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漁業で用いられる縮結(いせ)とは

漁業において網とロープを仕立てる際に基本的な考え方として「縮結(いせ)」というものがある。
一般の方には読むことすら難しい言葉だが、漁業の世界では基本的な事項であり、漁具の性能を左右する重要な考え方だ。
今回はこの「縮結(いせ)」について解説していく。

縮結(いせ)とは

網地は引き延ばして目が閉じている状態を長さと考える。この長さを網地ストレッチ長さという。

網を引き延ばした状態

実際の漁業現場において、網目を引き伸ばしたままの状態で使用することはない。網地を使用する際は、網目が閉じた状態(網を引き延ばした状態)ではなく、網目を開かせた状態で使用する。

縮結を入れて網目を開かせた状態

このように目を開かせて網を仕立てることを「縮結を入れる」と表現する。網目を開かせるとそれに伴って網の長さは短くなる。ある一定の長さのロープに対して、網地をどの程度縮めて仕立てたかを表す数字を縮結(いせ)という。

縮結は次の式で求められる。

縮結=(元の網地長さ-仕立上げの長さ)/元の網地長さ

例として、10mのロープに縮結30%で網を仕立てる際の網の長さを求めてみよう。

0.3=(X-10)/X

X=10÷0.7=14.3m

よって10mのロープに縮結30%の状態で網を仕立てるためには、14.3mの網が必要になる。

一般的な漁具の縮結

まき網の漁具設計においては、浮子方は縮結30%程度、岩方は縮結20%程度に仕立てることが通例となっている。

これに当てはめると、網地の総長が500間(757.5m)の網漁具の場合、浮子方のロープの長さは350間(530m)、岩方は400間(606m)となる。

まき網漁具

網地の長さがロープよりも長くなることで、網漁具全体に網の広がりを持たせることができ、水中の魚を効率よく漁獲できるようになる。
なお浮子方、岩方の縮結に少し差があるのは、網なりを巾着袋のように展開させる際に、網の下部にゆとりを持たせるためだといわれている。
一方で、近年では浮子方縮結30%、岩方縮結30%の漁具を用いる船団も出てきている。通例とされている漁具よりも網内の容積を確保でき、魚の包囲も効率的に行えるとのことだ。通例はあくまで通例であり、各船団ごとに様々な工夫がなされている。

まき網漁具の深さについて

続いては、網目の大きさを「節」で表すことで、100G幅の長さを出す数式を紹介する。以下の数式はまき網漁具を設計する際に、網の深さがどの程度の間数か算出する際に必須となる。以下の式は網の目合を表す「節」が分かれば100G幅の網の長さが「何間か」が分かる。

20÷(節-1)=間

ストレッチ長さの求め方

例として、T無結節網16本10節100Gの深さ方向(縦方向)の長さと、50枚合わせた際の長さ(ストレッチ長さ)を求めてみよう。
ここでいう「ストレッチ長さ」とは、深さ方向(100G幅方向)に網地を引き延ばした際の長さのことを示す。

20÷(10節-1)=2.22間 ⇒目合(節)から網の100G幅の長さを算出

2.22間×1.515m×50枚=168.2m *1間=1.515m 

このように10節の網を深さ方向に50枚合わせた際の長さ(ストレッチ長さ)を簡単に求めることができる。
とある山口県19tまき網は長さ560K深さ260Kの網漁具で最大水深130m(86K)の漁場で操業する。水深の約3倍の網ストレッチ長さであり、縮結が66%になる。
とある長崎県19t巻き網は長さ700K深さ230Kの網漁具で最大水深130m(86K)の漁場で操業する。こちらは水深の約2.7倍の網ストレッチ長さであり、縮結が62%になる。
筆者が聞いた限りではおよそ水深の2.5~3倍の長さの網漁具を用いている船団が多い。
このように水深に対して長い網地を用いて操業することで、理想的な巾着型の網なりをつくることができる。

最後に

漁師さん達はこの仕立上がり長さを基準とし、その時々の潮流の向き、流速、船毎の油圧機器の能力等を考慮し、操業を行っている。長年培われた技術、漁師さんのカン、様々なものが組み合わさって漁業は成り立っている。


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