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アメリカの中学校の歴史の学び方〜こうすると「学習」が「探究」に転換する!

アメリカに来て5年目。補習校に通わずに日本語を続けている私達だけれども、最近ぶつかっている壁は、日本の歴史の勉強の仕方です。

本が大好きな長女は日本語を「読む」ことはできるので、日本の6年生の社会・歴史の教科書を「読む」ことはできるのです。
それなのですが、その意味がなかなか頭にくっついてくれないという状況に直面しています。

今色々と試しているのですが、
その前に、
一体現地校(アメリカでは6年生から中学校なです)では社会・歴史をどう勉強しているのだろう?と思い、彼女のGoogle Classroomを覗いてみることにしました。

そこで見たこと、学んだこと、メモしていこうと思います。
そして、
①なぜ、日本の社会の教科書が読めてもアメリカで社会を学んでいる長女の頭に知識が入ってこないのか、
②どうしたら日本の社会を彼女にとっても面白いものとして頭に入れていけるか
について考えていきたいと思います。

1.アメリカの歴史の授業の始まりは過去の探究の仕方から〜Investigating the Past

長女の学校では、学習内容はすべてGoogle Classroomで確認できるようになっているので、学期が始まった8月から見てみました。

そこでまず目に飛び込んできたのは、

あなたが知っている歴史小説にはどのようなものがあるか?
過去の社会を科学的に探求する学問にはどのようなものがあるのか?
そして、彼らは、どんなことをするのだろうか?

など、歴史を探究する仕方のお話しから学びが始まっていました。

例えばこんな課題

Ms. Morris's History Class 2021-2022

過去を探究する社会科学者の種類として
- 考古学者
- 歴史家
- 地理学者
などがある。それらの違いは何で、メインとなる探究課題は何か。
そして、なぜ、社会科学者は「探偵」と似ていると言えるのか、あなたの考えを述べよ。

つまり、歴史をある定まった知識として教えるのではなく、社会を科学的に捉えるとどうなるかということを、「過去の社会」を舞台に探究するというセッティングのように思います。

1.洞窟壁画からの探究

そして、洞窟壁画の絵を並べ、質問があります。
例えば、

Teachers' Curriculum Institute

まず、なぜこの絵が描かれたかについてのヒントとなるものを絵から探し、
なぜ、当時のアーティストはこの絵を描いたと思うかに関する自分の仮説を立てるというもの。
それから、文章を読み、更に発見したことをメモし、社会科学者の考えを書き出す。

洞窟壁画を描いた人を「アーティスト」と呼ぶのもなんだか親近感が湧いてきます。

先生の見本はこんな感じでした。

Morris, J. (2022), Investigating the Past, [class handout], Q1History. 

ちなみに、我が学区で使われているカリキュラムはこちらを参考にされているようです。

それから、どうやらフラッシュライトを持って部屋にはられた(というか、机の下にはられた)洞窟壁画をチームで冒険し、
何が見えたかを描き、
なぜこれが書かれたと思うかを話し合いまとめていくというワークが行われています。

2.世界最古の人間探究

そして、Ardiという世界最古の人間の記事が紹介され、それを元に
Scientific Name, nickname, date, location, physical characteristics, tool use, new abilitiesを6タイプの人類猿を分類整理。更に知りたい人はとBecoming HumanというYoutube が紹介されていました。

そして、ここではじめてテストが行われたようです。

Morri, J.(2021), Early Human Study Guide,[Class Handout]

3.骸骨ラボ

その後、Skull labで、骸骨を手に取り(ラミネートされた写真ですが)、考えます。
What feature of the skulls did your team use to determine the order they should be assembled in? Why?

教科書を読み、ノートのまとめ方を学びます。

T-チャート方式

Morris, J. (2021), "Chapter 3: From Hunters and Gatherers to Farmers"[Class handout]

箇条書き方式

Morris, J., (2021), "Chapter 3: From Hunters and Gatherers to Farmers"[Class Handout] Q1 History 

続きの部分は自分で読んで、まとめてみましょう!

4.Barter Day!物々交換やってみよう!

その後、長女も大盛りあがりだった、Barter Day!
古代文明で行われていた物々交換経済を教室に物々交換市場を解説してみることで、体験してみよう!というものです。

お題は、
お家にある「過剰」なもので、他の6年生にとって「価値」がありそうなものを交換してみよう!

子どもが選んだものがOKか親にも確認のサインが求められます。
「ペットや妹、勝手に持ってきたらダメでしょう〜」とユーモアまで。

Morris, J., (2021), "Barter Day Contract"[Class Handout] Q1 History 

その後、以下の問いに答える段落を以下の言葉を使って述べよという記述式の課題が出されていました。

What created the conditions for Neolithic people to trade?
You must use the following words in your answer. 
1. Hunting & gathering, 2. Domestication, 3. Farming, 4. Agriculture, 5. surplus, 6. Trade. 

実際に体験し、当時の様子を教科書で学び、
次は知識の統合に入ります。

Use the Vocabulary Connection model or
"I can relate _ and _ because…."

そこで学ぶ用語は、
1. value, 2. surplus, 3. reciprocity, 4. manners/norms, 5. barter.

5.文明の誕生

National Geographic Channelにある” Birth of a Civilization 2008”のYoutubeを見る。

教室で考える問い:
Scientists sometimes describe a society or a group of humans as "Highly civilized". Explain what you think it means to be highly civilized, and provide specific examples. 

社会学者は時々ある社会や人々のことを「高度に文明化」されたと表すことがありますが、「高度な文明化」とはどのようなことを表すと思うか、説明せよ。

つまり、文明化が開始された頃の映像と、今現在を比較検討して考えるワークが行われていました。

なぜ、今あるものが今あるのか?
例えば、
- 農場やスーパー:安定的に食料を供給するためのもの
- 政府:生活に秩序をもたらすもの
−宗教制度:日常生活やあの世の世界について影響をもたらすものについて信じられているもの
−芸術、音楽、ダンス、ファッション:高度な生活様式
 -技術の進歩:生活を容易にするアイディアやインベンション

その後、メソポタミア地域の地図を描き、1つの学期が終わっておりました。

2.アメリカ中学校の歴史の授業から学んだこと

長女のGoogle Classroomに掲示されている資料を振り返ってみて私なりに感じたことを、ざっと気づいたことを書いてみます。

  • 歴史を過去の社会や人々を科学的に探究するという視点で捉えるということ

    • 例えば、洞窟壁画を発見した学者はどういう根拠を元にその次代のどんなことを発見したのか?

    • あなたならどう考えるか?など

  • 知識を学ぶ場合は、知識の整理の仕方、そして、更に知りたい子のために追加資料(Youtubeや記事)の紹介があるということ

  • 確認テストは、言葉の定義、事実の確認、Paragraph writingもあるということ

    • Paragraph writingで覚えた知識の繋がりを自分の言葉で説明する機会が提供される

  • 入り方が多様にある

    • ただ歴史的資料を見るという場合でも、教室中に張り出したり、暗黒の中、懐中電灯を持って資料を探しに行ったりと、身体も心も動く仕掛けがあるということ

  • 現代と対比しながら歴史を学ぶ

    • 今の世の中ではどうか?を考え、実際に今ある同じ構造のもので体験してみることで、当時の理解を深める

    • 知識も大事だけど、社会の捉え方、社会の構造、知識の整理の仕方、知識の「つながり」方にも意識を向けるということ。

3.日本の小学校6年生の歴史をアメリカで学ぶ子にどう教えるか

そもそも日本の小学校6年生では歴史がどのように教えられているか、教科書から学んでみようと思います。
教科書を開けてみると、
「歴史学習の基本をおさえよう」ということで、歴史を「学習」する仕方が載っています。

  1. 身近にある歴史をみつけよう

    1. 地域のフィールドワーク

      1. 時代、出来事、関係する人物をネットなどで調べてから行ってみよう

      2. わからないことが残っていたら調べたり聴いてみよう

  2. 歴史博物館へ行こう

    1. 観察して気づいたことをメモしよう、

    2. 観察して気づいたことをもとに、当時の人々の様子や今のくらしの違いなどについてじっくり考えてみよう

    3. さわったり、つくったり、その場で体験できるものがあれば、やってみよう

  3. 年表の見方を知ろう

    1. 時代とできごとをつなげよう

    2. それぞれの時代の人を調べよう

つまり、日本では、誰かが描いた「歴史」というものが既にあり、それを「学習」するというスタイルになっていることが分かります。

その時々で出てくる問いかけはアメリカの授業とさほど変わらないように感じます。
例えば、
−縄文時代と弥生時代の想像図を見比べながら話し合い、米作りが始まったことで、人々のくらしや世の中は、どのように変わっていったのでしょうか。

「新しい社会6 歴史編」東京書籍、P12 


「新しい社会6 歴史編」東京書籍、P13 

このような問いに答えるようにして、ノートをまとめていくと良いのかも知れないと思いました。

ーーー
例えば、
Q米作りの広がりによって、ムラの様子はどのように変わったのでしょうか?
A1.村の指導者は強い力をもつようになった→後に「豪族」と呼ばれる。
なぜ分かったかというと、
例えば、1〜3世紀ごろの弥生時代後期のものと思われる遺跡が佐賀県吉野ヶ里町に出現しました。その名も吉野ヶ里遺跡。
復元された吉野ヶ里遺跡を見てみると、
村の周りに大きな二重の堀やさくが創られていることが発見されたのです。

縄文時代になかったこの堀や柵が創られた理由は、この時代に、食料を貯蔵できるようになり、倉庫に蓄えられた食料や種籾、鉄の道具、田や用水を巡って、むらとむらとで喧嘩が起きるようになったからではないかと言われています。

喧嘩にまけないよう、むらを守るリーダーは強くなったと考えられます。

A2.更に、リーダーは強くなるために中国や沖縄、出雲地方と交流し、技術や文化を取り入れたとも考えられます。
それは、吉野ヶ里遺跡からは、中国から伝わってきたと思われる鉄器・青銅器、麻や絹でつくった布、南のビーチで取れた貝で創られたブレスレットなどが見つかったからです。
ーーー

こんな感じでアメリカの学校同様、過去の社会を解き明かす「探偵」となり、その答えをまずは教科書から見つける。
それをノートに書くのがしんどかったら、とりあえず日本語で入力しながらまとめていくようにする。

というのでも、まずは日本の歴史に興味をはせられる様になるかも知れないと思いました。


探偵となり、教科書を読み解く。
NHK for Schoolでその時代の動画を見る。
余裕があったら、Flashcardなどで歴史上の人物、地名などの知識の定着を測っていく(これ、漢字リズム音読でできたら楽しそう)
チャレンジタッチの問題を解いていく。

こんな流れでやっていこうと思いました!

4.まとめ:歴史の「学習」を歴史の「探究」に転換するコツ

アメリカの中学校での歴史の学び方と、日本の小学校の歴史の学び方(教科書より)を比較してみると見えてきたのは:

共通点:
各単元で探究する問いが明確にあるということ

メジャーな差異点:
「歴史」を「学習」するのか「探究」するのかの違い
今の社会で見られる同じ構造を見つける視点

はじめに掲げていた問いへの今のところの答えは

①なぜ、日本の社会の教科書が読めてもアメリカで社会を学んでいる長女の頭に知識が入ってこないのか。

もちろん、知らない語彙や文脈、漢字などがあることも考えられますが、今回アメリカの歴史の学び方と日本の教科書の書き方を比較して見えてきたのは、日本の教科書の文章の順番がアメリカの知識の入れ方と逆になっているからではないかと思いました。

例えば先程の、「むらからくにへ」という単元で掲げられている問いは
「米作りの広がりによって、むらの様子はどのように変わったのでしょうか」です。

「新しい社会6 歴史編」東京書籍、P16 


にもかかわらず教科書の書き出しは、吉野ヶ里遺跡の二重の堀やさくの話しから始まるので少しややこしく感じるのかも知れないと思いました。

Qむらの様子はどのように変わったのか
A堀やさくができた。

ではあまりピントこないのかなと感じました。なぜなら、これは根拠の部分に当たるからだと思います。

知識の提示の順番を少し変えるだけでも「学習」から「探究」に変えていけると気づきました。


②どうしたら日本の社会を彼女にとっても面白いものとして頭に入れていけるか

日本の社会の教科書を読みながら歴史の勉強をしようと思うと、歴史の「学習」になりがちです。

しかし、今回分かったことは、日本の社会の教科書にも、その単元を掘り下げていくためのメインとなる「問い」は明確に示されているということでした。

つまり、日本の社会の教科書を読みながらも、アメリカ同様、「探偵」に慣れるのです。

そして、問いを解くクルーは教科書にまとまっているという素晴らしさ。

ちょっとした工夫で日本の歴史の勉強も「探究」できると思いました💡

つまり、
教科書に提示されている「問い」を読み、
その答えを探してく形で
教科書や
NHK for Schoolなどを見る

という方法です。

そうすると、アメリカの学校での学び方とさほど違いなく学んで行けるのではないかと思いました。

日本の社会の教科書を軸に、
学ぶ内容を
- 社会の仕組みがどう創られていったか、
- 歴史上の人物は社会をどう良くするために、どんなことをしたのだろうか。
−なぜ、日本の歴史を学ぶ上でこの人物がこんなに大きく取り上げられると思うか?

などを中心に探究していけると感じました。
今の社会との繋がりも考えられるとなお良し!

「学習」から「探究」へをキーワードに、しばらくすすめてみようと思います。

そして、日本に帰国した時には、歴史博物館や遺跡などに行ってみようと思います!


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