可憐
(*本編は最後まで無料でお読みいただけます)
「ねぇ中澤さん、友達にならない?」
そう後ろの席の中田さんから言われたのは、高校に入学したての春だった。
澄んだ清らかな声だった。
友達というのは、そんな風にしてなるものだったろうか?
すこし違和感をおぼえたけれど、私は中田さんと友達になってみたくなった。
見るからに可憐で、育ちの良さそうな中田さんと、じぶんが合うとは思えなかったけれど、憧れがまさった。
*
中田さんの後ろの席には、中田さんが私立の中学から一緒で仲の良い中山さんが座っていた。
中山さんも中田さんと同じく、可憐で育ちが良さそうだった。
中田さんと中山さんはまさにお似合いのふたりだった。
そこに、中田さんのひと声で加わることになった私は、明らかにふたりとは毛色が違っていたし、気後れしてどうにも馴染まなかった。
3人でお弁当を食べていても、廊下を並んで教室を移動して行っても。
なぜなら、中田さんはともかく、中山さんがまったく私を受け付けられていない感がじっとりとあった。
たぶん中山さんは、大好きな中田さんとふたりでいたかったのだと思う。
けれど中田さんが、中山さんも大好きなそのやさしさでひとりぽつんとまだ友達ができていなかった私に声を掛けてしまったから、ちょっと「うっ」とおもったけれど受け入れようと努力してみている、といった感じだった。
だから私は、テニス部に入部すると決めていたふたりとは別行動で、演劇部の新入生歓迎公演を観に行った。
そして段々と、テニス部に入ったふたりと、演劇部に入部した私は、疎遠になっていった。
*
その時、なかば強引に誘って一緒に新歓公演を観に行った堀内さんとは、高校を卒業して何年も経った今でも、同じ部活だった仲間として仲良くしている。
中田さんと中山さんも、今でもふたりは仲良くしていることと思う。
当時の中山さんの気持ちをおもうと、どんなにかもどかしかったことだろうと、しのびない。
けれど結局、ひとは、おさまるところにおさまる。
ただし、万物が蠢く春は、各々の定位置がさだまるまでにすこし時間が必要だ。
無理せず、ゆっくりと状況を見守っていれば、じきに落ち着くから、春はあせらないことだ。
中山さんは、それを知っていたのかもしれない。
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