【エッセイ】土曜日の喫茶店で出会った素敵なおじ様とのお話
西加奈子さんの小説『くもをさがす』の後書きにあった大好きな言葉。
それでも、私は今回、先日あった素敵な出会いのお話をここに残したいと思う。
あの時、私の背中をそっと押してくれた、名前も知らないおじ様に感謝の気持ちが届きますようにと願いを込めて。
「将来が不安」
そう口にすると、よく言われる言葉がある。
「20代ってそんなもんだよ」「若いね」「考えすぎだよ」
自分から弱音を吐いておいて図々しい限りだが、決まって私は「ケッ!!ウルセェ!ソンナ言葉デ私ガ騙サレル思ウナヨ!」と思い、でもそれが相手に伝わってしまわぬように心を殺してニッコリする。
私は、都内でOLをしている。よくいる25歳だと思う。
仕事はあるし、私には大好きな友人が沢山いる。皆、毎日を頑張って生きていて、自分を持っていて、エネルギーに溢れた素敵な友人だ。
でも、時折、自分が周りから切り離されたようなそんな感覚に陥ることがある。
大人になりたいがなりきれない。いつまでも子供のままではいられない。それでも、人生を生き抜くには、あまりに未熟な精神を持つ、そんな25歳。
中でも、6月の私は、仕事が上手くいかず、そのマイナスを引き摺り、休日やプライベートも楽しめず、日々自分の無力さと怠惰さに落ち込み、それはもう大いにBADの渦中にいた。
悶々とする中で、とある喫茶店で素敵なおじ様に出会ったのだ。
その日、鬱々としていた私は、喫茶店に入店し、カレーを注文しながらボーッとしていた。
「煙草吸っても大丈夫ですか?」と声がしたので、顔を上げると、白髪にスーツを着たダンディな、でも穏やかそうなおじ様が点火前のタバコを片手にこちらを覗いていた。
どうぞと声をかけると、おじ様は「ありがとう」と言って、そのままこう続けた。
「今日、近くで古い同級生と会っていてね。気分がいいから誰かと話したいのだけど、少し付き合ってくれないかしら。」とのことだった。
いつもの私なら断っていただろうが、非日常の喫茶店がそうさせたのかもしれない。おじ様の提案を快諾し、注文の品ができあがるのを待つ間おしゃべりを楽しむことにした。
どうやら、既に広告業界を引退された方らしい。偶然にも自分と近しいお仕事をされていたこと、お話の中でオススメしていただいた音楽がどれも素敵なこと、何より初めの印象通り、穏やかで優しい口調のおじ様自身がとても素敵で、気づいたら長く話し込んでいた。
話の流れで「おいくつですか?」と聞かれたので、「25歳です」と答えるとおじ様は「若いね〜〜」とニコニコした。
冒頭で少し触れたように、6月頭の私は仕事でひどくメンタルがやられていて、毎日が真っ暗だった。どうってことのない毎日なのに、周りが輝いてみえて、毎日を頑張っている人を見るほど、自分がそこから切り離されてるような感覚の中を漂っていた。
お酒も回ってきた(夜の喫茶店だったので実はお酒も飲んだ)ので、思わず、「25歳の頃悩みとかありましたか?」と尋ねると、「君はいま悩んでいるんだね」とジッと私の目を見つめて尋ねた。
私は、おじ様の優しい目線に絆され、自分が何をやりたいと思っているのかさえ分からないこと。将来が見えず、不安でたまらないこと。毎日何かに焦っていること。をポツポツと話してみた。
おじ様は、私の捻くれた心さえ見透かしたように、静かに耳を傾けてくれ、そして話し始めた。
「僕が、25歳の頃は、自分のキャリアと本当はやりたいことの狭間で揺れていた。一生仕事が上手くいく気配はなかったし、毎日を過ごしていても、凄く鬱々としていたんだよ。」と。
そして、ゆっくりとこう続けた。
「今抱えてる悩みや将来への不安は、簡単には無くなるものではないし、この先も続くと思う。ただ、25歳の悩みに答えなんて出さなくていいと僕は思うんだ。
沢山悩んでいい答えなんかでなくていい、そんな歳で世界を達観してしまったら面白くないよ。
ただ沢山悩んで、今目の前にあることを必死でやって、それでも現実が受け入れられない場合、撤退するのも選択の1つとして覚えておくといい。
撤退することは逃げじゃないんだよ。
前を向き続けなきゃと思うけど、前を向くことだけがが全てじゃない。前向きな撤退もあるということを覚えておいてね。
そして、書くといい。25歳で悩んだことはいつか財産になるから。」と。
正直言うと、ありふれたアドバイスかもしれなかった。
ただ、そこには、人生を全力で生きることを楽しんできた人の言葉の重みがあった。
簡単には人は変われない。
私は2ヶ月経った今も、ウジウジ悩むし、変わらず時折、孤独感に襲われて、自分の大切なものを正しく大切にできているのか不安になる。
それでも、このおじ様の言葉は、私が不安の中、これ以上腐らずに毎日を生きる理由になった。
目の前のことをコツコツこなすことで、微量ながら、仕事も好転し始めた。
「このまま考え尽くして、思いついた解決策をとりあえず実践してみよう。大丈夫。答えなんてゆっくり見つけたらいい。」
悩んだ時は、そう唱えることで、少し前を向きやすくなった。
あの一瞬、ほんの一瞬話を聞いてくれただけなのに、どこの誰かもわからない甘っちょろい若造の話を決して軽く見ず、静かに受け止めてくれたことが、何よりも有り難かった。
その日、おじ様とは、名前も明かさず、握手だけしてお別れした。この感謝の気持ちがあの握手でどれほど伝わったのかわからないが、25歳の私の心を軽くしてくれたおじ様のことを私は忘れたくないと思う。
私は頑張ります。
その節は本当にありがとうございました!
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