エッセイのご紹介406  春蘭の花咲く頃(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回からは、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

エッセイ タイトル一覧(小黒恵子自筆の原稿より)

「春蘭の花咲く頃」
                     詩人・童謡作家 小黒恵子

 四月から五月にかけて、わが家の春蘭の株の葉かげに、アミガサタケが生える。蛇か亀の頭部かと錯覚する形の、網目模様のキノコである。
 珍しいので友人に見せようと、花ざかりの春蘭の葉をかき分けた時、友人がウワッと奇声をあげた。
 蛇が群をなして飛出してくると、一瞬思ったのだそうだ。全くそんな感じのする不思議なキノコである。
 ちなみに百科事典を見ると、シノウ菌類に属する食用キノコで、外国では上等の食菌類であると言う。
 アミガサタケが生える頃になると、黄昏の空にコウモリの敏捷な乱舞が見られる。このコウモリは小型のアブラコウモリである。今時コウモリなんてと言われて了そうだが、けっこう数が多い。気がつかない丈なのだ。昔は木のウロとか神社仏閣の屋根裏が棲家だったらしいが、今この辺りでは多分、二子橋とか第三京浜その他の橋下ではないかと思う。
 コウモリは飛びながら蚊や虫を捕食するので、むかし「蚊食い鳥」と言っていた老人がいたのを思い出す。
 いま乱舞しているコウモリは、私が子供の頃にいたコウモリの子孫と思うと、同じふるさとに共存する友達として、いとおしさを感じる。
 多摩川とその周辺の緑が、コウモリや鳥や昆虫たちの、生命の源を保っているのだ。
 この美しい地球と緑と水を、本気で次の世代にバトンタッチしたいものと思う。 

1992(平成4)年4月26日 神奈川新聞サンデーブレイク掲載の原稿

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)

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