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人並みに働くって大変ね

週4だった派遣仕事を、週5に増やそうとしている。

ライター職を完全に失って半年、蓄えをちょっとずつ切り崩してきたけれど、そろそろ先が見えてきた。この歳でゼロから副業探しもちょっとキツい。今している仕事を増やすのが一番現実的な気がしたのだ。

派遣会社にその旨を申し出て数日、上司に呼ばれた。

まず、「私達の、オガワさんと働きたい気持ちは、相当なものです」と言われた。勤怠も良好だし、コミュニケーション力も申し分ない。ただ、彼女が確かめたいのは「オガワの週5勤務はこれからずっと続くのかどうか」だった。

週5勤務を始めたところで、「やっぱり無理でしたー」みたいなことにならないかどうか。短期的なおつもりなのか、長期的なおつもりなのか、聞かせてほしいと言われた。

これはあれだ、私の「おつもり」を、全部お話したほうがよさそうなやつだ。何しろ私はここの人たちに、嘘をつかないと決めている。

もちろん、これからずっと勤め続けたいのが私の「おつもり」です。ただ打ち明けてしまうと、長年フリーランスでやってきたので、週5回、9時5時で働くのが、なにしろ初めてなんです。そのことへの不安と緊張は動かしがたく居座っていて、でもこれは私の超個人的な問題なので、私がこれから克服することだと思っています。

上司は、私が「無理」をすることを恐れているようだった。「先輩がたの手を、どんどん借りてね」的な締めで会談は終わった。

伝えるべきことは伝えた、と思った。私のやる気、私の不安。相反するふたつの気持ち。それを踏み越えて頑張らねばと思う気持ち。

それが、だいたい1週間前のことだ。

そして昨日。こんどは派遣会社の担当さんから、携帯に電話がかかってきた。彼女は言う。

「派遣先から、確認したいと言われたことがあって」

はいはい、何でも答えます。すると彼女は続けたのだ。

「今回の、週5回勤務は、いつごろまでのおつもりですか。これからずっと、続くものですか?」

週5勤務を始めたところで、「やっぱり無理でしたー」みたいなことにならないかどうか。短期的なおつもりなのか、長期的なおつもりなのか、聞かせてほしいと、ふたたび、言われた。

派遣担当さんとやりとりしているのは、先日私が会談をした上司だ。ああ、あれだけ言葉を尽くしてもなお、ネックはそこなのだと思った。

派遣担当さんにも、同じことを話した。不安だし緊張はするけれど、それは私の問題なのだと。それでもこれから先、未来永劫、週5回働きますと言い切ることが必要なのなら、それを目指してがんばります、としか言いようがない。

「そんなに重く考えなくていいんです」と彼女は言う。それでも彼女は、同じ質問を繰り返す。「オガワさんの週5の希望は、これから先も、続くものですか?」

私はもう、わけがわからなくなっている。「重く考える必要はないけれど、それでも『これからずっと勤めあげます』と宣言すべし」と彼女は言う。なぜかというと、その点について先日あんなに理解を交わしたはずの私の上司から、そこを確認したいと言われたからだ。

おかしいな。話が通じなさすぎないか。ぷつん、ぷつんと泡のように、それらの思いがはじける。

何でもいい、何らかの仕事に週5で就いている皆さんは、こんなにも心の底の残り一滴まで、あからさまにして、突き詰めた上で、そこにおられるんだろうか。あらゆる不安をひた隠しにして、病気や怪我をする可能性も封印して、「未来永劫勤め上げます!」って宣言して、その仕事をしておられるのか。

すごいな。尊敬する。

「くれっっっっぐれも無理をしないでね!」と言われながら、「これからずっと勤め上げます」の宣言を求められる。この矛盾は、私が見て見ないふりをしたら、いったいどこへ行くんだろう。

みんなが就職すべき時期に就職できず、そのまま20有余年をごまかしごまかし生きてきた私は今、おそらくみんなが何らかの時点で受け入れたのであろう矛盾に、今なおひっかかり続けているのだ。(2021/09/23)

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