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餃子の前に言葉はいらない【バイリンガル餃子】(毎週ショートショートnote)

目の前に焼き上げられた餃子が大皿にぼんと載っけられて差し出される。
湯気があがり、狭い部屋の中でもうもうと音を立てるようだ。
四方から箸が伸びる。
まるで決まったものがあったかのように皆違う餃子をつかむ。
知らない者同士が卓を囲んでいる。


皆容姿も違う。
金髪も白髪も黒髪もいて、白も黒も黄色の肌もある。
メガネをかけている者もいれば、片腕がない者ものもいる。
顔の半分が赤黒いアザに覆われている者もいれば、真っ白い色素のないそばかすだらけの者もいる。
舌にピアスをはめて餃子を食べる時にそれがチラリと見える者もいる。


あたしは醤油に辣油と酢を所望した。
その小皿に熱々の餃子をつけて泳がせる。
たっぷり醤油と酢と辣油を含んだそれをあたしは口に含む。


隣の奴が、んーんーん、んんと頬張ったまま話しかけてきた。
英語でもフランス語でも中国語でもおよそ聞いたこともない言語だ。
んーんんん、んー?
んんん!!!


餃子の前に言葉はいらないのだ。

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