レトルト仏膳、美デザイン礼状…遺族目線の「便利」と「素敵」が光る葬祭品に注目[FBF2023レポート]
棺や骨壺、遺影、祭壇といった葬祭品を販売する企業が多数出展する「フューネラルビジネスフェア」。毎年6月にパシフィコ横浜で開催されており、2023年も6月20日から21日にかけて130社強の最新商品が集合しました。
業界関係者向けのフェアではありますが、そんななかでも消費者目線で注目したいと感じたサービスや商品をご紹介します。そのうち、あなたの町の葬儀社でも取り扱う日が来るかもしれません。
FBF(フューネラルビジネスフェア)って?
フューネラルビジネスフェアは、葬祭サービスの総合展示会です。一般向けの展示会ではなく、例えば棺を開発販売している会社が会場を訪れた葬儀社に対して「ウチの商品を扱って」とPRするような、いわゆるBtoB型の商談が活発に行われることを目的とするイベントです。
よって一般の人が直接購入できる商品・サービスはあまりないのですが、全国の葬祭業者が自信を持って開発したものが一同に揃うため、展示を見れば今後の葬儀トレンドを占うことができます。FBFから将来のスタンダードとなる葬祭品が生まれることも珍しくありません。
今回はあくまで消費者目線で「これは利用したい!」「地元の葬儀社でも扱ってくれたらいいな」と感じた商品やサービスを中心にレポートします。キーワードは「便利」そして「素敵」です。
温めたり戻したりで、包丁握らず仏膳が作れる「おくり膳」
仏様おひとりぶんのお膳に飾るおかずを、お惣菜セットに仕立てた「おくり膳」。仏膳のおかずは品数をたくさん作らなければならないため、負担に感じる家も多いはず。「おくり膳」はレトルトパウチの煮物と枝豆、乾物を戻すだけの汁物と漬物のセットです。
お膳そのものは用意が必要ですが、ご飯だけ炊けば仏膳が完成するという手軽さ。最近では節目の仏事に集まる親類が少なくなり、仏膳を用意する遺族も高齢化してきました。おかずを盛るだけで見栄えのよい仏膳が完成するのは魅力的に感じます。
2023年6月現在、まだ一般向けの販売は行っていないようです。でも、そのうちネット通販などを手がけたら人気の商品になりそう。
今までになかった!デザインに見惚れる会葬礼状・法要案内「YOSUGA」
高知市の印刷会社が初出店。ミニマムでモダンなデザインの会葬礼状や法要案内に目を奪われます。今や会葬者も、法要案内を送る相手も少なくなってきました。ペーパーアイテムにこだわれば、大切な相手に視覚的な癒しを与えることができそうです。
YOSUGAを開発した西村謄写堂はウェディング関連のペーパーアイテムも手がけているとのことで、これまでの法要案内とはまるでかけ離れた高いデザイン性にも納得しました。
着付ができなくても一人で喪服が着られる「今日からきもの」
普通の下着や軽装の上からサッと着物を羽織り、襟や帯をマジックテープで留め、最後に紐を整えるだけで着崩れなしの装いが完成する。そんな喪服を開発したのが、「今日からきもの株式会社」です。
プロの着付師(89歳!)が「車椅子生活でも着物が着られるように」と考案したものとのこと。「母のアイデアをいろいろな人に紹介するうち、喪服との相性もよいのではと、ビジネスプランを考えました」と、「今日からきもの」の大森靖子代表は語ります。
筆者も実際に喪服を着せてもらいましたが、脚を開いてもしゃがんでも、全く着崩れなしで安心です。あとは喪服に合うような髪型をどうにか一人で整えられるような商品も、どなたか開発してくれたら!と感じました。
愛らしい仏衣がずらり、凜とした佇まいの正絹も
棺に納まるとき着せられる衣装は、白装束が一般的です。最近は白い仏衣ではなく、本人が気に入っていた衣服で旅立つ例も多くなってきました。
しかし、色とりどりの仏衣を手がけている会社もあります。そのひとつ「大栄株式会社」が出した新作は、黄色にピンク、紫、白を基調とした愛らしいものばかり。遺族の気持ちが少しなりとも慰められそうです。
こちらはイメージをガラッと変えて、金糸の手刺繍が印象的なモノトーンの仏衣。シルク100%とのことで、なめらかな光沢を生かしたデザインが魅力です。
位牌で手元供養ができる「みたまや」
骨壺を中心に葬祭用品を製造している「トモエ陶業」が展示していたのが、位牌の中に遺骨を入れられる「みたまや」です。
遺骨を自宅などで供養する手元供養の商品としてはミニ骨壺やアクセサリーが有名ですが、こうして位牌の中に込められれば他の供養品を買う必要はありません。
とはいえ、ミニ骨壺もとってもキュートです。位牌に遺骨を込めてスッキリ供養するか、心が慰められるデザインのミニ骨壺を選ぶか……迷いどころですね。
ベッドになる棺で最後まで寄り添える「ラストベッド」
「故人が棺に入ってしまうと距離ができてしまうようで寂しい」という遺族の言葉を受け、社長自らが考案したという棺「ラストベッド」。棺の側面がオープンになるため、納棺後も故人に寄り添って過ごすことができます。
故人に触れやすくなるだけでなく、着衣・お化粧の乱れも直しやすくなる嬉しいアイデアです。専用の台を使うほか、サイズが合うようなら自宅のベッドに設置することも可能とのこと。より温かい雰囲気での自宅葬が叶いますね。
新しい葬送の時代、癒しのデザインが主役に
遺族に寄り添う商品やサービスが光っていた今回のFBF。親族中心の家族葬が主流になるなかで、参列者のもてなしよりも遺族や親族の満足度を高めるためのサービスが注目を集めていくことになるのだろうと感じました。
なかでもデザイン面が優れている葬祭用品は、間違いなく遺族を癒し、心を支えるでしょう。セレモニーはただでさえ高い芸術性が必要とされる場。今、葬儀は昔ながらの風習やしきたりから解放されつつあります。また無宗教葬の支持率が徐々に上がってきて、式場に宗教的な装飾を施すこともマストではなくなりました。葬祭のデザインはもっと自由になり、そして洗練されていくことでしょう。
(取材・文:奥山晶子)