あなたの温もりに触れたから
わたしが本名ではないハンドルネームを使ってネットの世界に身を置くようになったのは、いつからだっただろうか。
もう思い出すこともできないし、これまでいろいろな匿名性の高いSNSを使ったことがあったけれど、ほとんどのものは長続きしなかった。
———だけど、noteを始めるよりも前から今もずっと、使い続けているメッセージアプリが1つだけある。
そのアプリに出会ったのは、大学2年生の頃だった。
その前に使っていた他のアプリの男性ユーザーが出会い目的な人ばかりなのに辟易したわたしは、アカウントを消し、違うアプリを使おうと探していた。
TwitterやFacebookと連携する必要はなくて、顔写真もいらなくて、思ったことを思ったままに書き込める、出会い目的の男性ができるだけ少ないもの。
アプリの紹介文やレビュー等を細かく見て、たどり着いたのが、今も使っているそのアプリだ。
使い方はTwitterとほぼ同じで、思ったことを書いて投稿すると、「共感」という、Twitterでいうところの「いいね」がついたりする。
自分も他の人のメッセージに「共感」することができ、そういったやり取りが続いた人とはフレンドになったりする。
———だけど、このアプリには、Twitterとは大きく異なった点がいくつかある。
まず、自分が投稿したメッセージは、24時間経つと他のユーザーが見ることはできなくなる(マイページ上では過去の投稿も遡ることができるが、そのページを見ることができるのは自分だけ)。
そして、ほとんどのSNSが自分からフォローの申請をする仕組みになっているのに対し、このアプリにはフォロー申請の機能はなく、何回か「共感」の交流をした人が“勝手に”フレンドになっているのである。
それぞれのユーザーに何人のフレンドがいるのかがプロフィールに載ることもない。
何より、6年使った今でも驚きなのが、出会い目的なユーザーがほとんどいない。
運営さんの管理がしっかりしていて、ルールに反した使い方をしているユーザーはちゃんと弾き出されるようになっているようなのだ。
ただ、他の人の書き込みやアプリのレビューを見ると、出会い目的の人が…と書いている人も稀に見かけるから、わたしの運が良い部分もあるのかもしれないけれど。
———そんな奇跡のように居心地の良いこのアプリで仲良くなったあるフレンドさんが、今年から入社した職場の環境に悩んでいる様子だった。
傍から見るとどう考えても劣悪だし、働いているご本人も心身ともに疲弊していて、不調が体調にも表れている。
このままこの子を放っておいて良いことなんて一つもない。
ボロボロになった身体と心を見ないふりをして働き続けた結果、休職することになったのは、他でもないわたしだ。
わたしは、彼女の投稿からチャットを開くと、自分の経験も綴った上で自分の考えや思いを伝えた。
出来ることなら、完全に潰れてしまう前に逃げた方が良い。あなたの身体と心の安全が一番だし、あなたの年齢で一回目の転職なら、選択肢はあると思うから、と。
すると彼女は、体を休められるように動いてみます、と返信をくれた。
———それから、2週間ほど経っただろうか。
久々にアプリを開くと、彼女からチャットが届いていた。
無事に会社を退職することができたため、これからはしばらくゆっくり休むとのことだった。
彼女が心と身体を休めることができる状況になったことに安心すると同時に、あなたの言葉に背中を押されました、という彼女の言葉に、心がじんわりと温かくなるのを感じた。
わたしの言葉が、辛い思いをした経験が、少しでも彼女の力になれたのだ、と。
このアプリを使い始めてから今まで、いろんな嬉しいこと、悲しいことがあった。
思いを書き込む度、いろんなフレンドさんが「共感」をしてくれたりチャットで寄り添う言葉をかけてくれたりして、多くの人の優しさや温もりに、幾度となく助けられてきた。
このアプリを使っていて良かったな、と思う瞬間は、これまで何度もあったけれど。
やっぱり今回も、使い続けていて良かったと強く感じた。
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