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人事評価を給与に反映したら逆効果?給与連動の落とし穴
「頑張った分だけ給与に反映すべき!」
多くの企業では「評価に応じて給与を決めるのが当然」という考え方が採用されています。
一見すると、従業員の努力が正しく報われ、社員のモチベーションが上がる仕組みに思えます。
しかし、本当にそうでしょうか?
人事評価と給与の関係は慎重に設計しないと、逆にモチベーションを下げたり、組織の成長を妨げたりすることもあります。
過去、私自身が経験したり目撃した事例をもとに詳しく考えてみましょう。
■落とし穴①:評価が給与に"しか"影響しないと思われ、組織がギスギスする
人事評価は、本来給与だけでなく、昇進や異動、教育機会の提供など、さまざまな形で反映されるものです。
しかし、評価の結果が給与の増減ばかりに注目されると、「評価=給与のためのもの」という意識が強まり、それ以外の重要な要素が軽視されてしまいます。
評価を給与決定のためにしか使わなかった場合、例えば社員への成長支援やキャリア形成の視点が抜け落ち、「とにかく給与を上げるために頑張ろう」という意識が強まってしまうかもしれません。
その結果、自己成長への意欲よりも、評価(給与)を巡る競争が過熱することで、組織内の雰囲気がギスギスする可能性もあります。
もちろん、実際はそんなに物事は単純ではなく、評価が給与に影響することも重要ではありますが、給与だけに偏らないようにすることが大切です。
評価が昇進やキャリアパス、スキル開発につながることを明確に伝え、社員が自身の成長のために評価を活用できるようにしましょう。
たとえば、「評価の高い人にはリーダーシップ研修の機会を提供する」「特定のスキルが評価されると、希望するプロジェクトにアサインされやすくなる」といった仕組みを整えることで、評価の意味を広く理解し、前向きに活用できる環境を作ることができます。
■落とし穴②:「何がどう連動しているか分からない」
人事評価を給与に連動させる場合、多くの従業員が抱える関心は
「どんな頑張りが評価されるのか?」
ということではないでしょうか。
しかし、評価が給与にどうつながるのかが不明確だと、社員は自分が努力している方向性が合っているのか分からず、不安に感じてしまうことがあります。
特に、自分の努力がどう評価されるのかが見えないと、モチベーションが下がってしまうことにもつながります。
私もかつて営業職だった頃。
評価と給与が連動すると言われて、その一年は猛烈に頑張ったことがあります。結果は目標達成率200%。
「これで給与も大きくアップだ!」と思っていたのですが、実際に上がった額は予想よりもずっと少なかったのです。
理由を聞いてみると、「あなたが担当した案件は周囲がサポートしてくれたから」「その案件は難易度が低かった」と言われ、すぐに自分の頑張りがどう評価されたのかが分からなくなりました。正直、すごくモヤモヤした気持ちになり、モチベーションが一気に下がってしまったのを覚えています。
その時の上司に否があるかと言うと、そうではありません。むしろ、会社全体の仕組みとして、評価基準を明確にして、それがどれだけ給与に反映されるのかが明文化されていないことが原因ではないかと思います。
そして、上司と部下との目標設定面談で、しっかりと基準を伝えることが、実はものすごく大事だということです。
例えば、「新規顧客獲得数」「売上の達成度」「チームへの貢献度」など、具体的な指標を示し、その成果が給与にどれだけ影響するかを伝えることで、社員は自分の努力がどこに向けられているのかを理解でき、安心して頑張れるようになります。
もし「何を頑張れば評価されるのか」が分からないまま働いていると、どうしても不安やモヤモヤが残りますよね。それが続くと、どんどんモチベーションが下がってしまう。
だからこそ、評価と給与を連動させる際は、まずはその評価基準をきちんと伝え、社員が納得できるようにすることが大切だと実感しています。
■落とし穴③:業績が悪くても「頑張った分は報われるべき」のジレンマ
人事評価と給与を連動させる場合、一番の悩みどころは、業績が悪化したときにどう対応するかという点です。
業績が悪い時でも「頑張った分は報われるべきだ」と思うのは、誰でも感じることだと思います。
しかし、企業の業績が振るわないときに、頑張った社員にどう給与を支払うかという問題は非常に難しいものです。
企業が思うように売上を伸ばせなかったり、全体の業績が低迷している時には、キャッシュが限られてしまいます。
その中で、評価と給与が連動している場合、頑張った社員には相応の給与を支払わなければならないというジレンマに直面します。
例えば、売上が下がっている企業で高評価を受けた社員がいたとしましょう。
その社員が以前と同じように高い給与を支払われていたとすると、他の社員はどう思うでしょうか。
「あの人はこんな状況でもしっかり成果を出していてすごい。もらって当然だ」こう思う人はいるでしょう。
一方で、「業績が悪いのに、なぜ?」「苦しい今こそ、一致団結すべきでは?」と疑問の声が上がることもあるかもしれません。
このような、業績低迷のときはなおさら、社員間で不公平感が生まれ、モチベーションが下がる可能性もあります。
この問題を避けるためには、業績に応じて評価の仕組みを柔軟に調整することが大切です。経済的に厳しい時期でも、社員の成果に対してある程度報いる仕組みを整え、評価と給与のバランスを上手に取ることが重要です。