振り返らないで【結婚式ゾンビ】(毎週ショートショートnote)
挙式の3か月前に彼女は植物人間になった。
美しい顔のまわりや身体にたくさんの装置がつけられて触れることも叶わない。
左手の薬指に結婚指輪をはめてあげた。
2人で選んだ君のお気に入りのリング。
明日は結婚式だよ。
早く起きてドレスを着て。
百合の花束を抱いて。
人工呼吸器の音が君の声に聞こえる。
目を閉じて夢を見て。
君がそういうならここで眠ろう。
僕が目を覚ますと君がウェディングドレスを着て花束を抱えて笑っていた。
なんだ、あれは夢だったのか。
僕は君の手を取りドアに向かう。
振り返らないで。
君の声が聞こえた。
わかったよ、そう言ってドアを開けて歩く。
暗い廊下が延々と続く。
君の掌の感触と衣づれの音。
明るい光が見えてきた。
会場に到着だ。
僕は振り返った。
君は君の姿をしたゾンビになっていた。
怖くなって思わず手を離した僕から、君が後ろへと小さく消えていく。
その唇が
愛してる、さようならと動いた。
あなたはこれからも生きて。
僕は泣いた。