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サンタへ願いを【クリスマスカラス】(毎週ショートショートnote)

おれの愛するひとが少しずつ衰弱していくのがわかる。
一秒一秒、ひと粒ひと粒砂が落ちていくように容赦なく確実に。
近づくこともできず、こうして窓越しに見ているだけだ。
おれをわかってくれるだろうか。
ずっとここに居ることを知ってくれているだろうか。

大きく澄んだ愛らしい瞳はもう重く閉じられたまま、長いこと開いていない。
もうすぐクリスマス。
サンタへの願いはひとつ。
もう一度きみの目の中におれを見たい。
ああ。
それなのにきみは逝ってしまったんだ。


きみが空に昇っていく。
紫色の煙が高く高く吸い込まれるように立ち昇っていく。
おれはそれをただ見ている。
きみは最後も美しい。
生まれ変わったら、なんて言わない。
それでもきみを必ず見つけ出して愛するだろう。

だから。


おれを思いきり息を吸い込んだ。



姉さんの葬儀は無事に終わった。
あのカラスはなんだったのか。
樹上からじっと見ていた。
そして姉さんが天に昇っていく間、ずっとアヴァマリアを歌っていたんだ。

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