしていました。
代り映えのない通学時間に、一瞬のドラマが生まれた日でした。
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