暑くて熱い立喰い蕎麦屋

今日は昼過ぎから飲みに行く予定だった。

子供達を保育園へと預け、家で暫く仕事を進める。待ち合わせの時刻は1530時ということだったので、少し早めの14時前に出発した。

店に着いたのは15時前だったので、今のうちに何か腹に入れておこうと思い立った。そういえば朝から何も食べていない。こんな状態で飲み始めるのは危険である。

待ち合わせ場所の店から2分ばかり歩いた場所に、以前よく通っていた立喰い蕎麦屋があるのを思い出すと、暑い中を歩き始めた。すぐに蕎麦屋へ到着し、セルフの水をコップに注ぎ、小銭をカウンターに置きながら蕎麦を発注した。

ほどなくして眼前に置かれた蕎麦は、暑い店内で熱そうな湯気を上げていた。こんな日だからこそアツアツの蕎麦をすすりたい。私は卓上の七味をバサバサと振りかけ、一心不乱に蕎麦を掻き込んだ。

その間、カウンターの向こう側では外国人従業員と店の大将が話をしていた。外国人従業員は若い女性であり、学生くらいの年頃に見える。顔立ちからフィリピンあたりから渡ってきたのだろうかという感じであり、少々のぎこちなさはあるものの、達者な日本語で会話をしていた。

一方の対象はというと、見るからに頑固そうな強面のオジサンであり、ヘマをした従業員に怒号を飛ばす姿も何度か目にしたことがある。それでも、客に対しては丁寧に対応しているし、私も通い詰めるうちに顔を覚えられ、注文を先回りしてくれるようなことも少なくなかった。

そんな二人は天ぷらの在庫やら何やらの話をしていたのだが、それは聞いていて非常にヒヤヒヤするものだった。大将が皮肉を言っても無邪気に笑って明るく返しているし、その上ため口で渡り合っている。しかし大将はそんなことを気に留める様子もなく、蕎麦を茹でながら笑顔で会話を続けている。

やがて一人の客が入店すると、国籍不明の彼女は元気に「イラッシャイマセー」と声を出し、テキパキと金銭の授受を済ませ、同時に注文内容を復唱して大将へと伝えていた。その様子は一目見るだけで「デキる…」と感じさせるものであった。

きっと彼女は優秀で心強い戦力なのだろう。きっちりと仕事をこなしてくれる限り、多少の失礼な振舞には目を瞑るのが大将の方針なのだろう。

それにしても、日本で働く外国人には優秀な人が多いのではないか。まず難解とされる日本語を習得する必要がある上に、過剰とも言われるようなサービスも学ぶ必要がある。文化や地域性をイチから学ばなくてはならないケースもあるだろう。仕事を覚えるのは、それら全てが一通り身についてからのことである。

それなのに賃金は安く、他に活かせる才能が見出される前に使い潰されるという例も多いだろう。本人たちが幸せであればそれで良いのだが、彼ら彼女らの心中は如何なるものか。

そんなことを考えながら馴染みの味に身を震わせていた私だったが、他人の心配をしている場合ではない。明日は我が身と身を縮ませるようにして退散した。

それから九時間飲んだ。

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