土の螺子(ねじ)
夏の暑い日、なかよしな姉妹が歩いていると、道に円形の金属が埋まっていました。
「これはなあに?」
ちびっ子が手を繋いでいるお姉さんに聞きました。
「これはね、螺子(ねじ)の頭よ。土をとめているのよ」
「え? どうして?」
「それはね、……。
『むかしむかし、あるところに。
やさしくて物静かな、本が大好きな一人の女の子がいました。
女の子は、ひとりぼっちの身で、村のいじわるっ子たちから、暗い子だといじめられていました。
女の子は、悲しくて悲しくて、ひとりぼっちでした。そして、本をたくさん読むことで、悲しみを紛らわしていました。
ある日、本の物語に出てきたタイムマシンを作ろうと思い立ちました。村中からがらくたを集めて、螺子(ねじ)やバネやなんだこりゃというものまで、集めていました。
いじわるっ子たちは、いよいよ女の子を馬鹿にしました。
「やあい。がらくたっ子!」
それで、言い返せない女の子でしたが、タイムマシンを作るのに、がんばりました。
理由は、女の子は家族に会ってみたかったからです。
春がきて、夏がきて、秋がきて、冬がきて、また、春がきて。
ある夏の日、やっと完成しました。
何だか、たいそうちぐはぐな感じの機械です。
上部は大きくて、下部は車輪。横はくびれてて、少しうすっぺらでした。
前へ動かすと、がくんがくんと、やや滑らかに上下します。
「やっと会える……」
女の子は、そっと乗り込みました。
するとそこへ、いじわるっ子たちがやって来ました。
「やあい! そんなおんぼろでどこ行くんだ? そこの川原にさえも、行けないさ。ハハハハ!」
そして、女の子をタイムマシンから退けて、デタラメに動かし始めました。
ガコン! ガダン! バババババ!
「やめて……」
女の子は、悲しくて、涙をこぼしました。
落ちた涙は土へしみました。
すると、女の子は、スッと消えてしまいました。
「?!?!?」
恐ろしくなったのは、いじわるっ子たちです。
あわてて、タイムマシンから降りようとします。
ところが。タイムマシンから降りようとすると、タイムマシンがガコンガダンと暴れて、降りられません。
「助けてえ!」
いじわるっ子たちは、大泣きをしました。
その涙が土に落ちると、いじわるっ子たちも、スッと消えてしまいました。
残ったのは、女の子の作ったタイムマシンだけになりました。
騒動に気がついた村の衆は、村中を捜索しました。
数日後、いじわるっ子たちは、元のタイムマシンのそばで見つかりました。
どこへ行っていたのか、聞きましたが、いじわるっ子たちには、誰にもわかりませんでした。
なんでも、記憶が飛んでしまったように、気づいたらタイムマシンのそばで震えていたそうです。
女の子の行方も、誰にもわかりませんでした。
村人は、女の子の作ったタイムマシンを、慎重に分解しました。
そして、タイムマシンの一番大きな螺子を引っこ抜いたとき、地面が大きく揺れて、めくり上がるようになりました。
あわてて、その螺子を、地面に押し付けると、地面が落ち着きました。
それで、ここは今も、土を螺子でとめていると、語り継がれているということです』
……ということなのよ」
「へえ~! それ、本当?」
「うっそよ~!! 作り話よ~!」
「え~! もう~! うそつきぃ~!」
あははあははと笑う2人は、夏の道を楽しそうに歩いてゆきました。
『ところで、タイムマシンを作った女の子はどうしたのでしょうか。
実は、家族に会えました。タイムマシンは、成功だったのです。
その、女の子というのは、実はさっきおしゃべりしていた、お姉さんです。
だけど、これは、内緒です。
だって、もしもタイムマシンの秘密がいじわるっ子たちにわかったら、この幸せもいじわるされてしまうかもしれませんから。
今日も、姉妹は、家族のもとへ帰ります。
螺子のことは、内緒にしておいてくださいね。
いつまでも、幸せで暮らしていたいのです。』