【夫婦巡礼】無職の夫婦が800km歩いてお店を出す話【旅物語】⑭
巡礼7日目(2)
ロスアルコス ~ ビアナ ~ ログローニョ
■世界は言葉に溢れている
巡礼中に見つけた言葉。
「If you are wondering where I'm going.Don't worry, I'm asking myself too!!」
どこに書いてあったよ!と言う話ではない。単純に僕が出会った、心に響いた言葉。
道の途中、所々誰かが言葉を残している。
きっとそれらは誰もが見付けられるわけではないのだと思う。その時のその人の気分と感情で、アンテナにかかったときに出会う。
言葉はそれを求める者に差し伸べられる。
その意味は、ある人にとっては励ましかもしれないし、別のある人にとっては注意喚起かもしれないし、また別の人にとっては救済の言葉かもしれない。あるいは、人を傷付ける事だってありうる。
僕にとってのこの言葉は勇気だった。
誰もが何かを求めて道を歩くのだ。その言葉を受け取った時、僕は少し肩が軽くなった気がした。
歩く旅だから、立ち止まることができる。
ゆっくりと、向き合うことができる。
一つ一つの出会いを大切にするために、感性を磨きたいと思った。
■アルベルゲにて
ビアナからひたすらに道を歩き、エブロ川を越えたところでログローニョへ着いた。
あぁ、随分足が痛い。足裏のマメがどんどん増えて、歩く度に焼けつくようなヒリヒリとした痛みを感じる。
いくら体育会系で鳴らした僕だって、こう二日も三日も歩く度に痛むんじゃあたまらない。良いとこ快感と苦痛が6:4ってとこだ。
反対に今日も妻は元気だった。ここまでで一番快調に歩いたと言っても過言ではない。
元気に一番乗りでアルベルゲへ到着すると、可愛い三姉妹と小さな犬が迎えてくれた。最年少のホスピタレロに、「オラ♪」と挨拶する妻もご機嫌だ。
いつも通りのルーティーン。シャワーと洗濯。もう随分慣れて、二人の手際も良くなった。
アルベルゲのメッセージブック。たくさんの巡礼者達の言葉が並ぶ。妻もしっかり書き残していた。次来たときも、まだ残ってくれているだろうか?
部屋のベッドの上では、もう既に到着していた巡礼者達が何人も休んでいた。
横になって寝ている者、痛々しいまでにテーピングをしている者、読書する者様々だ。ただ、間違いなく序盤よりも辛そうな様子の人は増えていると思う。
これだけ大きな街に来て、観光もできず、バルにもレストランにも行く体力も無くなってもう動けないーと言う旅人が一定数いる事実に、「楽しいだけではない」巡礼の旅の厳しさを見た気がした。
■ログローニョ散策
僕達は、街に散歩に出ることにした。
パンプローナでは喧嘩していたから、仲良く大きな街を散歩できるのはここが初めてかもしれない。(小さな街では二人で出掛けたことはあるけど)
ログローニョはアルベルゲや大聖堂があるの旧市街が主な行動範囲になるけど、ちょっと歩くと近代的なエリアがある。リオハ州の州都だけあって、やはり大きい。
今日が日曜日と言うこともあり、街はたくさんの人で溢れ返っていた。広場には所狭しとテーブルと椅子が並べられ、皆昼間から歌って飲んでいる。
家族で食事していたり、仲間同士で飲んでいたり、カップルでデートしていたり、教会では結婚式が行われていた。思い思いの時間を過ごす楽しげな様子は、見ていて幸せな気分になるほどだった。
今日は妻が坂を休まず登った記念もあるから、フローズンヨーグルトをプレゼント。二人で食べたけど、気温が高かったこともあって、本当に美味しかった!
■日曜日の注意点と、救済のケバブ
ただ一点注意しておく事は、スペインでは土日に店が閉まっていることが多い。
飲食店は開いていても、スーパーや薬局は閉店か、早仕舞いすることが多いから注意が必要だ。下手すると、ろくに食べ物にもありつけない。なんて事になりかねない。
ログローニョは街も大きく食べ物に困ることは無かったが、しかし翌日の朝御飯の買い出しには難儀した。それも結局、夕方にはスーパーが閉まってしまったせいだった。
それはさておき、僕達の晩ごはんは、実はもう決めていたのだった。
これだけたくさん飲食店がある中で僕達が食べようと選んだもの。それは
ケバブ
もうちょっと他に何かあるだろうと言う声が聞こえてきそうだけど、二人はこれ一択だった。
安くて、旨くて、お腹一杯になるもの。
本当にワンコインかそこらでこれでもかと言うくらいのボリュームで出てくるから、これは食べない手はない!
絶対にケバブを食べる!と息巻いた僕達夫婦は、後から到着したモモちゃんを誘い、合流して晩御飯としたのだった。
しかし、妻にしてもモモちゃんにしても、本当にその体力は素晴らしい。良く毎日これだけ歩くものだ。これで二人とも特にトレーニングをしていないと言うのだから、頭が上がらない。
モモちゃんはもうじきボーイフレンドが来るんですと楽しそうに話していた。
日本からはるばるこの道までガールフレンドに会いに来るなんて、何てロマンチックな男なんだと思った。よほど待ち遠しい様子の彼女を見て、妻と二人、また新たな出会いに胸をときめかせずにはいられなかった。
■足の異変
食後アルベルゲに戻ったあと、僕は妻とモモちゃんを残して翌朝の買い出しに暗がりの街へ繰り出した。
前述の通りスーパーは閉まっていたので、個人商店を頼りに街をうろつく。
繁華街は輝いていた。たくさんの外国人が大騒ぎしている様子は、まるで映画かドキュメンタリー番組の一コマのように思えた。
結局一時間ほど探し回りパンとリンゴを手にいれて、僕はアルベルゲに戻った。
が、帰り道どうも足の甲が痛む。
これまで足の裏ばかりを気にしていたが、甲が痛むのは初めてだ。
気にしてばかりはいられないとその時は考えるのをやめてしまったが、後々後悔することになる。これが、数日後から、巡礼の最後まで自分を苦しめる苦痛の種になるとは、この時僕は思っても見なかった。