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「古代エジプトの書字文化―『刻む文字』と『書く文字』の世界」講師:永井 正勝(民博特任教授)@国立民族学博物館友の会講演会 | 大人の学び

2024年8月3日(土)、第551回 国立民族学博物館友の会講演会
「古代エジプトの書字文化―『刻む文字』と『書く文字』の世界」
講師:永井 正勝(民博特任教授)

に行ってきました。

永井先生は、言語学がご専門です。詳しくは↓


ヒエログリフとヒエラティック

講演タイトルの『刻む文字』はヒエログリフhieroglyph、これはよく知られています。そして『書く文字』の方は、ヒエラティックhieraticと言うそうです。

古代エジプトにおけるこの2つの文字の使われ方の違いがこの講演のメインテーマでした。

ヒエログリフの例
unknown Egyptian scribe, Copyrighted free use, via Wikimedia Commons
ヒエラティックの例
See page for author, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons

講義は、古代エジプトの歴史の幅の広さ(クフ王で紀元前2589年、ツタンカーメン王で紀元前1362年、クレオパトラ7世で紀元前51年が生年。それぞれ1200年ほどの開きがある)、それに伴う文字の変化から始まりました。

紀元前3200年ごろの初期エジプト文字は、作っては捨てられる試行錯誤の状態で、象形文字のプロポーションも書き手に委ねられていたらしいです。

それが紀元前2700年〜2660年頃の時代には固まってきます。それが現在ヒエログリフ・ヒエラティックと呼ばれているものです。
(その後、それらから中間的な筆記体ヒエログリフやヒエラティックから生まれたデモティック、そしてほぼギリシャ文字と言えるコプト文字ができてきます。)

ヒエログリフがどんな意味を表すかを、いくつかクイズ形式で教えていただきました。太陽は漢字の「日」の原型と似ていて○の中に・でした。

もっと複雑なものがあったのですが、参加者の中には読める方がいらっしゃいました。私のような初心者だけではありませんでした。

また、一つの形だけではなく、漢字と同じように、音を表す部分(声符)と意味を表す部分(意符)を組み合わせて作られている語があることも初めて知りました。楽しい!

正体字と俗体字

ここからが話の核心です。

同時に存在したヒエログリフとヒエラティック、この2つは次のように使い分けられていました。
ヒエログリフ (刻む文字)
ー 王室の碑文など
ー 威信・権威を示す
ー 漢字の「正体字」にあたる
ヒエラティック(書く文字)
ー 手紙など   
ー 実用 
ー 漢字の「俗体字」にあたる     

私が興味深かったのが、漢字の場合です。
「正体字」

ー はじめ 篆書 →その後 篆書は印刻用に、筆記用には隷書
「俗体字」 
ー はじめ 隷書 →その後 草書

権威ある書体として現在も篆書と隷書を使っている国が日本で、令和の新札にもこの2つが使われているというお話も聞けました。

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このほか、会議の合間を縫って現地2泊だけでエジプトの博物館に資料を見に行かれたお話や、「夢の碑(文)」の新解釈などを具体的な例を示しながらお話いただいて、拡大鏡で古代エジプトの文字の世界を覗かせていただいたような気持ちになりました

民博の展示場に移動しての説明では、私を含め10名近くの参加者からの質問に丁寧にお答えいただきました。これもこの会の楽しいところです。

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ヒエログリフとヒエラティック、どうも自由に読み書きできたのは「書記」と呼ばれる役職についていた人々だけで、民衆はもちろん「王」でさえ読めなかったとのことでした。

これってすごいことだと思います。
公式の記録は「書記」に委ねられていた。彼ら以外には歴史も法律も読み書きできなかった。彼らを信頼するしかなかった、ということなので。

民衆が読み書きできること、識字率が100%に近いことの重要性がわかります。

また、
国連の公用語が読めるのが、グローバル化された現代の「識字」と言えるかもしれません。


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