ラブレター【荒ぶらないポエムvol.2】(荒ぶりポエム)
きたきたきた。
いつもの時間。いつもの車両。
いつものようにあなたが乗ってくる。
きっとこんなふうにわたしが見ていること、あなたは知らない。
もう一年が経ったのね。
こうしてあなたを見るようになってから。
最初は目を疑ったの。
いや、まさか。
ううん、勘違いなんかじゃない。
最近視力がぐんと落ちたように感じるけど、でも見間違いなんかじゃない。
嘘でしょう。
黒い四角いどでかいリュック。
あなたは思いきり背負ったまま乗り込んできた。
そしてそのままドアの前に仁王立ち、まるで足から根が生えてしまったのかと思うほど微動だにしない。
次の駅。その次の駅。
そのまた次の駅。
ドアが開いて降りようとする後ろの人がリュックに挟まれて動けなくなっていても気がつかない。乗り込んでくる人があなたを避ける為に大きく迂回しなくてはならなくても、あなたは動かない。
何があなたをそうまでしてそこに留まらせているの。
そのリュックは前で抱えたら爆発する仕組みなの?
もしかしてエベレスト登山のために砲丸でも詰めているの?筋トレなの?
神からの啓示がそこに降りてくるのを待っているの?
何を見つめているの?
何を考えているの?
もしかしてあなたは自分1人だけの世界の中に生きているの?
わたしの思いは届かない。
いつも斜め後ろから見ているわたしをあなたは知らない。
どんなにあなたに言いたくてもわたしにはそうすることができない。
そうしてあなたはいつもの駅に着く頃にやがて開くドアの真ん前に立つの。
このポジションは誰にも渡さねえ。
そんなあなたの心の声が聞こえてくる。
ドアの隙間に指を入れてこじ開けようとしているのも知ってる。
自力で開けようとしなくても駅に着いたらドアは開くのに。
せっかちなのね。
そしてあなたは開くドアを肩で押し開けるようしてホームに降り立って解き放たれる。毎日毎日あなたがそうやっているのを見ている。
いつかこの思いをあなたに届けたい。
とっておきのラブレター。
脳天かちこむくらいの重量で。