102『菜なれ花なれ』、第5話「ありったけカーニバル音頭」、感想
前回に続き町のレコード屋さん編、後編。今回はPoMPoMsのただ一人のダブル、杏那・アヴェイロちゃんの心の拠りどころ、スタウトレコードを応援する話が描かれます。その最初の場面、いつものように恵深ちゃんの家でみんなでお茶する場面なのですが、第一声は本来の主人公のかなたちゃんでした。それは前回、杏那ちゃんのためにレコード屋さんを応援したい、その言い出しっぺが正にかなたちゃんであり、テーマ的にも説得力ある始まり方と思うのでした。
詩音ちゃんによればお店が閉店する日は高崎中央銀座カーニバルの日。そこでPoMPoMsで何をやるか、音楽の素養がある詩音ちゃんも杏那ちゃんが気に入るラテン系はやったことがなく、それこそこの場にはいない杏那ちゃんに教えてもらわなければならない。だから詩音ちゃんは穏花(のどか)ちゃんに、ダンスを先に作ることを提案する。
そして穏花(のどか)ちゃんのお母さんのヨガ教室でPoMPoMsの面々の身体の柔軟性が知れるのですが、二つの意味で面白く思えました。一つは身体能力といっても様々な側面があるのがわかること。ジャンプを得意とするかなたちゃんと涼葉ちゃんがともに苦戦してるのが笑いました。そしてもう一つ、親の協力であること。ここでの大谷母娘の関係は地域社会とPoMPoMsの関係に準えることが出来るはずで、それはスタウトレコードと杏那ちゃんの関係でもあり、描き方の首尾一貫さに驚いています。
その杏那ちゃんは他のPoMPoMsのみんなと完全に別行動していたけど、ついに同じ高校の友達の穏花ちゃんにつかまり、みんなが作ったダンスの作曲を了承する。その時かなたちゃんが言ったのが「杏那ちゃんも、杏那ちゃんを応援しようよ」。イップスによる不調、そしてそれを克服したかなたちゃんだから、PoMPoMsのみんなには周知のことだから、説得力がある。そして「やれること、全部やる」、この杏那ちゃんの台詞がそのままなれなれのテーマになってると思われます。
そして当日、ダンスのお披露目。杏那ちゃんはPoMPoMsのセンターでマイクを持ってたけど、お客さんが去るのを見て弱気になり、言葉が詰まってしまう。そこでかなたちゃんが一言告げ、改めて杏那ちゃんにマイクを渡す。今回は完全に脇役、引き立て役のかなたちゃんだけど、素晴らしい役回りでした。
そして「高崎中央銀座カーニバル音頭」、圧巻です。多分アップは2D、ロングは3Dと思うのですが、ロングは思いっきり引いてPoMPoMsの全員を見せているので、3Dの絵としての粗さが目立っていません。でも2Dでも思いっきり動き、若い女の子たちの躍動感を見事に表現しています。杏那ちゃんだけにお披露目した時だけでも、その滑らかな動きに驚いたのですが、劇中での本番はそれを軽々しく凌駕してます。
ダンスが終わった後の杏那ちゃんの感動的な再会は省き、祭りの後のスタウトレコードの場面。言わば(物語の定形として)店の存続と言う予定調和を店主のY・Jは選択します。しかしです。どうもスタウトレコードの命運と高崎中央銀座の趨勢、そしてPoMPoMsの運命人気がリンクすると思えて仕方ない。つまり今回PoMPoMs、デビュー戦で大勝利を収めたわけですが、次も勝つとは限らない。そしてPoMPoMsの人気は象徴的に高崎中央銀座とスタウトレコードと連動し、最終的に三者は物語的にも物理的にも一蓮托生になる。
それでこそ『菜なれ花なれ』がメインテーマに応援を選んだ理由、アニメスタッフが自分のアイデンティティを模索する過程そのものと思うのでした。何はともあれ、本作の一端を垣間見せた素晴らしい回でした。