071『ガールズバンドクライ』第10話「ワンダーフォーゲル」、感想
今回はトゲナシトゲアリが本格的に活動するための最大の障害であり問題、フロントマンの井芹仁菜の家族を扱った回。アバンも仁菜ちゃんが開発したグッズに関する話があり、今回はガルクラの本来の主人公回と言う示唆はあった。しかしそこはガルクラ、すぐに芸能事務所の人間に呼び止められるというミスリードがあり。
お話が動き出すのは仁菜ちゃんのお母さんが娘のバイト先を訪ねて来たり、お父さんがアパート先で待ち伏せして来たりから。多分そんな仁菜ちゃんの状況、トゲナシトゲアリの他の四人は話し合ったんだと思う。そして出した答えは自分のバンドの顔でカリスマを、一回地元に帰すこと。
仁菜ちゃんにとってはもしかしたらルパさんからの言葉、「孝行したいときに親はなし」のような話が一番こたえたのかも。今回のアバンでトゲナシトゲアリのチームワークは絶好調と思えるし、合流組で年長者の人に言われたら、一回帰るしかないと。
しかし熊本に帰っての実家での家族会議、仁菜ちゃんにとっては決して満足のいくものではなかった。面と向かって対応してくれたのはお母さんとお姉ちゃんで、お父さんは隣の部屋で暗くして、煙草を吸ってる。それでも言ってくれる言葉が娘に寄り添ったものであるなら気持ちが和らげたかもだけど、多分熊本を出ようした当時とあまり変わらなかった。
それでも翌日、お父さんとともに通っていた高校に行く。そこで初めて父親らしい一面を見せてくれ、嬉しく思えることが出来たのだと思う。この辺は実際に観て下さいだけど、それより作劇的に感心するのは仁菜ちゃんが不在の時のトゲナシトゲアリ。
桃香さんとすばるちゃん、ルパさんと智ちゃんというそれぞれのコンビの状況を描いたこと。トリオの時の新川崎(仮)の二人は落ち着き払ってた、多分帰ってこなかったらそれもまた運命と、悔しいし残念だけど諦める覚悟は出来てた。一番「どうしよう」と狼狽えてたのが最年少の智ちゃん。でもルパさんも智ちゃんを抱きしめながら怖かったんだと思う。
そして仁菜ちゃん、お姉ちゃんから両親の不器用な愛情表現を知り、気持ちよく実家を後にすることが出来た。それがなかったら新川崎に帰るという結果、状況は同じでも、仁菜ちゃんはもっと重いものを引きずったと思う。
そして九話までの話は夢落ちかと疑いたくなる第一話冒頭の繰り返し。もちろんそんなことはなく、仁菜ちゃんは出迎えてくれた桃香さん、すばるちゃん、ルパさん、智ちゃんに対して「ただいま」と言うのでした。
日常回だけどガルクラの主人公、井芹仁菜の状況、環境に深く切り込み、仁菜ちゃんの決断を説得力を持って見せた素晴らしい回でした。そしてお父さんと一緒に高校へ行く道すがら、外の景色は青い空で白い雲と言うのも意味ありげと思う。ガルクラのこれまでの回であまり印象ないし、実はぼざろでも昼の街並みの背景美術はあっても、アニメ『タッチ』が開発したその青春の象徴を目立たせることはあまりなかった。
しかし青い空と白い雲、少なくとも円満な形でさよならを言う機会は井芹仁菜には訪れなかった。それは上杉達也や雪村あおいのような活躍の場眩しい青春、陽の光の下での活動活躍を、井芹仁菜が拒否された証であり、陰キャのルートを仁菜ちゃんが選び取った理由でもある。作劇的には『タッチ』や『ヤマノススメ』を結構参考にしてると思ってたけど、テーマ的には徹底的に批判してる点、そのロックさに嬉しくなってます。