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TMS-経頭蓋磁気刺激-経験者の手記
経頭蓋磁気刺激をご存知でしょうか。
剃髪や開頭をすることなく外部から脳に磁気刺激を与えることで、特定の脳の活動を変化させるものです。
この刺激を反復して与えるうつ病への治療が、日本では令和元年6月に保険適用になっています。
r-TMSとは反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)のことで、「既存の抗うつ薬による十分な薬物療法によっても、期待される治療効果が認められない中等症以上の成人(18歳以上)のうつ病」に適応がある治療法です。
(未成年、発達障害など、うつ病以外の方は適応外となります)
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現在治療法として認められているのは(一部の)うつ病に対してですが、自閉症と診断されたアメリカ人男性が研究としてこの刺激を受けた際の経験を書いたのがタイトル画像の本です。2016年に原著が、2019年に日本語版が発行されています。
邦題の副題は「アスペルガー治療記」とされていますが、正確にはこの男性、ジョン・エルダー・ロビソン(John Elder Robison)氏は、治療としてではなく研究の一環として複数回この刺激を受け、その後に起こった変化を描いています。
原題は、SWITCHED ON A Memory of Brain Change and Emotional Awakening。直訳すると、「スイッチを入れられて 脳の変化と感情の覚醒の記憶」で、治療とはされていません。
しかし、彼は「感情面でのめざめ」を経験しました。
その内容はとても興味深いものでした。
ロビソン氏へのインタビュー映像がYouTubeにありました。TMSを受けている様子も映されています。
非常に簡単にまとめると、
以前には認識できなかった非言語的メッセージを読み取ることができるようになり、また、自分の話し方にも抑揚やジェスチャーが加わるようになった
…というものです。
ですが、実際の本は長編で、邦訳は404ページにも及びます。
TMSを受けるまでの道のりーこの刺激の仕組みや危険性の理解、研究者たちとの信頼関係の構築のようすー、また、職業生活や結婚生活に生じた結果、自分と同様に自閉症の診断を受けた息子へのTMSの結果との違いなどが詳細に語られているためです。
TMSが自分にもたらした変化について手放しで喜んでいるわけではない点が印象的でした。
脳の働きを改善することは、特性があったからこそ持っていた能力を否定することになったり、将来的には画一的な「社交性に優れた人間」を作ることにつながるという負の側面があると考えて、彼は慎重な態度をとっているのです。
感情の覚醒=IQに対してのEQ(こころの知能指数)の向上を彼は経験したわけですが、この効果は一般的には持続しないようで、一時は意志疎通ができるようになったものの元に戻ってしまったという被験者の例も書かれていました。また、彼の息子には目立った変化が見られなかったそうです。
ですから、彼の例はレアケースと言えそうですが、一方で、一部のうつ病には保険適用されるようになっていることから、精神の働きに効果を持つことは確実であると思われます。
コミュニケーションがうまくできずに苦労している人を助ける可能性を持ったTMSですが、人格とも言えるその人の特性に手を加えることになるので、ロビソン氏が逡巡したように単純な問題ではないなと思いました。
実際のところ、彼は自分の特性を活かして、音響関係の電子機器の開発や自動車の修理をするビジネスを成功させてきました。社会としてこういった特長を持った人を失うことにもなる可能性があります。
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