Photo by kishimojin1969 エッセイのご紹介411 シキミの花(小黒恵子著) 8 小黒恵子童謡記念館 2022年6月11日 16:00 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回からは、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。 記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。エッセイ タイトル一覧(小黒恵子自筆の原稿より)「シキミの花」 詩人・童謡作家 小黒恵子 如月の二八日、朝の雨がやんでまさに「早春賦」の、春は名のみの風の寒さやの文句を思わせる日だった。 この日親族の一周忌があり、法要のあと墓参をした。高津区の界隈では大変珍しいうち墓である。と言っても通じない人の方が多いのではないかと思う。 屋敷のなか或は近くに、何々家一世帯の先祖代々の墓があるのだ。 広い立派なその墓地は、こんもりとした常緑樹に囲まれ、大きな見上げる木に無数のこまかい薄浅黄(うすあさぎ)の花が満開だった。 それはめったに見かけないシキミの花だった。 榊(さかき)は神さまに供える木で、梻(しきみ)《注:原文は「木」ヘンに「仏」》は仏さまに供える木である。シキミはモクレン科に属し、匂いがきつくそのうえ有害植物だそうだ。 昔土葬だった時代にシキミを墓地に植えたのは、その匂いを嫌う狼から墓荒らしを防ぐためだったと言う。 田園都市線や小田急沿線が開発される以前、その辺りはうち墓が多かった。常緑樹に囲まれて季節には、真赤な山椿が無数に落ちて、地面を飾っていたのが印象的だった。 近年東京周辺の都市では墓地の需要が激増し、その意識も多様化して、やがて公の霊園では一定の規則のもと、撒骨が認められる新たな埋葬形態まで導入される日もくると言う。 時の流れは総てを変えていく。その中で緑のうち墓は貴重な存在である。 風にそよぐシキミの花は清々しい早春の色だった。1993(平成5)年3月14日 神奈川新聞サンデーブレイク掲載の原稿 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S) ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #エッセイ #紹介 #詩人 #原稿 #墓地 #小黒恵子童謡記念館 #小黒恵子 #神奈川新聞 #常緑樹 #シキミ #サンデーブレイク 8