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47歳、初めての会社勤め

経緯はここに詳しいけれど、1年2ヶ月の会社勤めを、昨日、卒業してきた。

もともとフリーランスで長く働いてきた身だ。決まった時間に起き、出かけ、決まった時間に仕事が始まり、その後は夜まで自由がきかない、そんな生活が長く続くことは、ほぼ初めてだったんじゃないかと思う。

最初のうちは、自分のメンタルを保つことに必死だった。私の中にはどうしても、「望んでいたフリーライターとしての能力が限界を迎えたので、それを手放して、食い扶持のための仕事に就かなきゃいけない」という悲しみが、ずっと居座っていたからだ。これからの日々を愉快に過ごすには、その悲しみを大きく超えるほどの「幸せ」を見つけなきゃいけない。

それはもう血眼だった。

まず見つけたのは「メイク」だった。毎朝、それをしなくてはいけないし、昼休みや午後休みに、そんなに念入りに「化粧直し」ができるような職場でもない。そうなると「きれいで長持ちするメイク」を必然、探さなきゃならない。掘れば掘るほど、どんどんおもしろくなった。YouTubeさんにめちゃめちゃお世話になった。

それから、「決まった時間に決まったことをする」という生活自体が新鮮だった。同じ時間に身支度をととのえ、radikoでTBSラジオを聞きながら家を出ると、毎曜日、同じ番組の、同じコーナーが流れる。その安心感たるや、ものすごいものがあった。体調もよかった。生活にリズムができて、ちょっとだけ痩せた。むふ。

そして最後の勤務日の、最後の1時間。山のような紙資料を段ボールに整理していたら、隣席の女子が目をまんまるくして「オガワさん、辞めちゃうんですか……?」って言う。どちらかといえば控えめで、そんなに話し込んだわけでも、意気投合したわけでもなかった子だ。そうなんですよー、お世話になりましたーって笑って言ったら、「知らなかった……」ってちょっと固まっておられる。

そしたら、帰りぎわ。別の先輩にごあいさつしていたら、彼女がちょうど通りかかって言うのだ。

「オガワさん、チョコ、食べませんか!」

そして彼女はかばんの中からチョコを取り出し、先輩に1粒、私に3粒くれた。

「えーー、不公平じゃん!」と先輩。「○○さんは明日も明後日も来るでしょ!」と彼女。

なんだろう、ものすごく、いい景色だ。

最後。社員証を返すために、直属の上司と話す。とても声の小さい人なので、だいたいのことがうまく聞き取れない。でも、ひとつだけ、ちゃんと聞こえたことがある。

「僕は、オガワさんが、僕の周知文にひと言くれたことを、忘れません」

そう、ちょうど1年前、GWの手前のある日。彼がみんなに配った連絡事項の冒頭が素晴らしかったのだ。この部署の、どこにいるどの人に対しても、「いつもありがとう」を伝えようとしていた。そのことを彼に伝えたら、「うわあ……」ってため息をついたあと、「見ててもらえるって、すごいことですね! なんか強くなれる!」って言ったのだ。

まあ、そこからとくに何らかの急展開があるわけでもなく、今日まで至ったわけだけれど、でも、そうか。彼にとっても、あれはだいじな一瞬だったんだな。

……。

うれしい! そして寂しい!

いかんいかん。人に思いを残しちゃいけない。長く続く居場所や人付き合いを持たずにきた私の、これは最大の処世術。

一夜明けて、晴れ渡った朝。むしろいつもより早起きしちゃいながら、どうか、みんなが、この非常時を元気に乗り越えてくれることを心から祈る。すぐに次の仕事が見つからない私は、しばらく、自宅生活を楽しもうと思う。それに備えて、ウクレレを買った。ぽろんぽろんと爪弾きながら、お昼は焼きそばにしようかなーって思っている。(2020/04/29)

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